朽木ルキア大ブレイクの予感パート12 :  270氏 投稿日:2006/01/07(土) 02:27:53


恋次×悪女ルキア


死神能力譲渡の容疑で尸魂界へ連れ戻されたルキアは、 思ったより心身共に健康だった。
だがそれが裁判にどう響く訳でも無く、早々と四十六室からルキアの裁定が下された。

四十六室というのは、結果が見えていつつもだらだらと裁判を重ねるのが常であるがため、今回のスピード裁定には
隊員からも驚きと疑問の声が上がっていた。
しかし、掟で十三番隊員は面会が許されねえし、他隊の奴の知り合いも、
元々仕事以外に奴は友人を作らなかったため、面会人も来ず、
奴は日がな一日小さな椅子におとなしく座り、死を待つ日々になっていた。

「ほんとに朽木さんは貴族なんですね。
あれは極みですよ。どこから力だして、一日中ああしてられるんでしょう。」

姿勢を崩さず、人形のように美しく座る奴の様を、部下の理吉はそう言った。
それを聞いて、俺はぼんやりと混乱した。
大抵こういうとき、俺が今までに知るルキアと、周囲が囁くルキアの印象はあまりに違っていたからだ。それは分かっていた。
だが、久々にこんな場に遭遇すると、なんだか記憶がごっちゃになってくる。

―――ルキアはどんな女だったか。

ルキアには三日、死刑判決が下ったあの日から会っていない。
強がる奴をつい怒鳴りつけてしまった気まずさもあったのだが、
どうも奴が俺が「そのつもり」で来るのを望んでいない気がして牢に近寄れなかった。
しかし、そんな臆病っ気も欲求の前には負ける。
俺はルキアの所へ食事を運びに歩く女隊員を呼び止め、膳を受け取り代わりに牢へ向かった。

「うっ!!?」
音の方に向き直ろうとした時、突然襟首を掴まれた。
吸い寄せられるように体が仰け反る。
そうして牢の景色がぐるりと回転すると、俺は奴の新しく敷かれたの布団の上に組み倒され、勢いよく唇を合わせられた。

歯がぶつかり、唾液が溢れだす。
全身に甘い疼きが走る。
舌を出して歯の裏をなぞると、奴は飴棒でも舐めるように口に軽く含み、しゃぶった。
くすぐったさに、俺は少し微笑う。
奴は長い睫を閉じたまま、俺の舌を追いかけ、絡ませ、また唇を合わせた。
奴の唾液が俺の頬を伝う。
俺が奴の背中に手を回すと、答えるように奴も俺の項に手を回し、髪の生え際に指を滑らせる。
そうして、少し長い時間、お互いの感触を楽しんだ後、奴はゆっくりと唇を離した。
はぁ…と白い息が奴の口から出る。
触れていた唇は紅みと艶やかさが増していた。

「…よお。」俺は改めて上に乗る女に挨拶した。
「ほお、副隊長にもなるとお前でも度胸が付くのか。」
そう答えた女は、先刻まで眉間にしわを寄せ突っ張っていた小生意気とは違い、
色っぽい表情で、唇に妖しげな笑みを浮かべていた。

俺はルキアの腕を掴んで引き寄せた。
右手で首元をなぞり、前襟に手を掛けてはだけさせる。白い左肩が露になった。
だんだんと早くなる自分の鼓動を聞きながら、その肩に吸い付く。
ルキアはくすぐったそうに笑ったが、何も言わず、寝床に散らばった俺の髪束を梳いた。
俺は触れている肌の香りと柔らかさに酔いながら幾つか痕を残した。
しばらくすると、ルキアも俺の襟元を広げ、同じように舌で首をなぞり、ゆっくりと耳を噛みながら呟いた。
「…遅い。…会いたかったぞ。」
熱い吐息が耳にかかる。
「…悪い。…無事で良かった…ルキア。」
俺は心底ほっとした気分でルキアを抱きしめた。
ルキアは休むことなく首筋にキスを繰り返している。
胸板に乗っかられているが、ちっとも重たくはない。
手探りで露になった足に触れると、奴は僅かに太股を上げて内股に手を誘う。

…やっと、こいつと繋がれる…
数ヶ月ぶりの情事の期待に、鈍っていた体が沸き立ち始めた時だった。
「っ!!痛てっ!!」
いきなり右頬に激痛が走り、俺は思わず声を上げてルキアを引っぺがした。
前歯で食い裂かれそうになったような、横に痛い感触。
指で触ると、血が滲んでいるのが判った。
…噛み付かれたらしい。
ルキアが頭上でにんまりして言った。
紅い唇に、微かに血が付いている。
「仕返しだ。」
俺は現世でルキアを捕獲する時、うっかり顔に傷を付けてしまった事を思い出した。
「タイミングを外しおって。痛かったのだぞ。」
「…し、仕方ねえだろ!あれは隊長がいたから、勢いで…」
ルキアの眉が、ピクッと上がった。
しまった、と思った。二人でいるときに隊長の話は禁句だったのだ。
「いや、その…ルキア…?……っ!!!」
突然訪れた甘い痺れに、全身の神経が跳ねる。
奴は在ろうことか、自分の背後に手を回し、俺のソコを掴んだのだ。
俺は動揺して止めさせようとしたが、情けないことにそうも言えない。
ルキアは意地悪く微笑みながら俺を見下ろしている。
「おい!ちょっ…はっ…っ!ルキ……ッ」
「……可愛い。…いいよ…恋次……許してやる…」
優しい声で名前を呼ばれ、許される。
たったそれだけのことなのに、どうしようもなく嬉しい。
心臓が跳ねている。
ルキアは手を離すと、高揚し始めた俺の顔に顔面を戻し、鈴を鳴らすような声で囁いた。
「…私はな、恋次。この世で最も怖い兄様に隠れてお前に愛されるのが、この世で一番楽しいのだ。」

ああ、やっぱりだ。
俺は呆れと同時に、強い興奮の混じった奇妙な思いに支配された。
こいつはこういう女なのだ。
だれの想像や憶測もハズレ。俺と二人きりで、俺の目の前でだけ、こいつは本心を語る。こいつの本性が現れるのだ。

「…悪い奴。」
俺が悪戯っぽく言うと、ルキアはくすくす笑う。
「…妹と部下のどちらからも騙されるとは、兄様も哀れだ。」
俺は苦笑した。

日頃の表演技の成果か、最近は隊長の俺達への目も盲目になっていた。
ルキアが義理の兄を敬い、慕っているのは明白だ。
しかし、同時にいつまでも兄妹の関係を暖めようとしないことに対する
苛立ちと嫌悪も持ち合わせている。

