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家の中でじっとして居るのが勿体無い位の良い天気。
窓硝子越しに空を見上げ、ルキアは大きく溜息を吐く。
たった独りで居る黒崎家は、寒々しいほど広く感じた。
一護も妹たちも、夕方にならねば戻って来ない。
椅子に腰を下ろし、何気なくテレビのスイッチを入れる。
ブラウン管から溢れる人の声に気が紛れるかとも思ったが、反って人恋しさが募った。
死神の癖に可笑しなことだと力なく笑い、椅子の上で膝を抱える。
『そういえば、あの日も…』
瞳はいつの間にか空へと吸い寄せられる。
何処までも青く、澄みきった空。
―――あの夜が明けた翌朝も、空は美しく晴れ渡っていた。

意識が徐々に覚醒する。
頭の芯を揺さぶる鈍い痛みに顔を顰め、ルキアはのろのろと眼を開けた。
身体中が妙に気だるく、関節が軋む。
義骸の調子が悪いのだろうか。
困惑しながら視界に眼を凝らした瞬間、そのようなことはどうでも良くなった。
見慣れた一護の顔がそこに在った。
瞳を閉じ、眉根を寄せ、未だ深い眠りの中を漂っている。
腕は寝具越しにルキアの身体に回され、まるでルキアが逃げるのを防ぐかの様だ。
思わず身体を起こしかけ、下腹部に走る痛みに一瞬怯んだ。
恐々と己の身体に視線を落とし、パジャマの上しか纏っていないことに気づく。
刹那、鮮やかに甦る昨夜の記憶。
悲鳴を押し殺すことが出来たのは僥倖だった。
すぐにでも逃げ出したい気持ちを必死で堪え、全身を緊張させて気配を探る。
寝息に耳を澄まそうにも、狂ったような己の鼓動が邪魔をする。
が、迷っている暇は無い。
何時また此奴が眼を覚まし、厭わしい行為に及ぶやも知れぬ。
ルキアは息を殺し、そっと抱擁から脱け出した。
ベッドが軋む微かな音にすら怯えながら、急いで下着とパジャマのズボンを身に着ける。
どうにか床に降り立った時には、背中を幾筋もの冷たい汗が伝っていた。
萎えそうになる両脚を叱咤し、駆け出したくなる衝動を抑え、静かに部屋を横切る。
怯えるあまり、背後を振り返ることすら出来ずに。
ドアに辿り着くまでに恐ろしく時間がかかった気がした。
相変わらず背後からは何の物音もせず、ルキアはあと一歩だと自分に言い聞かせる。
大丈夫だ、此奴は未だ眠っている。
先ず家族を起こして、上手く言いくるめて安全な場所に避難させねば。
その後のことは…そうだ、浦原に連絡すれば良い。
汗で滑るドアノブを握った、その時。
押入れの中から、微かに伝令神機の受信音が聞こえた。
『不味い…!!』
ルキアは全身を強張らせ、背後のベッドを振り返った。

ルキアは良く闘った。
自分の何倍もある虚を相手に一歩も退かず、純白の斬魄刀を縦横に振るう。
虚は傷を負い、どす黒い血を迸らせて暴れ狂った。
しかし昨夜散々痛めつけられたルキアの身体は、既に限界を迎えていた。
攻撃をかわして飛び退る足が縺れ、無様に地面に叩きつけられる。
『しまった…!!』
倒れた拍子に斬魄刀は己が手を離れ、鬼道を放つ余裕も無い。
もう駄目かと眼を瞑った瞬間、
「…!?」
身体がふわりと宙に浮いた。
次いで一閃する太刀筋と、耳を聾する虚の断末魔の叫び。
焦って周囲を見回し、ルキアは気づいた。
自分の身体が横抱きに抱えられていることに。
…まさか。
期待を込めて見上げた視線は、しかし一瞬にして裏切られる。
死覇装に包まれた体躯は、確かに一護のものだった。
だが顔の半分を覆い尽くす仮面と、狂った光を放つ虹彩は昨日のまま。
「いや…」
ルキアの唇から零れたのは、弱々しい呻き声。
「いや…だ」
信じられなかった。信じたくなかった。
「…手間かけさせてんじゃねえよ、ルキア」
笑いを滲ませた唸り声に、投げかけられた眼差しに、恐怖だけが募る。
竦んだ身体は少しも言うことを聞かず、ただ惨めに震えるばかりだ。
「おい、折角助けてやったんだぜ?礼の一つも言えねえのか?」
持ち上がった口角の端から、鈍く光る牙が見え隠れする。
「あ…あ…」
視線を外すことも、言葉を発することも出来なかった。
たった一晩の出来事が、ルキアの心に酷い爪痕を残していた。

