朽木ルキア大ブレイクの予感パート11 :  ハルキ氏 投稿日:2005/10/24(月) 02:33:50


happy birthday』


屋敷へと帰る足取りは重かった。
今日が何の日か分かっていて、いや分かり切っているからこそ、家には帰りたくなかった。
いっそ日付が変わるまでどこかで時間を潰してしまおうかと、辺りをきょろきょろと見回して考えていたルキアの後ろから、彼女の名を呼ぶ声がした。
「おぅ朽木! お前、こんなとこで何してんだよ」
振り返れば、そこに立っていたのは上司である海燕だった。
肩の上に上げた掌をひらひらとさせながら、彼はルキアの元まで小走りで駆けてきた。
「海燕殿……? いえ、私は別に」
「確か今日は、お前の誕生日だろ。早く帰らねーと、兄貴に叱られるんじゃねーのか」
そう答えたルキアの言葉を途中で遮って、海燕は指摘する。
その海燕の台詞に、ルキアはびっくりした顔で目をぱちくりと二度瞬かせた。
「どうして……?」
「それくらい、入隊書類に書いてあったろ」
「それは、そうですが……」
確かに隊員の生年月日くらい、入隊時に書かされる書類を見れば容易に知ることが出来る。
しかし、席官でも何でもないただの一隊員である自分の誕生日を彼が覚えていてくれたことに、ルキアは驚きと喜びを隠せなかった。
――もう何年も、自分の誕生日を覚えていてくれている相手など周りにはいなかったから。
小さく顔を綻ばせたルキアに、海燕は朽木家での誕生日とはそんなにも楽しいものなのかと思い違いをする。
普段は厳しそうに見えても、やはり兄妹。あの朽木白夜も、本当は優しい面があるのだな――。
そう思った彼が、ルキアの頭をこつんと軽く拳骨で叩いて、命令する。
「ほら、早く行けよ。朽木隊長が待ってんだろ?」
しかし海燕の予想に反し、ルキアは彼の言葉に首を横に振った。
「そんな事は、在りえません」
「あぁ?」
思わず不信気な声を上げてしまった海燕に、ルキアは弱弱しく微笑して続ける。
「兄様は、私の誕生日など一度として祝ってくれたことはありませぬから」

一瞬顔を苦く顰めた海燕がすぐさまその表情を戻すと、「ははっ」と乾いた笑いを放ってルキアを見つめ直す。
「んなことねーだろ。自分の妹の誕生日だぜ?」
「いえ、本当です。……きっと兄様は、今日が私の誕生日だということもご存知では無いでしょうね」
そう言って寂しそうに顔を伏せたルキアを、海燕が無言で視線を注ぐ。
二人の間に落ちていたその息も出来ないほど重苦しい沈黙を、しかし先に破ったのはルキアのほうだった。
顔を上げた彼女は、自嘲でも空元気でもないしっかりとした強い笑みを海燕へと見せていた。
「でも、代わりに海燕殿が覚えていて下さいましたから。……私は十分幸せ者です」
「朽木……?」
「それでは、失礼致しますね」
きちんと頭を下げて別れの挨拶をし、自分の元から離れていくルキアの後姿に、海燕は何故か言い様のない想いを感じた。
彼女はこのあと、一人で食事をし、一人で眠るのだろうか。
自分の誕生日だというのに、誰にも祝われず。あの広い広い、迷子になりそうな屋敷で、一人。
そんな酷く寂しい行為を、海燕はこの少女にさせたく無かった。
「――ちょっと待て、朽木!」
大声にびくりと身を竦めて立ち止まった彼女に走り寄ると、海燕はルキアの手を無理矢理握り締めて言った。
「お前、時間あるんだろ。だったら俺に付き合え」
「…………はい?」
「誕生会しようぜ。もう隊長たちも帰っちまってっから、俺とサシだけど」
突然の海燕からの誘いに、言われたルキアは声も出ない驚嘆ぶりを見せる。
嬉しさと驚きと信じられないという思いとがごちゃ混ぜになって、頭の中がちょっとしたパニックを起こす。
「かっ、海燕殿!? それは……」
「何だ、朽木。俺と飲むのがそんなに嫌かよ?」
答えが分かっているだろうに意地悪くそう問われて、ルキアは答えられずにしどろもどろになって口ごもってしまう。
「いえ、そうではないのですが……その……」
顔を赤くしてそう呟くルキアは気にせずに、海燕は彼女の手を取ったまま歩き出した。