引き取られた当初、黙って体を明け渡していたこいつもこいつなのだが。

下らない邪念は後にして、俺はルキアの襦袢を両方はだけさせた。
露になった上半身は、相も変わらず透き通るほどに綺麗だった。
俺も手を伸ばして、ルキアの胸に触れる。
「…ん…っ」
ルキアが体をこわ張らせる。柔らかくて温かい。
「あっ…!はぁ……」
次第に強く力を入れて揉みしだいた。
奴の小さな顔と体が段々と熱を帯びて感じ入るのが分かる。
「は、あんっ……んぅ……っ」
やがてルキアは触られるだけじゃ満足出来なくなったのか、体を前へ屈めると、小振りな胸を俺の顔面へ届けた。
俺は頬張るように吸い付いた。
「ぁ……はあん、あっ……!…れん……次…っ!!」
舌を深く這わせて、硬化した突起を凹ませる。
ゆっくりと円を描きながら唾液を絡め、舐める。
もう片方の膨らみは、変わらず平で強くゆっくりと揉みしだく。
「あん…っ!く…っ」
ルキアは俺の頭を掴みながら手を震わせて喘いでいる。
時々ピクリと動く腰が、俺の色欲を誘う。
脱ぎ捨てない襦袢が、腕に絡みついて本当に色っぽい。
奴の欲情した顔を見たくなって、俺は胸から顔を離し、眼を合わせる。

顔を赤らめながら俺を見つめるルキアの瞳は、大好物を前にした猫のように俺を見ていた。
ヤバイ…可愛すぎる…
ルキアの座る部分が熱い。多分ルキアも相当我慢の限界だろうが、
俺自身はもうルキア以上に抑制出来そうになかった。
悪戯に触られて膨張したソコは熱くて痛すぎる位だ。
「ルキア……!」
俺がたまらず名を呼ぶと、ルキアは短く強いキスを一つして、ずりずりと後ろへ下がった。
俺の着物の腰帯を解いて下もはだけさせると、細い腰を浮かして秘所を俺の先端にあてがう。
ルキアのそこも予想通り十分に塗れて熱い。
でも急に入れたら痛いのか、じわじわと腰を進めて感覚を楽しんでいる。
「恋次…」
気持ちよさそうに俺を見る。

ルキアはいつも、最初にあれこれ指図されたり、リードを食らうのを嫌う。
気に入らないことをすると怒る。
欲情して繋がって快楽に酔えるまでは、俺の反応を見て喜んでいる。
でも今日はついに我慢が切れ、俺は一気に腰を進めた。

「っ!!!あぁん!!」
俺の動きに、一際色っぽい声を上げて、ルキアが反り返る。
反応したルキアの動きも相まって、自身は全て奴の中に納まった。
「あっ…ぁん、はぁ…!!」
ルキアは俯きながら息をついている。気には障らなかったらしい。
俺は安心して、ゆっくり、暴走しないように腰を動かした。
「あっ、あん!…あぁ!!はあ!!」
段々と早くなるルキアの動きに、俺も合わせる。
熱く擦り合わせるそこから、水音が聞こえて来る。
俺は夢中で突き上げ、快楽のリズムに酔いしれてる奴を見ていた。
硬く眼を閉じ、眉をひそめて喘いでいる。動きに応じて、髪と胸が揺れ動く。

ルキアにどれだけ他に男が居るかはわからない。
でもこうして交わっている時、奴は本当に嬉しそうな顔をする。
初めて抱き合った時から、それは変わっていない。
そう思うと、少しだけ安心出来る。自分が奴に一番近しいと分かる。
俺の腰に置かれていた手を握ると、ルキアは指を絡ませ、強く握り返してくる。

「あぁっ…ん!っ…あ、あ、あー――っっ!!!」
手を握った時に合った眼が再びきつく閉じられ、繋がりが激しく痙攣してルキアは達した。
その締め付けに耐えられず、俺も弓を射るようにありったけの精を注ぐ。
精が奴の中に当たる感触に、声にならない声が奴の口から漏れた。
「ん…っ…ああっ……」
痙攣を最後まで味わったルキアは、ほぅと息をついて肩の力を抜いた。

繋がりを解かずに、俺に何か眼で訴える。
俺は力の抜け切った体を必死で起こして、奴と向かい合わせになった。
起きたついでに、キスを一つして、離す。
奴の額は汗ばみ、唇は今紅をさしたように紅みを増していた。
でも、瞳だけは、さほど潤まずに俺を映し出している。
底のない闇を飼った瞳。
よくこういう時、女の瞳は潤むと言うが、何故だかルキアの場合は、何度交わっても、そう感じたことはない。

そんなことを考える俺を余所に、ルキアは瞳を開けたまま、軽く押しつけるようなキスを俺に繰り返した。
あれだけだして達したソコは、ルキアの中でまた硬度を取り戻して行く。
ルキアは手を回して俺の髪結びを取った。
量の多い髪束が背中にかかる。
ルキアは微笑した。奴は俺の髪が好きなのだそうだ。
ルキアはそのまま、さっきの頬の傷口を舐めた。
「…痛いか?」
「…いや、痛くねえ。」
「…そうか。いたくない…いたくないな、こんな所。」
「あ?」
「何でもない。」
ルキアは短く答えると、俺をぎゅうと抱き締めた。
俺もそれに答えて背中に腕を回すと、露のままの胸の突起が胸板に押しつけられた。
欲情は、まだ治まりそうにない。それは奴も同じようだった。

「あっ!」
俺は前に重心を倒して、ルキアをごろりと組み敷く。
今度は下に見えるルキアが、ゆっくりと息をついて俺を見ている。
息をつくごとに胸がゆっくり上下する。
綺麗だった。
俺はそんなルキアを見ながら、今度は自分から腰を動かした。
ルキアは眼を閉じて感じ入ろうとしてくれていたが、まだ濡れていないのか少し痛そうだった。
俺は動きを止めて、手を伸ばして奴の芽に触れた。
「あっ…!!」
ルキアが首を降って喘いだ。途端、水が溢れて指に絡み付く。
「あっ、あぁ、はぁん!はぁ、ぁあん!!」
押して、転がして、弾く。
水は止まること無く涌き上がり、ルキアの喘ぎ声も止まらなくなる。
「…ルキア…ッ…」
俺はそんな姿に堪らなくなり、指を離して再び腰を動かそうとした。
しかし、ルキアは俺の腕を掴んで、制して言う。

「…舐めて……」
お姫様の命令が下ってしまったため、俺は少し、いや必死で我慢して
膨張した自身を引き抜き、奴の両足を肩にかけて吸い付いた。
「はっ!…はぁ、あうっ!!」
希望が叶ったルキアは、一際大きい声で喜ぶ。
俺はそれを嬉しく思いながら、芽を舐め、舌で押し、蜜壺の中に下を入れる。
「あっ…!!そ…ソコ……!はあっ!あぁ!あん!!」
酔いしれたルキアは、俺の髪をわし掴んで、高く喘ぐ。
やがてルキアは一人また達し、蜜壺は溢れ出た。
俺はそれを飲み干すと、口を拭いながら虚ろな表情のルキアを見た。
まだ俺自身の興奮は治まっていなかったため、少々疲れた奴の顔に優しく触れた後、
了解を得て再び挿れた。