「そんな礼儀知らずの死神には…」
見上げる怯えきった瞳に、『それ』は笑みを深くする。
「躾をしてやらないと…なあ?」
左の腕にルキアを抱えたまま、不意に『それ』は視線を他所に向けた。
その先に在るのは、先程まで対峙していた虚の変わり果てた姿。
地面に巨体を横たえ、最早ピクリとも動かない。
一瞥して侮蔑しきったように唇を歪め、『それ』は徐に口を開けた。
瞬間、目も眩む閃光が周囲を覆い尽し、虚の姿が跡形も無く四散する。
虚閃を発したのだとルキアは知り、気づいた途端に深い絶望の淵に突き落とされる。
たった今まで、或いは一護の心が残っているのではと期待していた。
例えその期待がほんの僅かなものであったにせよ。
だが、『それ』は虚に魂葬を施す素振も無く、無惨に消滅させてしまった。
一護なら、死神の責務を理解している者なら、決してそのような振舞いはすまい。
『一護…』
ルキアは震える下唇を噛み締め、拳をぎゅっと握った。
そうしないと、泣き出してしまいそうな気がした。
『頼む…戻って来てくれ、一護!!』


瞬歩に匹敵する速度で空を駆け、『それ』は一護の部屋へと降り立った。
朝の陽射しが暖かく降り注ぐ、いつもなら居心地の良い筈の部屋。
しかしその穏やかな光景の中に在って、『それ』の姿はあまりに異様だった。
慣れ親しんだ死覇装すらも、『それ』の纏う禍々しさを助長させるものでしかない。
「そら、着いたぜ」
無造作にベッドの上に放り出された瞬間、ルキアは敏捷に跳ね起きた。
振り乱した前髪の隙間から、憎悪を込めて眼前の不気味な存在を睨み付ける。
今しがた目の当たりにした強大な、そして非情な力。
敵う筈が無いとは分かっていた。
分かっていても、むざむざと惨めに抱かれるつもりは無かった。
「へえ…闘る気かよ、ルキア?」
愉快気にくつくつと笑いながら、『それ』が足を踏み出す。
反射的にルキアは全身を強張らせ、思わず一歩後ずさった。
「よ、寄るな!!」
後ずさった途端に悟ったのは己の不覚。
不確かな足場に、身体がぐらりと揺れた。
機を逃さず『それ』が躍り掛かり、咄嗟に蹴り上げたルキアの脚を払う。
「くっ…!!」
背中から倒れ込む寸前、身体を捻ったのが災いした。
気づいた時にはうつ伏せに組み敷かれ、跳ね除けられない重みが腰の辺りに圧し掛かる。
「分かったか?てめえは、俺には敵わねえんだよ」
「だま…れ」
身体の下で空しくもがく華奢な肢体が、『それ』の欲望をそそる。
撫でてやろうと戯れに頬に手を伸ばすと、ルキアは素早く反応した。
渾身の力を以って『それ』の手の甲に爪を立て、躊躇うことなくざくりと抉る。
「くそっ!!」
慌てて手を退いたが間に合わず、滲む血の玉にルキアが未だ諦めていないと知る。
肩越しに睨む眼光の鋭さも、『それ』の怒りを煽った。

先程までの余裕などかなぐり捨て、ルキアの両腕を捕えて背中に捻り上げる。
あまりに細い両腕を制するのは片手でも容易だ。
振り向いて罵声を浴びせようとするところへ、空いた一方の手で髪を掴んで顔をシーツに埋めさせる。
「っとに躾がなってねえな…」
わざとらしく溜息混じりに呟いて、『それ』はルキアの項へと顔を近寄せた。
昨夜己がつけた傷を確かめる様に、死覇装の上から肩口に軽く歯を立てる。
「…!!」
ルキアの身体がびくりと震えた。
生々しい記憶に全身が硬直し、冷たい汗がこめかみを伝う。
流された血。刻まれた傷痕。
身体に、心に教え込まれた純粋な恐怖。
シーツに頬を押し付けられ、両手を背中で縛められ、ただ怯えることしか出来ない。
その間にも『それ』はじわじわと顎に力を込め、昨夜の傷を嬲り続ける。
開いた傷口から生温かい液体が滲み、己の死覇装を濡らすのを感じた刹那。
がちがちと歯を鳴らし、全身を震わせ、ルキアは微かに唇を動かした。
「や…止めて、くれ…」
終に漏れたのは、悲鳴にも似た哀願だった。