その力強い腕に引っ張られて、ルキアが「うわっ」と戸惑いの声を上げる。
「海燕殿!」
名を呼ぶものの、繋がれた手をこちらから振りほどけるわけも無い。
ずっと憧れていた人が、今隣にいるのだ。自分からその繋がりを断ってしまうことなど、ルキアには到底出来なかった。
そんな彼女の思いを知っているのかいないのか、海燕はルキアの手を引いたまま無理に彼女を連れて行く。
近場にあった屋台に彼女を座らせると、海燕はにやっと笑いながらルキアの横に腰を下ろした。
「給料日前だからな。悪いけど、ここで」
そう冗談めかして言うと、海燕は熱された銚子からルキアと自分の前の猪口に酒を注ぎ入れる。
酒がなみなみと注がれたそれをルキアの手に持たせると、自分ももう片方の器を指で摘み上げて目の前に掲げる。
「朽木、誕生日おめでとな」
かつんと器同士を軽く合わせてから笑うと、海燕は中に入っていた酒を一息に飲み干した。
まだ無言のままのルキアを故意に無視して、海燕はがつがつとおでんを喰らい、手酌で酒を飲み続ける。
あっという間に銚子が空になるその威勢いい飲みっぷりを横で見ながら、ルキアがぽつりと口を開いた。
「ありがとう……ございます」
「あ?」
「私などに、気を使って頂いて」
そう呟いたルキアの頭に手を伸ばして髪をくしゃくしゃと掻き乱すと、海燕はふっと優しく笑った。
笑顔が余りにも似合いすぎるその人に、ルキアはつい目の奥を熱くしてしまう。
じわりと滲み出た涙に当然気づいているだろうに、海燕は微塵も態度を変えずにルキアを見つめ続ける。
「何言ってやがんだ、てめーは」
ぐしゃぐしゃともう一度ルキアの頭を撫でてから、海燕は「ああ」と思い出したように声を上げた。
「そうだ。誕生日っつったら普通プレゼントが必要だよな」
「い、いえそんな!」
「っても、プレゼントになるようなもん、何も持ってねーからなぁ」
何も出てこない着物の懐を探ってどうしたもんかと頭を掻いた海燕が、顔を明るくしてぽんと手を叩く。

「あー、そうだ、これでどうだ?」
随分と速いペースで飲んで、見た目以上に酔っていたのだろう。
横に座るルキアに顔を寄せると、海燕は彼女の頬にそっと口付けた。
「…………っ!」
声も出せずに全身を硬くするルキアに笑みかけて、海燕はまた何事も無かったように杯を口へ持っていく。
それを胃の腑に流し入れながら、海燕は焼け付く喉で普段と変わらぬ口調のままルキアに話しかける。
「まぁ、こんなんじゃプレゼントにはなんねーか」
ははっと高く笑声をあげて横を向いた海燕は、そこに居たルキアの目から流れていた涙に戸惑いの顔を見せた。
まさか冗談のつもりでやったことで泣いてしまうとは思わなくて、海燕は心を焦らせる。
「朽木、てめっ、何も泣くほど嫌がんなくても……」
困ったようなその言葉にふるふると首を横にすると、ルキアは涙で濡れた瞳で海燕の顔を見上げる。
「いえ、嬉しくて…………。……一番慕っている方に、一番欲しかった物を貰えたものですから」
「お前、それ……」
ルキアの口にした内容に、海燕が目を見開いた。
今、こいつは何を言ったんだ。
一番欲しかった物、だと? あれが? それは、まさか、そういうことなのか。
そう思って見返せば、彼女の黒の瞳から落ちるそれはまるで輝く宝石のように綺麗だった。
悲しくて流すのではない嬉し涙の色を、確かにそれはしていた。
「朽木……お前、もしかして……」
海燕がその問いを最後まで言い終える前に、ルキアはその場に背を向けて走り出していた。
「おいっ! 朽木!」
慌てて財布を屋台のオヤジに投げ渡すと、海燕は急いで彼女の後を追った。
その質問に絶対に答えたくないという風に逃げるルキアに後ろから掴みかかって、海燕が力任せに振り向かせる
彼女の頬が赤く染まっているのに気づいた海燕が、疑惑を確信に変えた。
「朽木。お前は……俺を……?」

開きかけた口を聞きたくないという様に遮って、ルキアは声を荒げた。
「訊かないで下さい!」
「朽木……」
その声に、ルキアは後悔するように伏せた頭を両手で押さえ込む。
自分を注視する海燕の視線を感じながら、弱く震えた声音で彼へ謝罪する。
「……すみません、貴方に告げるつもりなどなかったのに……。
優しくされて、酒の席での遊びに本気になって、舞い上がってしまったんです……」
一度言葉を区切って息を吐くと、ルキアは顔を上げ眼前に立つ海燕をぼうっと見つめた。
その瞳から溢れる滂沱に、海燕は喉を詰まらせずにはいられなかった。
「莫迦……ですね」
ルキアは、顔面の筋肉を無理に持ち上げて無理やり微笑んで見せた。
けれど、両目から流れている涙がある以上、その笑みは精々が幼子の強がりにしか見えなかった。
その姿を目にした海燕が、まるで吸い寄せられるように自然と彼女の身体に腕を回す。
腕の中の細く小さな身体を強く抱きしめて、海燕はルキアの耳元に囁いた。
「朽木……、今日だけだぜ。今日だけ、お前の好きにしろ」
「海燕……殿?」
何を言われているのか分からないといった風にか細い声を上げた彼女に、海燕はぼそりと付け足した。
「誕生日、だからな」
こんなものしか、自分にはあげられない。
家庭も立場もある自分に出来るのは、今宵一夜傍にいてやるくらいだ。
それでも、彼女の泣き顔を見たら何かしてやらずにはいられなかった――。