ルキアは喘がない。
だが腕をしっかり俺の肩から首に組んで、動きに合わせている。
俺はさっきルキアが言いかけたことが気になっていた。
「…お前…っさっきの話っ……!」
「……え…?」
「居たくない、って。」
「…ああ…、っ…ん!」
「…本気で脱獄する気か…!?」
ルキアは何も言わない。
走るように息を切らせながら、俺の動きに酔っている。
「…ルキア…!…なんとか言えよ…!!」
「…ら……」
「あ…?」
「私の読みなら…もう直…だれが…が来るはず…」
「…誰か?」
俺の胸を、何か電流のようなものが一筋走った。
「はぁ……私に…溺れ…た…愚かな誰か…が…っぁ、ああ!」
ルキアが堪らず声をだした。
互いに絶頂が近いらしい。俺は少しはぐらかされた思いだったが、絶頂前の興奮にそれは書き消され、そして同時に達した。
俺はルキアの肩を掴み、ルキアは俺の背中に爪を立てる。
今まで何度爪を立てられても、痛いと感じたことはなかったのに、
その時は何故かじんじんと痛く、それは牢を出てからも残っていた。

俺は何となく一人の家へ帰る気になれず、かといって飲む気にもなれず、
自分の副官室でぼんやりとした。
髪は解けたままだ。眠気は全く無い。

ルキアは眠っただろうか。
ルキアは寝顔が一番あどけない。もし奴が寝てるときにまともに話しかけることができるなら、
きっと、俺と二人の時よりも、本心を離してくれそうな気がする。

俺はさっきの夢のような快楽より、奴の乾いた眼とあの言葉が妙に気にかかっていた。
もう直誰かが奴を救いに来る。
共に逃げる。
奴に溺れた愚かな誰かが。
ルキアは特定の誰かのことを言ったのだろうか。
それとも奴と寝た不特定多数の男のことだろうか。
それを俺に言ったのは何故だ。
俺はその中に数えられていないのだろうか。…そんな馬鹿な。
じゃあ俺に出来る訳が無いと見切って言ったのか。
…反論は出来ない。端からみたら俺は、突然死刑になった好きな女に何もせず、ただ交わってるだけの奴なのだ。
でももし。
もしルキアが少しでも俺を頼ってくれたら。
僅かでも俺に希望を託してああ言ったのだとしたら。

…その時の俺は、本当にどうかしていた。馬鹿だった。
自分の犯そうとしている事や、好きな女への思い上がりの事じゃない。
あいつの、ルキアという女の本性ともいうべき本心を、全く分かっていなかったことだ。
思い返すだけで悔やまれる。あの、奴の手を離したあの時よりも。
それなのに俺は、闇の中でそう思ってしまったのだ。

あいつを連れて行こう。連れて逃げよう。
夜明けまでに奴をさらって、現世へ。どこだっていい。
死神が常駐してない地区なら山程ある。
最悪、奴だけでも。奴だけでも無事に逃がしてやろう。
そうすれば俺はせめて他の男達よりも、奴に何かしてやれた男になれる。
急がねえと夜が明ける。こんな事を考えられるのはこんな夜の中でしか出来ない。
ぐずぐずしてるとまた俺の中の憎い恐怖心が生まれてしまう。

俺は急いで隊服に着替え刀をさし、髪を束ねていた。
その時だった。扉が勢いよく開いて、転がるように理吉が駆け込んで来た。
「副隊長!!!」
「…なんだよ、理吉!こんな夜中にどうした?」
「ここにいらしたんですね!良かった!!御自宅の方に使いをやったのですが
ご不在で、今まで探していたんですよ!!」
息を切らしてやっとのことで喋る理吉を宥めるために近くに寄ると、
扉の向こうの長廊下に、今の理吉と同じように走り回る隊士数名の姿が見えた。
「悪かった。それより、一体何の騒ぎだ、こりゃあ。」

「た…大変なことに……!!」

青ざめながら答えた理吉の様子に徒ならぬ予感を感じ取った俺は、
慌てふためく奴と共に副官室を飛び出したのだ。


誰一人予期していなかったその事件の発覚は、鈍い精霊艇を大きく揺るがした。

十三隊の席官を含む数十名が秘密裏に組織を建て、朽木令嬢の極刑の騒ぎに
乗じて四十六室を急襲するという、いわゆる謀反を企てていたという事実だった。

俺達隊長格と席官は、事実確認から捕らえた数名の謀反犯の尋問、
仲間の逮捕に急を要した。
夜が明けても大勢の隊員が事態の収拾に走り、情報が食い違い、
犯人が逃げようとしたため斬り合いになった隊もあり、瀞霊艇は
一時騒乱状態だった。
だがそんな死神達の中に、唯一確かな事実として流れる情報があった。

「謀反犯の一人である六番隊四席はすでに死んでいる。朽木ルキアが斬った。
今回の事態は彼女の働きにより明らかになった。」

俺がやっとその事実を確認できたのは、日が高く登ってからのことだった。


四席の名は河村といい、奴と俺は仕事以外あんまり付き合いがなかったが、奴がルキアを好いていたのは知っていた。
道端や街中はおろか、ルキアが隊長といる時でさえ無遠慮に声をかけていたから、
俺でなくても皆それは周知の事実だった。
馴れ馴れしいその男にルキアはあまり構っていなかったが、裏でどんなことをしていたか、俺には分からない。 
とにかく奴がいつからか謀反組に加わり小間使いとして働き、そして昨日の夜、俺が出て行った後、牢番を言いくるめルキアに接触した。

『――我が頭目はルキア様を所望しています。此度の処罰は不自然なまでに
情け容赦ない裁定、組員は皆遺憾の意を唱えており、ルキア様の霊力と御人徳を、
瀞霊艇の回天に役立てたいと申しています。是非とも我らと共に戦って下さい。
…そして、機を見て二人で逃げましょう。』

断れば斬り捨てられるだろう。
河村の無言の脅しを読んだルキアは、河村の誘いを請けると見せかけた。
奴に身を任せ、奴が知る限りの情報と仲間の名を聞き出すと、
奴の刀を取り一刀に斬り伏せた。

断末魔の叫び声に驚いた牢番がルキアの牢に駆け付けると、血の匂いで充満し、
寝床は血の海で、その上に倒れる黒い塊を、白い息を吐いて見つめる阿修羅を見た。牢番は恐ろしさで腰を抜かしたが、ルキアは男が謀反人だったことを伝え、
隊長を呼ぶように命じた。
牢番はもつれる足でそのまま朽木邸まで駆け込み、事の次第を伝えた。
そして、牢番が隊長と朽木邸に居た数名の席官と共に隊舎牢に戻った時、
牢の鍵から門から玄関全ての扉が開いたままだった。
牢番は自分の失態に青褪め、だれもが次の事態を予感したが、
自らの牢屋にルキアは待っていた。
返り血を生々しく浴びたまま地べたに正座し、隊長達に頭を下げたという。