ほっそりとした項に舌を這わせ、『それ』は薄く笑う。
試みに両腕を自由にしても、ルキアは抵抗しなかった。
小刻みに震え、無力に組み伏せられたまま。
気高い死神がようやく見せた従順さに、『それ』は愉悦の表情を隠しきれない。
頭を押さえつけていた手の力を緩め、汗に塗れた黒髪を慈しむ様に梳く。
「もう二度と…」
項に、髪に口づけを繰り返し、『それ』はルキアの耳に囁きかける。
「歯向かおうなんて思うんじゃねえぞ」
耳朶をぺろりと舐めて顔を覗き込むと、ルキアはきつく眼を瞑っていた。
眉根を寄せ、屈辱に頬を染めたその横顔に、どうしようもなく惹かれてしまう。
「良い子にしてりゃ、悪いようにはしねえよ」
覆い被さる様に両腕を回し、ルキアの死覇装の袷に手を掛ける。
力任せに其処を押し開こうとした時、
「何故…」
弱々しく問う声に動きが止まった。
「何故、このようなことをする…?」
「…言ったろ、死神」
呟いた声は、募る激情とは裏腹に妙に冷え冷えとしていた。
「俺は…」
震える身体を背後から抱きすくめ、滑らかな頬に己の顔をすり寄せる。
「一護の本能だ、って」
耳元で囁かれたその言葉に、ルキアははっと眼を見開いた。
視界の端に映るのは見慣れた髪の色。
一護と同じ、橙色。
…ああ、そうだ。
どうして忘れていたのだろう。
此奴は、一護だ。
優しい眼差しも温かい声も、何もかもを失くしてはいても。
そっと息を吐き、ルキアは静かに眼を閉じる。

袷に指を掛けて、襟元から大きく寛げる様にする。
袴の隙間から死覇装の裾がするりと抜けて、ルキアの身体に纏わり付いた。
襦袢の帯を解いて裾を捲り上げると、新雪の如く真っ白な背が露になる。
その光景に眼を奪われながら、『それ』はゆっくりと蹂躙を開始した。
微かに汗ばんだ背中に掌を押し当て、吸い付くような肌の感触に胸を躍らせる。
ゆるゆると撫で、擦り、爪の先で幾度もなぞる。
昨夜とはまるで別人の様な、丁寧で緩やかな動き。
手酷く扱われるものと覚悟していたルキアは混乱し、それでも何処かで安堵していた。
肌に感じる確かな温もりに、心が揺らいだ。
その所為で、油断していた。
「あ…」
脇腹に軽く触れられ、ルキアは声を抑えることが出来なかった。
慌てて唇を噛んだが、間に合う筈も無い。
背後で『それ』が笑う気配に、己の失態を思い知らされる。
「どうした、ルキア?」
残酷な笑みを顔に貼り付かせながら、『それ』は努めて穏やかな口調を保つ。
一護と全く同じその声音が、ルキアにとって抗えない枷となるのは明らかだ。
「ルキア…?」
項に唇を寄せて息を吹きかけ、同時に指先で脇腹を撫で上げる。
「ん…っ!!」
ルキアは必死で声を堪え、身を捩る。
ただくすぐったいだけではない、ひどく甘く疼くような感覚。
その正体が何なのかを悟る知識も経験も、ルキアには未だ無い。
「なあ…もっとイイことしてやろうか?」
囁かれた言葉の意味も理解出来ずにいる内に、腰に感じていた重みが失せた。
『それ』が身体を退けたことを知り、逃げるのなら今だと理性が叫ぶ。
だが四肢はぴくりとも動かず、力を入れることすら叶わない。
困惑し呆然と横たわるルキアを余所に、『それ』の行為は容赦なく続く。

袴の紐を解いて脱がせ、現れた滑らかな曲線に喉を鳴らす。
膝を開かせ腰を高く掲げさせ、淫猥な眺めに満足する。
『それ』は低く唸り、再びルキアの身体に覆い被さった。
裾を割って手を潜り込ませ、脇腹を軽く撫で、平らな腹部を掠めて更に上へ。
二つのささやかな膨らみに指が触れると、華奢な身体が大きく震えた。
にやりと笑って唇を舐め、『それ』は両の掌でルキアの乳房を押し包む。
小柄な体躯に見合った控えめな膨らみは、しかし驚くほどに柔らかい。
緩やかに揉みしだいて、上質の絹の様な肌触りに陶然とする。
力を込めると容易に形を変えながらも、確かな弾力が掌に僅かな抵抗を残す。
「堪んねえな…」
その感触に心奪われ、『それ』が低く呻いた。
円を描く様に掌を動かし、指先の力を加減して入念に弄ぶ。
執拗なくらいに丁寧な愛撫を続けていると、次第にルキアの様子に変化が生じてきた。
薄く色づくまでに上気した肌が、しっとりと汗ばむ。
息はすっかり上がり、空気を求めて唇が小さく開いている。
シーツに押し付けられた顔の脇で軽く拳を握り、肩を震わせ、瞳は固く閉じたまま。
「気持ちいいんだろ?」
「…そんな、こと…な、いっ」
しかし滑らかな双丘の頂は『それ』の愛撫に反応し、徐々に硬く立ち上がりつつあった。
それでも尚ルキアは力なく首を振り、己の痴態を認めまいとする。
素直でないその反応が忌々しく、無性に苛々する。
どうあがいても敵わない癖に、何故こうも逆らうのか。
憤りすら覚え、この死神を徹底的に辱めてやろうと心に決める。
『それ』が両の親指の腹で乳房の頂をそっと擦った途端、
「…っ!!」
ルキアの身体が小さく跳ねた。

