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朽木ルキア大ブレイクの予感パート11 :  736氏 投稿日:2005/11/10(木) 01:19:50


雨乾堂に呼び出されたルキアは、もう何分も物言わずむっつりとした顔の浮竹と対峙していた。
何時もなら笑顔で出迎え、当然のように茶菓子の一つも振舞ってくれる彼が、今日ばかりは様子がおかしかった。
押し黙った口から漏れるのは長い溜息だけで、呼び出しの理由は一向に話されない。
「浮竹隊長……? お話がないのなら、もう帰らせて頂きますが」
沈黙の時間が三十分を超え流石に痺れを切らしたルキアがそう切り出すと、浮竹はもう一度吐息してから伏せていた頭を上げた。
その目元が泣き腫らしたかのように微かに赤く充血しているのを、ルキアは目敏く見咎めた。
病身の為元より白い肌も、今は普段以上に青白く褪めて翳っているようだった。
「お前に、零番隊への異動が決まった」
「零……ですか? その様な隊は、存じ上げませんが」
ルキアへ顔を向けつつも視線だけは逸らした浮竹が、低く聞き取りがたい声でそう呟いた。
『零番隊』。その耳慣れない単語にルキアが首を捻って聞き返すと、彼は表情を固めたままで頷いた。
「ああ、そうだろうな。……房中術、というのを知っているか、朽木」
「いえ」
「男と交わる事によって、繋がった部分から己の霊力を相手に流し込む、鬼道の一種だ。
達人ともなれば、契った男の霊力を癒し倍増させることも、或いは逆に全て奪うことすら出来る。
……零番隊とは、その道術の研究のため集められた者たちの俗称だよ。
丁度今、技術開発局がサンプル集めに躍起になっていてね、……お前にその命令が」
手元に書付でもあるかのように淀みなくすらすらと、浮竹は彼女に向けて説明した。
しかしその手が震えているのを見れば、彼がどんな想いであるかは容易に想像が付いた。
「房中術は、鬼道の中でも最高レベルで習得が難しい。お前の学院での成績を見込んでの申し出だと、あちらは言ってきている」
淡々と、しごく冷静な顔で浮竹はルキアに告げ続ける。それでも、背けた額に浮かぶ一筋の苦悩の皺までは隠しきれない。
その表情に、ルキアはもはや回避が不可能なところにまで話が進んでいるのだと推測した。
この優しい人は、きっと何とか決定を覆すために隊内を駆け回ったのだろう。
当然だ。言葉を取り繕ってはいたが、今言われたそれは、研究のため男に身体を差し出せという意味なのだから。
全身が、一部の隙もなく総毛だった。
未だ誰にも開いたことのない身体を、よりにもよってそんな事の為に使わされるのか、と。
真冬だというのに、体中の毛穴から嫌な汗が噴出して、背中がびっしょりと濡れる。
けれど表面上は取り繕った顔で、ルキアはこくりと首肯した。
「……隊長のご命令ならば、私は何処なりと。辞退はできないのでしょう?」
ルキアのその言葉に、浮竹が横にしていた顔をそっと真っ直ぐに向けた。
その視線の先に居る少女が諦めにも似た落ち着き払った表情でいるのに、浮竹は声を詰まらせる。
「……聡いな」
伸ばした両手で眼前に座す少女の細い身体を抱き寄せると、掠れる声で自嘲して見せた。
「既に隊首会で決定済だ。俺が寝込んで不参加だったのをいいことに、あいつら……くそっ!」
罵声を上げて鬼人のように柳眉を逆立てると、浮竹はルキアの細い双肩をがっしりと指で掴んだ。
その触れられた浮竹の指先が、怒りからかぷるぷると震えている。彼がこれほど激昂するのを見るのは、初めてだった。
「あんなところにお前が行くだなんて、俺には耐えられない。お前が、あんな奴らの玩具にされるのかと思うと」
「そんなに心配なさらなくても」
それこそ誰彼構わず縊り殺しかねない勢いでそう言って頭を抱えた浮竹に、ルキアが声をかける。
しかし、彼女に対する浮竹の返答の口調は更に強く恐ろしかった。
「心配に決まっているだろう! ……分かっているのか!?