「天下の罪人が大罪人を牢中で手打ちとは天晴れじゃな。流石は朽木家出の死神だ。
こうなれば双極処刑も同等なことじゃ。」
牢番の証言に山本総隊長はそう言うと、ひゃっひゃっと高笑いした。
だがその顔には、言葉通りの感心と共に、面目を潰された口惜しさがありありと出ていた。

事実、この突然の事態は瀞霊艇常駐の隊員達にとってかなり大きな打撃だった。
自らが捕らえるべき大敵を、罪人に捕らえさせてしまったのだから。
隊の士気は衰え、俺達副官も怠慢を咎められた。
同時に、ルキアに対する風評も微妙に変化した。
ルキアと面識のない隊員からも、
「これは手柄です。朽木ルキアの重刑を考え直すべきでは。」
と唱える声が挙がった。


だが俺は、そのときはもう周りの言葉など何一つ頭に入ってこなかった。
心は、何か猛烈な焦りと憤りがうねりを上げていた。
俺はようやく、ルキアがあの夜言った事の本当の意味が理解できた。

そうか。そういうことだったのか。ルキア。
だからあの夜。あんなことを言ったのか。
他の女なら考えられなくても、ルキアなら。
あいつならやるだろう。でもどうしてだ。何の為に。

俺の中は、堂々巡りの問いで一杯になった。
なんでそこまでするんだ。一人で。どうして。

いつもそうだ。そうやってあいつはいつでも俺を追いて行く。
いつも先に走り去るのはあいつだ。
血にまみれた修羅の中でさえ、俺はあいつ以外に愛せるはずがないのに、
あいつはまるで悠々と野山でも歩くかのように、
生きる手段のように誰かを愛し、そして去っていくのだ
その去る先が、誰も居ない孤独の世界であることも気づかないで。

それから二日たった夜、ようやく時間が出来、牢へ行くと、ルキアは悠長に酒を飲んでいた。
俺に気がつくと、奴はにっこり笑って足を組みなおした。
細い足が露になる。
俺は何を言っていいのか分からず、ため息を一つ吐いて牢の中に入り、格子にもたれ掛かった。

「どうした?やるのかやらぬのか?ん?」
ルキアは座ったままコロコロと笑って言う。
「…一応、事は落ち着いた。」
「…ふむ。」
ルキアの声が元に戻った。酔ってはいないらしい。
「爺さんが大した度胸と忠義だと褒めてたぜ。」
「そうか。しかしあのご老体に褒められてもなあ。」
ルキアは杯の口を付けた部分を指で拭きながら、呆れる様に笑った。
そしてまた酒を注ぎ、飲み始める。

「あいつを売ったのか。」
俺は言った。
ルキアの緩んだ空気が、ふっと消えた。

「…お前は極囚の身で体を張ってまでして忠義を見せた健気で立派な死神を演じた。
重たい罰を架せておきながら謀反人の存在に気づきもしない死神達に、お前の男達にお前の力で思い知らせるために。」

ルキアは顔色一つ変えない。ただ眼だけは、真っ直ぐに俺を見ている。
「お前は牢の周辺を入念に下調べしてる影の中に河村の姿を見ていた。
奴等が何らかの陰謀に荷担してること、
そしていずれ自分のところに来ることも悟っていて、
あの日河村を牢に入れ、自分から誘って情報を聞き出した。
そして斬った。全て予定の内だった。
お前は謀反組に加わる気もなければあいつと逃げる気も、
手柄を立てて減刑を請う気もなかった。ただ斬るために、あいつを入れた。」
俺は込み上げてくる何かを必死で押さえつけて言った。
それでも、声が時々震えて早口になるのが分かった。
ルキアはずっと動かずに黙って話を聞いていた。

「違うか。」
長い沈黙の後、ルキアは俺を真っ直ぐに見て、俺の思いとは真逆の言葉を呟いた。

「そうだ。」

その言葉を聞いて、俺の胸にあった何かが、熱く重く広がって行くのを感じた。
「…付け加えれば、誰が来ても良かった。
単に脱獄を誘う者も場合によっては斬るつもりだった。
流石お前は長い付き合いだな。よく分かっている。褒めてやろう。」
「ふざけるんじゃねえ!!」
俺は抑えていたものが遂に切れ、ありったけの声で叫んだ。
その声が耳に届く傍ら、拳で叩いた太い格子の五月蠅い音が聞こえた。
ルキアは驚きもしない。

「…どうしてそこまでするんだよ…!!意味わかんねえよ…!
お前、極囚だぞ…!このままじゃ死ぬんだぞ…!なのにどうして…!
何で逃げねえんだよ…!
お前は何でも一人で……その上体張ってまで…何があっても
その手だけは使わなかったくせによ…!…なんで騙まし討ちなんて…!」
「…副隊長が吐く台詞とは思えんな。」
ルキアは少し驚いたように、静かに笑って言った。

「…俺は…!あの日…お前を連れて逃げるつもりだった…!」
俺は馬鹿みたいに、搾り出すように言った。
「お前が?…お前がか?何を考えておるのだ莫迦者が!
この際だから言うてやろう、私は最初(はな)からお前に惚れてなどおらぬ。
嘘ならいくらでもつけるが、その手間ですらもう面倒だ!」
「うるせえ!!!」
俺は完全に感情の制御が利かなくなり、ルキアの目の前に詰め寄った。
ルキアの顔にも段々と怒りの色が滲み出ている。
「なんで霊力もままない危ねえ体で、その体使ってまで俺達に一泡
吹かせるようなことしたんだよ!!
それで自己満足に復讐して満足か!!それで満足して死ぬつもりか!
それともまだ他の男と逃げるつもりなのか!?馬鹿にするんじゃねえよ!!」
「馬鹿にしてるのは貴様らのほうだ!!!」
ルキアが金切り声を上げて椅子から立ち上がった。
肩を震わせて俺を見ている。眼の闇は揺らめいて嵐のようだ。
俺は驚いて勢いが止まってしまった。

「私は今だって死神だ。自分を好いてる奴だろうがなかろうが、
両世界の秩序を乱すものは残らず斬る!!
私は此処でも現世でも何一つ間違ったことはしていない。
だから私の罪も逃げずに償うのだ。
だが「私」は「私」だ!
体だけ重ねた男達に不様にされてたまるものか!
謀反人の存在にも気づかない戯け者達に哀れまれてたまるものか!!
だからこうした、何が悪い!!
それから貴様、先程私を連れて逃げるといったが、
それからどうするつもりだ!!?
どこまでだって追われるぞ。親しい者に追われるぞ。
周りの人間はあっというまに死んでいくぞ。
その上お前が先に死なない保障がどこにある!?
お前まで死んだら私はどうすればいい…っ!!?
私はっ、私はそんな所に…っ!!……いたくない。」