その反応に『それ』は目を細め、
「嘘ついてんじゃねえよ、ルキア」
意地悪く囁き、同じ動作を繰り返す。
「嘘、など…ついて、居らぬ…っ」
更にもう一度。
「う、く…っ」
繰り返される刺激に耐え切れず、ルキアは小さな声を漏らした。
触れられている場所から、痺れる様な感覚が全身を駆け巡る。
「認める気になったか?」
『それ』は牙を剥き出して笑い、今度は親指と人差し指で強く抓んだ。
瞬間、
「やっ、ああっ…!!」
堪える術の無かった叫びが漏れ、小柄な肢体が弓の様にしなる。
「…なんだ、しっかり感じてるじゃねえか」
声を聞いた途端に、箍が外れた。
両の頂を左右其々の指で挟み、ぐっと力を込める。
残りの指は荒々しく乳房を弄び、白い肌に紅い花を散らした。
「ああっ、い、いやだ…!!」
己を拒むルキアの叫び。
絶望的な響きを帯びたその声が耳を撃ち、『それ』の笑みが掻き消えた。
募る憤怒に身体を衝き動かされ、強過ぎる力で爪を立てる。
「いやっ…ひっ、ああ…!!」
乳房の先端に焼け付く様な痛みを覚え、ルキアは悲鳴をあげた。
苦痛に身体を捩っても、『それ』は一向に力を緩める気配を見せない。
否それどころか、ルキアの悲鳴は更に『それ』の嗜虐心を煽る結果となった。
親指と人差し指の爪をぎりぎりと喰い込ませ、桜色の柔肌に紅い線を刻む。
「いっ、や、やめろ…っ!!」
「…口の利き方から教えてやろうか?」
脅す様に『それ』が唸り、尚も指先に力を込める。
ルキアは激しく首を振って拒絶を示し、きつく唇を噛み締める。
服従させずにはおかないという欲望と、屈してなるものかという意地。
無言のせめぎあいの中、互いの喘ぎだけが部屋に響く。

と、不意に『それ』が力を緩める。
この強情な死神を意の儘に扱うのは、決して容易ではない。
己に屈服しそうな素振を見せたかと思うと、次の瞬間には全身で抗う。
しかし抵抗されればされるほど、暗い欲望を煽られるのもまた事実だ。
『それ』は下方へと身体をずらし、再び緩やかに動き始めた。
開かせた脚の間から手を差し入れ、掌全体を使って優しく内腿を撫で上げる。
「…!?」
行為の矛先を変えられてルキアは戸惑い、戦慄く息が一瞬止まる。
その素直な反応を笑いながら、『それ』は右手を更に上へと滑らせた。
脚の付け根の、秘められた場所へと。
武骨な癖にひどく繊細な動きを見せつつ、『それ』の指がいとも容易くルキアの弱点を探り当てる。
包皮に隠れてひっそりと息づく萌芽をごく軽く突くと、ルキアが腰を跳ねさせた。
「あ、あ…んっ!!」
桜色の唇から零れるのは確かな嬌声。
脚を閉じて逃れようにも力が入らず、がくがくと震えるのが精一杯だ。
「ここが…気持ちいいのか?」
「あ…ふ、あ…」
喘ぐ合間に、ルキアは啼き声をあげ続けた。
痛みにも似た快感が、途切れることなく押し寄せる。
堪えよう、我慢しようと思ってはいても、圧倒的な快楽の前には無力だ。
そんな己を情けなく思う余裕すら与えられない。
全身を駆け巡る快感はやがてその矛先を一点に向かわせ、期待に甘く疼かせる。
絶え間ない刺激によって引き出された本能に、身体は何処までも忠実に反応した。
理性が、思考が追いつかない。
「うくっ、あ、ああっ…」
「答えろよ…」

『それ』は巧みに攻め続ける。
二本の指で敏感な芽を挟み、擦り上げ、つんと弾く。
「はっ…あ、あぁ…んっ」
何度かその行為を繰り返す内に、ルキアの瞳がとろりとしてきた。
唇から漏れる声も、徐々に艶を帯びたものになりつつある。
所在無げに彷徨う視線、無意識に両脚を擦り合わせようとする仕種。
ルキアの全てが『それ』を煽り、誘惑する。
「誘ってんじゃねえよ、死神…」
「あ…く、っ…!!」
喉に絡んだ唸り声も、今のルキアの耳には届かない。
頃合や良しと見て取り、『それ』は次の行為に移る。
些か性急にも思える所作で包皮を剥いて、小さな萌芽を外気に曝す。
無理矢理暴かれた其処をそっと抓むと、ルキアの両肩が強張った。
そして、
「嫌だ、やめろ、嫌だっ!!」
一瞬の静止の後、これまでにない激しさで身体を捩る。
だが『それ』は少しも意に介した様子を見せず、手を休めることもしない。
反って顔に薄い笑みさえ浮かべ、
「だから暴れんなって…痛い目見るぜ?」
残酷に言い放ち、膨らみかけの芽に鋭く爪を立てる。
「や、ひぁっ!!」
激痛が走ったのはほんの刹那。
一瞬の後には気が狂いそうなほどの甘い刺激に取って代わられる。
「い…やぁ…っ」
それを自分ではどうすることも出来ず、ルキアはただ無力に喘ぐしかない。
痛みと快感とに翻弄され、意識が次第に追い詰められていく。