一日中、男の精を浴びせかけられ続けるのが仕事なんだ。あれは、そういう所なんだぞ!!」
「…………まさか」
流石にそこまでは酷くないだろうと無理に微笑もうとするが、恐怖からか歪んだいびつな笑みしか作ることは出来なかった。
硬直した顔面の筋肉がひくついて、泣き笑いしているような奇妙な顔を見せる。
その表情に、浮竹が痛ましく疲れたような声を出す。
「嘘じゃない。壊れるまで番わされ続けて発狂した者が、俺の知っているだけで四人はいる。きっと、実際にはもっとだ」
そう言ってルキアの側に頭を寄せると、浮竹は小さな声で「済まない」とルキアの耳朶へ悲痛に囁いた。
温かい吐息をそこに感じて、ルキアはびくんと身体を竦めさせた。
「隊長の所為では在りません」
「いや。俺の所為だ。……俺にもっと力があれば、何としてもお前を行かせないのに」
言って面を上げると、浮竹は血の気のない唇を噛み締めながら自責に顔を曇らせた。
その余りに生気の感じられない顔色に、ルキアがかぶりを振って下手な演技をした。
「大丈夫です。私は、そのくらい、なん……とも……」
しかし演技に感情の方が付いていかなかったらしく、台詞の途中でルキアは漏れ出る嗚咽に口元を押さえていた。
全身を震わせながら、それでもルキアは必死に言葉を続けた。
「だから、しん、心配……しな、いでください。隊、長……」
何とか言い終えて、けれどそれで安心して力が抜けたのか、ルキアはすとんと頭を落として前に倒れこむ。
慌ててそちらに差し伸べられた浮竹の手も空しく、ルキアは畳の上にばたんとうつ伏せになった。
浮竹が急いで身体を起こすが、腕の中のルキアは既に放心しているのか呼んでも瞳を開こうとすらしない。
その姿に再び痛々しさを感じて、浮竹は彼女を起こさぬよう細心の気をつけながら己の寝台に運んだ。
柔らかい布団に寝かせてやると、自分はその横に足を崩す。
時折「んっ」と声を上げて眉を寄せるのは、悪い夢でも見ているからだろうか。
明日からは現実も悪夢と変わらなくなる。せめて今夜くらいは、幸せな夢を見ていて欲しいものだけれど。
「朽木……」
そう思って眼下の部下を見つめながら、浮竹は彼女の名を呟いた。
規則正しく上下する身体をそっと撫でようと伸ばした指先は、しかし望まれない訪問者の発した声によってぴくりと動きを静止させた。
「おや、丁度気を失ってくれているようだネ。これはよかったヨ、下手に起きていられると、運ぶまでが暴れて大変だからネ!」
「涅!?」
突然扉を開けた不躾な来訪者に、浮竹は思わず驚きの声を上げた。
それは技術開発局局長であり、此度のルキアの異動を目論んだ張本人でもある憎き相手であった。
しかしどれほど憎悪している相手であろうと、このときの浮竹にはみっともなく彼に頼み込む以外のすべはなかった。
「涅! お願いだ。朽木に余り酷い事は――」
「大丈夫。心配はいらないヨ」
頭を床に擦り付けんばかりの勢いで懇願する浮竹に、マユリは笑顔を向けてぞっとするような言葉を吐いた。
「彼女はこれまでにないほどの好待遇で迎えるつもりだヨ。
経口食と衣服の至急は勿論、他のサンプルと違って細かいデータがとりたいから、交配実験は一日に二人までにするつもりだ。
全く、破格の条件だろう?」
それだけ言って満足そうにケタケタと笑うと、マユリは戸外に控えさせていた部下を呼び、ルキアの身体を持ち上げさせた。
まるで物の様に無頓着に彼女を肩に抱えさせると、マユリはそのまま闇の中へと出て行ってしまう。
一人残された浮竹は、その場にがっくりと肩を落として拳に血が滲むまでがんがんと床を叩き続けた。
「朽木、絶対に、絶対に連れ戻してやるから……」
そう己の胸に決意した浮竹の瞳は、死すらもいとわぬ想いで暗く燃えていた。
まるで野獣のように光る目で、彼は少女の消えた戸の先を見つめていた。
その戸の向こうにはいつ降り出したのか分からぬ小雪が鬱陶しくちらついていて、滾る心と裏腹に、浮竹の身体を芯まで冷え付かせた。



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