怒りに溢れたルキアは一気にまくし立てた。
俯いて、ハアハアと息をついている。
俺は言い返す言葉も見つからず、ただ呆然とルキアを見つめていた。
胸に溜まっていた数々の思いが一気に飛び出たのだろう。足が震えている。

「……ほんとにもう……!…何を……言わせるのだ…っ」
完全にうな垂れたルキアは、拳で弱く俺の胸を叩いた。
「…どうして今更私の気持ちなど知ろうとなどするのだ…!…どうして…今更…!」
ルキアは力なく叫び、震える手で俺の着物を掴んだ。
「……すまねえ…」
謝っても意味がないと分かっているのに、俺はそう言うしかなかった。
ふらつくルキアを抱きかかえようと手を広げたが、
ルキアはその手をバシリと払いのけた。
だが、そうかと思うとルキアは強引に俺の快を掴み、唇に強く噛み付いた。
「…ッ!!」
俺は驚いて咄嗟に離れようとしたが、ルキアはそれよりも早く俺の肩に手を回し、
つま先で立ちながら、ガチガチと歯がぶつかるようなキスを押し付けてきた。

俺は思わずルキアの背中に手を回したが、色情に誤魔化されているような怒りが走り、肩を掴んでルキアを離した。
「…ッルキア!止めろ!!離せ!」
「……!」
俺がそうした途端、左頬に激しい衝撃が走った。
平手で思いっきり叩かれたらしい。
脈絡のないその行動の数々に、訳がわからず俺はルキアを睨みつける。
「ああ止めてやる。貴様なんか大嫌いだ!!
貴様などもう要らぬ!早く出て行け!!」
俺が叫んだ声より遥かに大きく高い声で、ルキアは喚いた。
その言葉に再び頭に血が登り、俺は格子を蹴り開けて出て行こうとした。
確かにそうしようとした。
そのはずだったのに、俺は次の瞬間、悲痛な表情で俺を睨みつけるルキアの顎を掴み、唇を重ねていた。

「……!!」
ルキアの眼が驚きに見開かれる。
俺も、突然の自分の行動に一瞬驚いたが、その訳を俺は本能で理解した。
そしてルキアを持ち上げ、牢の石壁に奴の背中を叩き付けた。

「うっ!!」
強い体の衝撃に、ルキアは小さく叫ぶ。
俺は、歯と舌で怯んだルキアの奴の口を広げ、無理矢理に舌を捩じ込んだ。
「…っ!…んん!」
その行為にルキアは混乱し、体を捩ってもがいた。
俺は肩に爪を立てられても手の力を緩めず、しっかりと抱きかかえて壁に押さえつけた。
歯茎を傷つけ合っても、舌を喉の最奥まで絡ませ、唾液を流し込む。
刹那、息を吸い込むと、歯を立てて奴の唇を噛む。
今迄にしたことのないものだった。
「ふっ…むぅ…!あっ……!」
重なる吐息がだんだんと熱を帯び、ルキアの唇を濡らした唾液が首筋に垂れる。
その液を舌で掬い取り、そのまま首筋を深く舐め上げると、
思わずルキアは声を上げた。
「はぁ…っ!貴様…っ!止めろ…!!」
ルキアは目を硬く閉じ、怒りに満ちた声を出した。
肩に爪を立てていた両手に、ありったけの力を込めて俺を離す。
そして、絞り出すような声で訴える。
「触るな…!離せ……!!…血の…匂いが…っ!」
「分かってるよ!!」
俺は乱暴に叫び、顎を掴んでいた手でルキアの腕を払い、鎖骨の下に吸い付いた。
強く吸い上げ、紅い痕を遺す。
そして手をルキアの襦袢の間に差し入れ、胸の部分だけをはだけさせる。
身を屈めていくつも痕を遺し、その上を強く舐める。

「っ…!…っんぅ…!!」
その感触に反応しながらも、苦しむように身を捩りながらルキアが喘ぐ。
ルキアの恐れる通り、肌からは微かに血の匂いがしていた。
俺は何だか急に苦しくなって、歯を立てながら、震える胸に擦り寄るようにキスを続けた。
ルキアの体の力が、だんだんと抜けて行く。

俺は、片腕の力を緩めてルキアの帯に手をかけて解いた。
「っ!れっ…!」
ルキアは反発したが、有無を言わさずルキアの帯を解いて肩からはだけさせる。
そうして腰巻もはぎ取ると、
一気にルキアの全身が目前にバサリとさらけ出された。

「……ぁっ…!!」
ルキアが少し驚いたように小さく声を上げ、顔を赤らめて背ける。
俺は少しルキアを上に持ち上げ直して、身をかがめて胸の先端に吸い付き、片方の胸も帯を解いた手で強く揉んだ。
「はっ…あぁ!!んぁん!んっ…!ふぁ!」
拘束された体で受けるその刺激に、ルキアは過敏に反応する。
お互いに、荒んだ心がその刺激に耐えかねるように、硬く眼を閉じる。
全身は、いつの間にか熱く燃える。
俺は壊れそうになる意識を必死で保ちながら、
ルキアの内股に手を入れ、割り広げた。
宙にゆれていたルキアの足は、なんなく開かれる。
「…恋…っ!…あぁ…っ!」
ルキアは小さく叫んだが、もう体が激しく求めるまま、
両手足を俺の体に絡ませた。
そして反射的に、俺の髪紐を解き、腕にかかった少しのそれを口に含んだ。
俺はそれに答えるように、そそり立った自身を、
既に濡れて震えるソコにあてがい、一息に埋めた。

「ひあ、はあぁん!!!」
ルキアが体を反り返らせた。
「いっ…!痛…ぁ、ああ!はあ!」
急に入れられた痛みに顔をしかめながら、それでも宙に浮く体で突き上げる刺激に
耐えるように両足に力をいれ、夢中でしがみつく。
そしておそらく無意識に、腰を上下に動かした。
水に潜るようにゆるゆると、しかし激しく締め付けられる壁の刺激に
俺も思わず強く眼を閉じた。
頭に熱が回って、汗がにじみ出るのが分かった。

やがて快楽に完全に支配されたルキアは、降参するように俺の肩に頭を寄せた。
熱く柔らかい吐息が首筋にかかる。
俺は片手でルキアを支え、もう片方は壁に肘をついて、夢中で腰を打ちつけた。
「やっ…!!はあ、あっ…!れ…恋…!!っ…あん!あ、ああっ!!」
ルキアは熱にうかされるように声を上げ、足は必死に空を蹴った。
俺はその声を聞きながら、飛んで行きそうになる意識を追う。