「嫌…?」
黒一色の瞳に灯る虹彩が妖しさを増す。
「てめえの身体は、そうは言ってねえだろ?」
中指をゆっくりとルキアの中に埋めながら、『それ』は嘲りの声をあげた。
相変わらずの締め付けのきつさを心地良く感じ、出来うる限り奥へと進める。
時折指を曲げて悪戯に内壁を引っ掻いてやると、その度にルキアの腰が跳ねた。
昨夜力ずくで抱いた時とは明らかに違う、素直な反応。
その反応が可愛く、壊したくて堪らなくなる。
すぐにでも抱いてしまいたいという欲望を捻じ伏せ、ゆるゆると指を動かす。
「んっ…は…っ」
濡れた声、濡れた瞳。
甘い吐息を紡ぐ唇には、僅かに纏わり付く血痕が彩りを添える。
幾度も悲鳴を堪えようと噛み締めた所為で、自ら傷を付けてしまったのか。
真珠の様な肌に咲く無数の紅い花弁は、紛れもなく己の暗い欲望の印だ。
中指を最奥まで挿し込み、同時に親指で萌芽を軽く押し潰す様に撫でる。
「ああああっ…!!」
瞬間、一際高い嬌声と共に小さな身体がぴんと張り詰めた。
次いで戦慄く様に吐き出された吐息、弛緩した肢体。
蕩けた瞳が虚ろに見開かれ、内奥から湧き出した蜜が『それ』の指を温かく包み込む。
「なあ…良かったろ?」
囁いて徐々に指を引き抜き、『それ』は手放すのを惜しむ様に再び内腿に掌を這わせる。
「本当にいやらしい奴だな、てめえは…」
「…っ」
ルキアの頬が紅潮した。
虚ろだった瞳に炎が点り、羞恥に潤んだ瞳で肩越しに睨む。

が、僅かな抵抗を示せたのも一瞬のこと。
「ひっ…!!」
新たな感触に全身が総毛立った。
未だ収縮を解けずにいる内奥に、二本の指が挿し込まれる。
「や…だっ、痛っ…!!」
「すぐに良くなるさ。てめえの身体は、そういう身体だ」
優しさや気遣いとは無縁の荒々しさで、『それ』の指が乱暴にルキアの中を掻き回す。
「く…ふっ…」
圧倒的な痛み、徐々に取って代わる圧倒的な快感。
屈しそうになる意識を必死で繋ぎ止め、ルキアは歯を食いしばる。
しかし、際限無く齎される刺激に抗い続けることなど到底出来よう筈も無い。
そして、ルキアの心にわだかまる一つの想い。
覆すことの出来ない真実。
此奴は、一護だ。
例えどんなに姿が変わり果て、その心を失っていようとも。
確かに心通わせ、互いに護り、護られた。
忘れていたのではなく、認めたくなかっただけだ。
…ルキアの全身から力が抜ける。
胸の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。
「お願い、だ…」
ぐったりとうつ伏して息を荒げ、ルキアは喘ぐ合間に声を振り絞った。
「も、う…やめて…っ、赦して、くれ…」
閉じた瞼の隙間から、一筋の涙が溢れて頬を伝う。
死神が堕ちた瞬間だった。

背後から穿たれ、息が詰まる。
押し入る熱の感触に、激しい痛みが呼び覚まされる。
「ルキア…」
耳朶を柔く噛みながら囁きかけるその声は、紛れもなく一護のもの。
覆い被さる身体も、己の腰を掴む腕も。
ルキアは眼を瞑ったまま、必死で嗚咽を堪える。
しかし流れ落ちる涙は止める術が無く、シーツに吸い込まれて染みをつくった。
「ルキア…ルキア…」
『それ』はうわ言の様に呼び続け、ひたすらにルキアを求めた。
左手をルキアの身体の前に回し、掌で乳房を包み込む。
力を入れては緩め、時折軽く爪を立て、その都度白い肌に紅い線が増えていく。
右手は細い腰を押さえ込みながら、指先で脇腹を、腹部を緩く撫でる。
その穏やかな手つきとは逆に、ルキアの秘所を抉る動きは一時も止まない。
華奢なルキアの身体が浮くほどに激しく突き上げ、尚も深く繋がろうとする。
「う…あっ…」
耐え切れずにルキアが呻き、端整な顔を歪ませた途端。
『それ』の動きが変化を見せた。
荒々しさは影を潜め、ごく浅く緩やかに繰り返される抽送へと形を変える。
あたかもルキアの痛みを慮り、苦しみを軽減させようというかのように。
項に感じる息遣いは変わらず荒く、『それ』が己を抑えようと苦闘しているのは明らかだ。
半ば朦朧とした意識の中、ルキアは漠然とした驚きを抱いた。
そして、微かな希望に縋りつく。
「一護…?」
震える声で名前を呼んで、恐る恐る顔を擡げた。


期待を込めて見上げる紫紺の瞳。


角を曲がれば自宅という所で、一護はようやく足を緩めた。
ずっと走り通しだったため、さすがに息が上がっている。
腕の時計に眼を遣ると、じきに正午だ。
額の汗を拳で拭い、息を整えながら歩き出す。
午前の授業が終わるや否や、さっさと学校を抜け出してきたのだ。
「ルキアの奴、おとなしくしてるかな…」
思いついて塀越しに自宅を覗き込むと、窓硝子の向こうにルキアの姿が見えた。
居間の椅子の上で膝を抱え、こちらに横顔を向けている。
どうやらテレビを眺めているらしいが、心此処に在らずといった感は拭えない。
その淋しげな表情に衝き動かされ、一護は急いで玄関のドアを開け放つ。
靴を脱いでいると、居間の方からタタタと小さな足音がした。
すぐさま柱の陰からルキアが顔を覗かせ、
「一護!!」
名前を呼んで、パジャマ姿で駆け寄る。
跳び付きかねない勢いの仕草が可愛くて堪らず、
「今日は寝てろって言っただろ。なんで起きてるんだよ」
頬が緩みそうになるのをどうにか我慢して、一護は咎める様な口調で言った。
しかしルキアは慣れたもので、
「眠くないのだから仕方なかろう。それより一護、学校はどうしたのだ?」
しれっと言い放ち、幾分不思議そうに一護を見上げる。
「昼休みだよ、昼休み」
「だが、午後の授業があるのだろう?」
「…」
どうしてこの死神はこんなに鈍いんだ。
戻って来たのは、おまえが心配だったからに決まってるだろーが。
午前の授業だって、これっぽっちも頭に入ってねえってのに。
…そう吐き出せたらどんなに楽だろう。

「ルキア、朝飯は…」
言いながら冷蔵庫を開けると、手付かずの朝食がそっくり残っている。
「食ってないのか。それじゃ、腹減っただろ?」
振り返って左手に提げていたコンビニの袋を掲げて見せると、ルキアの顔が輝いた。
「何を買ってきたのだ?」
早く中身を見せろと纏わりつくのが可笑しくて、一護はわざと袋を頭上高くに掲げる。
「あ、こら、貴様…!!」
ルキアがいくら背伸びをしようと、その手は袋にかすりもしない。
「卑怯だぞ、一護!!」
「いいからてめーは座ってろって」
一護はひょいとルキアをかわし、鍋を火にかけてレトルトの粥を温め始めた。
次いでマグカップに注いだ牛乳を電子レンジで温め、蜂蜜を一匙入れてかき混ぜる。
ルキアは興味津々の様子でその手元を覗き込んでいるが、
「おい、それ以上近づくんじゃねえぞ。危ねえからな」
一護からすると危なっかしくて仕方ない。
「ほう、この袋の中に粥が入っておるのか…不思議なものだな」
「話訊けよ、てめーは…」
ルキアはすっかりいつもの調子を取り戻している様だ。
くるくると良く変化する表情も、普段と何ら変わりない。
一護は密かに安堵の溜息を吐いた。
隙あらば手を出そうとするルキアをいなしつつ、粥に卵を割り入れて火を止める。
「よし、出来たぞ。それから…」
最後に一護がコンビニの袋から取り出したのは、白玉餡蜜。
途端にルキアの目が真ん丸くなり、視線は最早餡蜜に釘付けだ。
自分より遥かに年上の癖に、と一護は苦笑する。

「座れよ、ルキア。餡蜜は飯の後だ」
向かい合わせで腰を下ろし、二人きりで昼食を摂る。
一護は自分の分にと買ってきたパンを齧りながら、こっそりとルキアの様子を窺った。
ルキアは行儀良く手を合わせて「いただきます」と頭を下げ、粥を一匙口に運ぶ。
「おお…美味いぞ、一護!!」
「だろ?」
一護が肩を聳やかしたその時、ルキアがふと眉を顰めた。
「しかし…怪しいな」
「へ!?」
間抜けな声が一護の口から漏れる。
ルキアは渋面を崩さないまま一護の顔を見遣り、
「昨日からやけに優しいではないか、貴様。何を企んでおるのだ?」
「…何も」
突っ伏したいのを堪え、一護はどうにかそれだけ応える。
ルキアは首を傾げはしたものの、白玉餡蜜の誘惑には勝てなかった。
すぐに興味を食事に戻し、粥を食べ終えて餡蜜に取り掛かる。
無心で甘味を味わうルキアを前に、一護は奇妙な感慨から逃れられない。
この少女が死神だと、一体誰が信じるだろう。
返り血を浴びることも厭わずに刀を振るい、己のすべてを投げ打って人間を護る。
小さな身体に誰よりも強靭な意思を秘め、決して何者にも屈しない。
それでいて時折垣間見せる表情はあまりに脆く、儚げだ。
「どうしたのだ、一護。急に黙り込みおって」
ルキアの言葉に我に返る。
覗き込む紫紺の瞳には労わりと優しさが満ちていて、胸が詰まった。
こんな場合であっても、この死神は自分のことよりも他人を優先させる。
…その優しさが堪らなかった。
「何でもねーよ。それより早く食っちまえって」
一護は咄嗟にそっぽを向き、肘を付いて鼻を鳴らした。