そしてルキアが俺を突き放しながらも求めた訳を、俺が突き放そうとしつつも
ルキアを求めた訳を思った。

こうしてルキアを酔わせることで、ルキアの何かを静められると思ったわけじゃない。
でも、あのままルキアを放って置いたら、奴は一人孤独の闇の中に飲み込まれ、
もう戻ってきてくれない予感がしたのだ。
闇に蝕まれるルキアを食い止めるために、孤独に痛む体を落ち着かせるために、
今の自分に出来ることがあるなら、やらなければと感じたのだ。
それが、伝えたくても伝えられない愛情の証になるのなら。

髪の間から顔を覗きこむと、ルキアは頬を紅く染め、唇をうすく開け、
僅かに微笑していた。
その姿を見て、少し、安心する。
俺も、突き上げる度に訪れる疼きに集中して目を閉じる。
「んんっ!あっ!…も…イっちゃ……!は、ああっ、あ!」
高い声でルキアが訴え、体に力が入る。
自分も絶頂が近い。俺は両腕で、申し訳ないほど強くルキアを抱きしめた。
「あっ…!んっ、ぁあっ…!はん!ふぁ、あ!ああー―――っ!!!!」
やがてルキアがぞくりとするほど高く妖艶な声を上げて反り返り、
俺と俺自身をぎゅうと締め付けた。
俺もその力に耐え切れず、頭が痛くなる程きつく眼を閉じながら精を放った。

「…はぁ…っ…」
壁にもたれてふらつく自分の体を支え、腕だけは力を込めてルキアを支えた。
とろりと温かい互いの粘液が互いの足をつたい、石の床にいくつか粒を落とす。

ルキアは力の抜けた体で俺に寄りかかったまま、俺の胸元で大きく息をついている。
襦袢をとおしたすべらかな肌は、熱い。
でも、さっきまでの荒ぶる獣の様な気は、もう出てはいなかった。
乱れたルキアの髪をそっと手櫛で梳くと、ルキアは握り締めていた
俺の着物から手を離し、俺を抱きしめてくれた。
静かに流れる鼓動が伝わってくる。その鼓動を聞いて、
俺も落ち着いた。


「…恋次。」
しばらく互いにそうしていた後、ルキアが小さく口を開いた。
「ん?」
「…キス…したい。」
「…あ、ああ。」
俺は突然の要望に少し慌てながら、ルキアを顔の高さまで抱き上げ、
唇を合わせた。
「ふっ…」
ルキアは小さく吸った。
両手で俺の頬を抱え、歯を舌の先でペロペロと舐めながら、吸い付く様に求めて来た。
…やっぱり、ルキアの方が上手い。
少し悔しい気持ちでそう思いながら、ルキアの腰と首を支えてキスを受けた。
自分がするより、ずっと甘くて、体がくすぐったくなる感触。

「…つれてけ。」
やがてルキアが唇を離し、俺の口角をペロリと舐めて呟いた。
「え?」
「あっち。」
言いながら、牢の奥の布団を指差した。
その仕草がひどく可愛らしくて、胸が高鳴った。
俺は横倒しにしてルキアを抱き上げ、布団に向かった。

項に手を回して、ゆっくりとルキアを寝かせる。
垂れる髪を指に絡ませて遊ぶルキアに誘われるように、
そのまま身を寄せ、唇を合わせた。
ルキアは俺の肩に腕を回す傍ら、脚を広げて上に被さった俺に擦り寄せてきた。
「…恋次……」
ルキアは真っ直ぐに俺を見上げ、俺の頬を撫でながら寝言のように言った。
「もう一度…思いっきり抱いてもいいか?」
心臓が一度、飛び出すように跳ねた。
ルキアは真っ直ぐ俺を見ている。
「…何言うんだよ。今更。」
いつも了承なんか得ずに迫ってくる奴の言葉に、俺は動揺して聞き返した。
「だって…多分今日が最後だろう?お前と…こうしてられるのは。」
「……そうだな。」

ルキアの言葉に、俺は今更のようだが実感した。
今回のような事件があれば、きっと、もっと厳重な牢へ移送されるだろう。
そうしたら、触れるどころか会う事も出来ない。二度と。
今は分かる。こいつは逃げるつもりはない。
俺にそれを崩すことは出来ない。
「…悲観するな。大丈夫、百万遍寝たって味わえないものにしてやるから。」
俺はその言葉に苦笑した。

そして、何かを言うのを止めた。
ルキアは俺に、進む道を一緒に受け止めることを望んでいるのがわかった。
気持ちを決めた俺は、首をペコリと下げて真面目に言った。
「いいよ。抱いてください。お願いします。」
俺の真面目な一言にルキアは一瞬びっくりしたように眼を丸くし、
次の瞬間大きく吹き出し肩を震わせて笑い出した。
「…なんだよ、何が可笑しい!」
「いいや…」
決まりが悪い俺の反論に、ルキアは眼を細めて笑いころげ、
そして、ニヤリと俺を上目で見た。
「それじゃあ。」
そう言うと、ルキアは俺の両肩を掴み、互いの位置を反転させた。
優しげな表情で俺を見ながらも、獲物を狩る様な眼をしていた。

「思い出をくれてやる。」
ルキアは耳元で内緒話のように囁き、耳たぶを甘噛んだ。
意識がとろけだすのが判った。

「……どこから触って欲しい…?」
ルキアは呪文のように囁きながら、
俺の首筋に、付くか付かないかギリギリのところで唇を這わせた。
脳の神経を通さずに、俺の口からは吐息が溢れ出る。
「私はな…」
ルキアは囁きながら、両手で俺の左手を取り、胸の膨らみにその手を乗せた。
「もっともっと…ここに触って欲しい…」
その仕草に動揺した俺を、ルキアは見逃さない。
睫を伏せ、自身の胸上を見つめながら、ゆっくり、円を描くように
その手を動かした。
「ふ…はぁっ…」
ほぅと溜め息をついて、ルキアは感じ入る。
「…ルキ…」
言いながら、思わず目を背けた。吸い付くような柔らかさが容赦なく伝わって来て、
下半身の疼きに変わる。
ルキアの手が俺の手を操作しているから、一見自慰のように見えて、
それが余計に俺を煽った。
指の先で、胸の突起を摘んで遊ぶ。
そうして親指で硬くなったそれを押すと、ルキアの口からそそる声が零れた。
「ここも…触って…」
ルキアは鈴のように高い可愛い声で(わざとだろう)言いながら、
手を下に滑らせた。
指を動かすと、一度達したソコから、早くも蜜が溢れ出て来る。
「あ…はぁ、んっ…!」
ルキアは俺の手に自分の手を重ね、一番感じ入る場所を指定した。
「…ココか…?」
「…っ!ぁんっ…もっ…と…奥…!あ、はぁ!…気持ち……イィ…!」
俺は素直に従いながら、中指を小さく円を描くように動かし、
そしてつぷつぷと音を立ててルキアの中に入れると、
ルキアは一層悦びの声を上げた。