じきに日付が変わろうとする頃、一護はベッドの上で何度目かの溜息を吐いた。
部屋の灯りは落としているのに、眼ばかり冴えて少しも眠れそうにない。
原因は分かっている。
…ルキアだ。
人目を避けるように押入れの中で丸くなって、悪夢に魘されながら泣いていた。
あの泣き顔が、怯える姿がどうしても頭から離れない。
虚ろに見開かれた瞳、頬を伝う涙、震えていた華奢な身体…。
ルキアの強さは誰よりも知っているつもりだったから、尚更不安が募った。
一体どんな夢が、ルキアをああも恐怖させたのか。
『ここ2,3日って言ってたな…』
今夜は安らかに眠れているだろうか。
悪夢に魘されてはいないだろうか。
余程確かめに行こうかとも思ったが、ルキアの性格を考えるとそれも憚られる。
一方的に庇われるのをルキアは嫌う。
それが分かっているから、一護の想いは堂々巡りを繰り返す。
眠れぬままに寝返りを打った時、視界の隅で部屋のドアが静かに開いた。
咄嗟に眼を閉じ、息を殺して気配を窺う。
が、部屋の中はしんと静まり返ったままだ。
ドアが開いたきり、何の物音もしない。
堪り兼ねてそっと薄目を開けると、ドアの傍に佇む小さな影が見えた。
『ルキア…』
声をかけようとして、慌てて思い留まる。
ふと芽生えた悪戯心にくすぐられ、一護は寝た振りを装う。
勿論、ルキアが出て行く素振りを見せたら呼び止めるつもりではあるが。

一方そうとは知らないルキアは、暫くその場を動けずに居た。
『一護の奴、寝ているのか…』
幾度も押入れと一護のベッドを見比べ、困惑しきって唇を噛む。
もうこれ以上、一護に迷惑をかけたくない。
弱い奴だと思われるのも御免だ。
夢が恐ろしくて一人で眠れないなど、幼い子どもの言うことではないか。
だが昨晩、久方ぶりに安心して眠れたのも事実だ。
身体も心も、あの温もりを求めていた。
『…そうだ!!』
逡巡した挙句、ルキアは一つの結論にたどり着いた。
足音を忍ばせて押入れに近寄り、引き戸を開けて枕と毛布を引っ張り出す。
その際、床に落ちた毛布が微かに音を立てた。
慌てて振り返って気配を確かめてみたが、一護は良く眠っているようだ。
ルキアはほっと胸を撫で下ろし、再び行動に移った。
そろそろと毛布を引きずって部屋を横切り、ベッド脇の床に枕を置く。
『うむ、上出来だ』
我ながら良い考えだと悦に入って、二つに折り畳んだ毛布の隙間に潜り込む。
急ごしらえの寝床ではあるが、充分に事足りた。
床の固さも少しも気にならない。
此処ならば、一護の気配をすぐ隣に感じることが出来る。
一護の寝息を聞きながら眠ることが出来る。
きっと、悪夢に魘されることも無い筈だ。
一護の眠るベッドへと心持ち身体を寄せ、膝を抱える姿勢で丸くなる。
安堵感からか、睡魔はすぐに訪れた。
小さく息を吐いて眼を閉じようとした時、
「ルキア、てめー…」
頭上から押し殺した一護の声がして、ルキアは慌てて跳ね起きた。

ルキアの行動の意図するところを知った途端、一護は頭を抱えたくなった。
何を考えてるんだ、こいつは…。
たった一言声をかけて、俺を起こせば済む話だろうが。
苛立つ気持ちを抑えつつ、静かに上体を起こす。
気配を殺したまま覗き込めば、ルキアは今しも眠りに落ちようとしていた。
ベッドの方に身体を向けて、仔猫の様に丸くなっている。
その姿を目にした瞬間、苛立っていた気持ちは跡形もなく消え失せた。
呆れるほどに真っ直ぐで不器用なルキアにとっては、これが精一杯なのだろう。
『一緒に寝てくれ』というただその一言が言えず、傍らの床の上で寝ようというのだ。
愛おしさと切なさが入り混じった感情が込み上げ、言葉が口を突いて出た。
「ルキア、てめー…」
「!!」
文字通り跳ね起きて身を翻そうとしたルキアの腕を捕り、ぐいと己の方に引き寄せる。
「何してんだよ、ったく…」
「すすすす済まぬ一護!!」
ルキアの慌てぶりはいっそ可笑しいくらいだった。
一護は吹き出さないよう、わざと表を引き締めて険しい表情をつくる。
「何してんだ、って訊いてるんだぜ。答えろよ」
「そ、それは…」
一瞬言い淀んだルキアだったが、非は自分にあると思い込んでいる。
ここは素直に答えるより他無いと心を決め、渋々と口を開く。
「その…き、貴様の部屋で眠ろうと…」
肩を落としてしょんぼりと項垂れ、まるで叱られている子どもの様だ。
「押入れで寝ることも考えたのだが…昨日のことを思い出してしまって、それで…」
「それで?」
「貴様の近くなら…昨日の様に、安心して眠れるかも知れぬと…」

一護は我知らず頬が緩むのを憶えた。
「…だったら、最初からそう言って俺を起こせばいいだろうが」
掴んだままだったルキアの腕を離し、身体をずらして場所を空けてやる。
見つめるルキアの表情には未だ戸惑いが強いが、隠しきれない期待も確かに在る。
「早く来い、風邪引くぞ」
一護に促され、それでもルキアは暫し迷う。
「ルキア」
しかし一護に名を呼ばれた途端、逡巡の糸は至極容易に断ち切られた。
一護が掲げていた毛布の下に潜り込み、横たえた身体を具合良く落ち着ける。
昨夜と同じ、二人向き合う姿勢で。
唯一つ昨夜と異なっていたのは、ルキアの頭の下に差し込まれた一護の左腕。
さすがにルキアは躊躇し、問いかけるように一護を見上げる。
だが一護は平然とした顔を崩さない。
心の内ではルキアに劣らず緊張しつつ、平静を装って右腕をルキアの身体に回す。
「これでよし、と…眠れそうか、ルキア?」
「あ…ああ」
綺麗な紫紺の瞳が、いつもより遥かに近い位置に在る。
頬が微かに紅潮している様に見えるのは、気のせいだろうか。
「い、一護…」
「何だ?」
「その…もし貴様が嫌でないと言うのなら…」
遠慮がちな声、途切れてしまう言葉。
ルキアはありったけの勇気を奮い起こし、懸命に先を続ける。
「暫くの間で良いのだが…あ、明日からもだな…」
ルキアの言わんとすることを知りつつも、一護は辛抱強く待つ。
どうしてもルキア自身の口から言わせたかった。
強がりで意地っ張りだということを知っていたから。
「一緒に、寝ては貰えぬだろうか…?」

不安に揺れる大きな瞳。
今やはっきりと分かるほどに頬を紅くし、緊張のせいか唇を固く引き結んでいる。
懇願する様にひたと見つめられ、一護は揺らぎそうになる理性をどうにか抑えていた。
「…いいに決まってんだろ」
ぽつりと一言呟いて、ルキアの背中に回した腕に力を込める。
「…有難う、一護」
ルキアが小さく笑う。
時折垣間見せる儚げな微笑ではなく、はにかんだ様なそれでいて手放しの笑顔。
…綺麗な、笑顔だった。


一見すると、それは今迄と何ら変わりない日常。
高校では席を並べて授業を受け、尸魂界からの指令があればそれに従う。
時折軽い諍いがあるのも、頑固者同士にとってはごく当たり前だ。
二人寄り添って眠るようになった、唯それだけを除いて。
…その夜も、そうだった。

しかし迎えたのは、燃え盛る焔の様な光を宿した虚の眼。
「てめえ…」
割れた声音に込められるのは純粋な怒りでしかなく、ルキアはひどく怯えた。
「誰のことを考えてやがった…?」
「あ、あ…」
震える肩を掴んで、死覇装が血で濡れているのを知りながら傷口に指を喰い込ませる。
逃げようとするのを押さえつけ、出来うる限りの激しさで幾度も秘所を抉った。
一護の名を呼んだ声さえも憎らしく、死覇装の襟を掴んでシーツに顔を押し付ける。
「んんんん…っ!!」
くぐもった悲鳴も、己の身体の下でもがく脆い肢体も。
何ひとつ己のものにならないと知った。
「くそっ…くそっ…!!」
『それ』は気づかない。
己の叫びが、悲鳴にも似た響きを帯びていることに。
己の抱く感情が、激怒だけではないことに。
嫉妬も絶望も、決して『それ』が知り得ぬ筈の感情だった。
…この死神と出逢う迄は。
訳の分からぬ感情から逃れようと、『それ』は闇雲に動き続ける。
ルキアが意識を失いかけると傷をいたぶり、微かに漏れる悲鳴に顔を歪める。
「ちく、しょう…っ」
聞きたいと願ったのは、苦痛に喘ぐ声ではない。
見つめられたいと望んだのは、憎悪に満ちた瞳ではない。
だが…何もかもが遅過ぎた。
せめて身体だけでも繋がっていようと、何度も何度もルキアを貫く。
己が達した後も尚ルキアの身体を弄り続け、再び交わる。
ルキアは既に気を失い、力なく伏せたままだ。
そうと分かっていても、『それ』は小さな死神を離すことが出来なかった。


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