「…あ…!ああっ…、…恋次…!」
俺の肩に両手を乗せ、四つん這いになって震える声を上げ続ける。
かと思うと、片手を俺の頭の向こうにゆっくり伸ばす。
何をする気だ?と思うや否や、胸の上に冷たい水がぱしゃりと落ちて、飛んだ。
「っ!冷てっ!!…何…!?」
それはさっきまでルキアの飲んでいた酒だった。
俺は慌てて目の脇に飛んだしぶきを拭った。
ルキアは無言のまま、窓からの月光にゆらゆら光る掛かった酒を、
ゆっくりと舐め出した。
「…ハッ…!……ルキ…!」
触れられたところが、ビクリと跳ねる。
ルキアは大きく舌を当てて、ピチャピチャと音を立ながら舐め上げる。
時折口を広げ、コクリと喉をならして飲み干す。
その時肌にあたる唇の感触が堪らない。

「…ッ…!…ハァ…ッ!…ルキア…!」
「恋次…指…動かせ…っ」
いつのまにか止まってしまっていた指の動きを、ルキアが急かす。
俺は指を増やし、中を大きくかき回しながら、ルキアの好きな部分を責める。
「ぁあっ!…はん、ぁ、あん!ぅあ!…あぁん!」
駆り立てられる刺激に、幾度となく腰を反応させながら、ルキアは喘ぐ。
喘ぎながら、俺の肌に愛撫を続けてくれる。
やがて体がビクンと固まり、ルキアは達した。俺の指も水が濡れる。
「…はぁ…ぁっ」
俺の上に力の抜けた腰を下ろしながら、ルキアは瞳を開く。
長い睫が影を落とす。
「ルキア…」
その綺麗さに、俺は思わず名を呼んだ。
ルキアの瞳が俺を捕らえる。そして、俺の傍らに置かれた小さな酒瓶を取ると、
両手で持ちながら直に飲んだ。光る水の線が、頬から首筋へ伝う。
その姿に見取れていると、ルキアはゆっくりと俺に身を寄せ、
唇を重ねて来た。
途端、苦いものが口の中に流れ込み、俺は驚いて眼を見開いた。
喉はごくんと音を立てて、やっとのことでそれを飲み干す。

「…美味いか?」

ルキアが唇を離し、微笑って呟く。その顔はからかう様でなく、ふわりとしていて、
どうしようもなく可愛いかった。
そのせいか、与えられた酒の度の強さか、頭に熱が回って眩暈がする。

ルキアは、そんな俺の思いを読み取るように、ずりずりと下へ動き、
立ち上がった自身に手を置いた。
「っ…!!」
欲しかった疼きに体が強張る。
ルキアは睫を伏せて、わざと大事そうにそれを取り出し、
ふぅと先端に息を吹きかけた。
そしてじらすようにそろりと舌先で軽く舐め、ついばむような軽いキスを繰り返す。
そのくすぐったさが言いようのない快感を走らせ、
俺は思わず肩を捩じらせる。
ルキアの方を見ると、あんのじょうそんな俺を見てほくそ笑んでいる。
「…コレがイイのか…?」
そんな顔をしながら、相変わらず小悪魔みたいに俺を挑発するように
俺の自身を掴み、さっきよりも強いキスを降らす。
俺のソコはさらに膨張した。
俺は耐えられなくなって、声を絞り出して懇願した。
「ルキア…ッ…!…もうダメだ、早く来てくれ…!」
「駄目だ。」
切羽詰った俺の願いもあっさり却下し、ルキアは愛撫を続ける。
俺の心臓はもうはちきれそうだった。
「言っておくが、顔にかけたら怒るぞ。」
「…お前なぁ…っ!」
訴えながら、俺は気づいた。これはさっき無理矢理責めてしまったことの
仕返しだと。
怒られて体に触れさせて貰えなくなるよりマシはマシだけど、
ほんとにいい性格してやがる…!

俺はもっと責めて欲しいと感じつつも、今にも達してしまいそうな自身に
焦りながら、必死で拳を握り締めていた。
「…わかった。」
俺の必死の精神状態を解ってくれたのか、ルキアは行為を止め、
四つん這いになって俺の顔に近づき、ゆっくり触れるだけのキスをした。

そして指先で頬を撫でて、覗き込むようにじっと俺の眼を見つめる。
俺もルキアの眼を見ながら次の行動を待ったが、
ルキアは空っぽのような表情で、ぼうっとしたまま動かない。
「ルキア…?」
俺が不思議に名を呼ぶと、ルキアははっと我に返った。
そして間を埋めるように、もう一度同じキスをする。

「どうかしたのか…?」
「なんでもない。起きろ。」
俺の問いに、ルキアは無愛想に答え、俺の手を引っ張る。
体を起こすと、ルキアは俺の手を腰に回し、自分の手を俺の首に色っぽく絡ませた。
そうして自分も待ち兼ねたように、濡れた秘所を俺自身に埋め、
ゆっくりと動いていく。
「あ…っはぁ…ああ…!」
ルキアは背中を震わせ、感触に感じ入る。
俺はそれ以上に、今すぐでも達してしまいそうになり、
思わず息を止めて手に力を込め、突き上げた。ルキアの動きはすぐに激しくなった。
「…んぅ!あん!!あぁっ…!恋…!…っと……もっ…とぉ…!!ああん!!」
俺達は無我夢中で動き、汗ばんだ肌をきつく寄せ合った。
それでも、突き上げる刺激にルキアは反り返り、すべらかな胸を突き出して
激しく声を上げる。
腰を捩じらせ、奥の奥まで俺を導こうとしていた。

でもやがて、ルキアが刺激に反り返らず、喘ぎながら無理に抱き付いている事に
気づいた。
疲れたのかと思い、俺は布団に手を付いてルキアを寝かせようとした。
「っ…いい!恋次!そのままで…!」
ルキアが焦ったような声をあげたが、俺はもうルキアの背中を布団に押し付け、
そしてルキアの眼を見ていた。
そして、驚いた。

揺らいでいるのだ。
今まで、何度も何度も溶けてしまうような夜を過ごしても、一度も潤んだことのない
ルキアの闇色の瞳が、自分を見つめながら窓からの光を受けて
夜の海のようにとろりと潤んでいるのだ。
「…ルキア…」
俺は、驚いたまま呟いていた。
ルキアは自分の瞳の有様に気づいているのだろう、手の甲を口に押し当て、
顔を紅潮させて、こらえるような表情をしながらその瞳から
海が零れ落ちるのを防いでいた。

「…恋次…早く…っ、…いて…!」
ルキアは顔を紅らめながら、その表情で動くように訴える。
口に当てた手は震えていた。
「…早くっ!早く動いて…っ!恋次…―――!」
ルキアはさっきより声を大にして言い、その表情を隠すように俺を引き寄せた。
「…、ルキア…!」
俺は心臓が締め付けられるような気持ちになり、ルキアに荒く唇を重ねた。
そして、しっかりと抱きしめながら、強く腰を動かした。
「はっ、はぁ!…もっと!!もっと…っああ!はあっ…あぁ!」
ルキアは喘ぎ、叫び続ける。

ルキアは多分今、孤独ではないという実感を、俺を責め立てること以外に
得る手がなく思っているんだろう。
どれ程自分の腕の中にルキアを留めておきたいと思っている奴が居ることも、
その腕を振り切って自分から駆け出して行ってしまうことにも気づかずに。
俺は込み上げてくる何かを抑えながら、必死で腰を動かした。
ルキアの感情も過去も優しさも悲しさも自己本位さも、全て混ざり合って
分かち合えるように抱き合った。
自分の頭など、奴の孤独に立つ意思の前ではなんの役にも立たなかった。
体だけが、ルキアに付いていける唯一のものだった。

気持ち良さに比例して、激しく締め付けてくるルキアの中を、滅茶苦茶に掻き回した。
ルキアは衝動に酔いしれながら、必死で俺の首にしがみ付いていた。
「ああっ!!あん、はあ!んーっ!…あ、ああっ、あっ、…っあーーーー…っ!!!」
俺は衝動に任せるままルキアを責め立て、そのまま一気に達した。
同時にルキアも肩とつま先で体を支え、胴を弓のように反らせて震わせながら
絶頂を迎えた。

ルキアは果てても頑として表情を崩さなかった。
大きな眼を涙でゆらつかせる以外は、静止画のようにじっとして
ペタンと座りながら、窓の外をじっと見ていた。
「…きれいな月だ。」
ポツリとルキアが呟いた。俺は首をもたげて窓の外を見た。
成程大きな月が出ている。満月に近い。夜明け前で少し白ずんでいる。
「死んだらあそこに行こうかな。」
まるで明日の予定を決めるように奴は言う。
「それでチャッピーみたいなウサギ達と餅をつく。」
「…馬鹿。」
俺は呟きながら、ルキアの横顔を見た。

「…お前、本当にこれでいいのか。」
俺はルキアの心を惑わすと分かっていたが、つい聞いた。
「何を。お前がしょっ引いて来たくせに。良いよ。これで。
お前や現世の奴等が無事なのだから。」
ルキアは笑った。
「無事じゃねえよ…!」
そのどうみたって悲しそうな笑みに、おれは思わず言ってしまった。
「…お前が居なくなるのに、何が無事だよ…何が万事安心だよ…!
そうやっていつもいつも人を理由にお前を決め付けるんじゃねえよ…!
俺だって…!俺だって、お前が死んだらどうすればいいんだよ…!」
ルキアは月から眼を離し、俯いて顔を逸らす。
俺は、そんなルキアを後ろから抱え込んだ。
ルキアは驚いたように体をビクリとさせたが、何も言わない。言う気配を見せない。
ルキアの体温が伝わった途端、俺は思わず泣きそうになって、
ルキアの肩に頭を突っ伏した。
それで気づいた。ルキアの肩が僅かに力を込めて震えている。
「…ルキア…俺はっ……俺は…!」
俺は、胸の締め付けるような痛みに堪えながら、ルキアを強く抱きしめた。
何か言いたい言葉があるのに、どうやってもそれが出て来ない。
聞かせたい言葉があるのに、それがあまりにも心に溜まりすぎて、
喉につかえて出て来ない。
ルキアは俯き、顎と肩にだんだんと力が入る。
「ルキア………ルキア…!」
俺は腕に力を込め、腹の底から声を絞り出して、それが出て来ない代わりに
何度も名を呼んだ。

ルキアは肩に力を込めたまま、ゆっくりと深呼吸をして、呟いた。
「…大丈夫だ。…貴様が刀を抜く時は、私が必ず腕の中に居るから。」
ルキアはそう言って、俺の手のひらを唇に押しつけた。
その唇は、暖い。
俺はその暖みを保つように、保ち続けるように、無言でルキアの体を温めた。
そうしていると、やがてルキアが低い声で呟いた。
「…お前は莫迦か。」
俺は肩から顔を上げた。

「死んだら居るわけないだろうが。たわけ。」
そう言って振り向いたルキアの顔は、あの小生意気な女の笑顔だった。


俺はどんな血にまみれた修羅の中でさえ、お前以外に愛せるはずがないのに、
お前はまるで悠々と野山でも歩くかのように、
強く光る眼を携え、呆れる程の妖艶な体と思考回路を隠しながら、
生きるついでに人を愛し、生き抜いていく。

それから数日、ようやく精霊艇も冷静さを取り戻し始めた。
謀反犯達の取調べはずっと続いたが、頭目の存在は遂に明らかにならなかった。
頭目はどうやら鬼道を使い、幹部や部下達に指令を送っていたようで、
誰も頭目については正確な事実を知らなかったのだ。
そのため謀反組は、一部取調べの続く容疑者を残して、全て斬首された。
そして、この日を境に四十六室に警戒態勢が敷かれた。
護衛隊は三、五、九番隊だった。


この日、俺はルキアを繊罪宮へ移送した。ルキアは暗い顔で俺を出迎えた。
あれは嘘だろうか。もう分からない。
それ以降、謀反組の話はむやみな口外を禁じられた。
それと同時に、ルキアについての話題も、俺達は閉口せざるを得なくなった。
無論、減刑を唱える者も。
きっとこうなることも、ルキアは分かっていただろう。
でも俺は、どうしても忘れられないことが、まだある。

現世で、隊長に斬られた人間を救おうとした時の表情。
その人間達が 魂界に乗り込んできたことを伝えたときの、ルキアの表情。
あれは嘘ではないのだろう。
だから俺はもう一度、ルキアのために刀を抜いた。
きっとあいつは面食らったはずだ。
だがそれは、奴に捧げる『祭り』のほんの一部に過ぎなかった。
その時もうすでに、奴への想いを告げる鉄の音が、あちこちでやかましいほどに鳴り響いていたのだ。

俺はその時思った。
ルキアは孤独などではない。奴の居た場所が、ただ単に空に浸かる程高くて、
誰も届かなかったのだ。
奴にその意思がなくても、例えどんな男もルキアが絡んでしまえば、
悪と善に別れ、騙し、裏切り、怒り、悲しみ、そして戦い、あいつを激しく求める。
求めずにいられない。
魂も厭わない程、死ぬほどに愛おしい存在。
血で染まろうと、涙で溺れようと、奴は永劫に白いままだ。
そういう女を、ルキアのような女を、なんと呼ぶのだろう。

おそらく、悪女だ。


(完)