「オメーは何をしてほしい?」
尋ねる海燕に、涙で濡れたルキアの目元がふるふると震える。
本当にそれをお願いしてもいいのだろうかと躊躇いながら、ルキアは縋り付くように海燕へと頼んだ。
もう、どうなってもよかった。それを頼むことで今までの心地よい上下関係すら失われることになっても、構わない。
ただ、この一夜だけ幸せな夢を見ていたいと、ルキアはそう思った。
「抱いて……下さい」
その言葉に「ああ」と答えて頷くと、海燕はルキアの肩を更に強く自分の側へ引き寄せた。
冷たく冷えた手を取って握り締め、そのまま人気のない道を無言で歩き出す。
引っ張られるような力強いその感触に、ルキアが動悸を早くした。

*          *          *

海燕に連れられて、路地の裏にひっそりと建つあまり流行っていなさそうな宿へと入る。
畳の上に一組だけ敷かれた布団が、ルキアを再びどきりとさせた。
「冷えたろ。風呂入ってくるか」
「はい」
各部屋に備え付けの狭い浴場へとルキアが向かおうとしたのを、海燕が微かに笑いながら引き止める。
「じゃ、一緒に入るか」
「……っ! 海燕殿!?」
「部下なら上司の背中ぐらい流すモンだろ?」
そう言うと、海燕は無理やりにルキアの手を引いて風呂場の扉を開ける。
ルキアの目の前で堂々と着衣を脱ごうとした彼をはっと気づいて押し止めると、彼女は慌てて叫んだ。
「そっ、その……準備ができていませんから……先に私が入って用意します! 呼んだら来て下さい!」
準備といっても既に浴槽の湯は熱く張られた状態だし、とりわけ何をするということもないのだが、少なくともルキアにとっては必要だった。
破裂しそうな心臓を抑える、心の準備が。
「分かった分かった。でも、あんま待たせんなよ」

握っていた彼女の手をぱっと離して寝室へと戻った彼に胸を撫で下ろし、ルキアは部屋の間を遮る戸を閉めた。
どうせすぐに見られることになると分かってはいても、目の前で服を脱ぐなどという恥ずかしいことが出来るはずもない。
そろそろと帯を解き、隊服と襦袢を脱ぎ捨てると、手近にあった大ぶりのタオルを巻いて浴場に足を踏み入れる。
もわりと立ち上る湯気と石鹸の香りに、抑えるどころか更に鼓動が高鳴っていく。
どうしようどうしようと軽い混乱に陥りながら、意味もなく湯加減を確認したりする。
しかし、元より用意する必要があるものなど何もないため、すぐに手持ちぶたさになってしまう。
それを見越しているかのように、扉の向こうから海燕の声が響いた。
「おい、まだかよ?」
「いえっ、大丈夫です!」
とっさにそう返答してしまって、更に心臓の音を早くするルキア。
しかし、その鼓動を静める間もなく浴室の扉ががらりと音を立てて開いた。
腰を隠すタオルの一枚すらも身に付けていない素っ裸の海燕を目の前に、ルキアが顔中を赤らめる。
しかしそんな彼女の反応にはお構い無しで、海燕は眼前のルキアを凝視する。
「あぁ? オメー、何だよその色気のねぇ格好は」
「そ、そうは言われても……」
「邪魔だ、取っちまえ」
命じられても頑なに身体を隠すタオルを抑え続けるルキアに閉口し、海燕は力任せにそれを剥ぎ取った。
どうかしたら折れてしまいそうなほど華奢で小さな身体が、海燕の前へと露になる。
一糸纏わぬ裸の自分を見られたことに、思わずルキアが小声で「恥ずかしい……」と漏らした。
「何が恥ずかしいんだよ」
「それは……だってこんなにみっともない身体……」
確かにルキアには、豊満なバストやヒップが存在しているというわけではなかった。
どちらかと言えば、まだ発育途上の子供に近い体型をしているだろう。
しかしそれは、むしろ逆に男の欲望を刺激するものだった。
まだ誰一人触れていない純白の布を己の手で好きな様に染め上げるような愉しみが、そこにはあった。

事実、海燕も目の前にさらけ出されたその身体に、自然と唾を飲み込んでいた。
「みっともない……だ? 何、言ってやがんだか」
「あの……?」
「朽木。オメー、最高に綺麗だぜ」
正面から抱きついて口付ける海燕に、ルキアは抗うわけもなく流される。
舌を巧みに遣って歯列をなぞり、上顎から喉まで舐め上げる舌技に、ルキアはくらくらと眩暈を覚えた。
恍惚に身を委ね、ぼうっとしているルキアの口元から垂れた唾液が、顎を伝ってつぅっと首筋へ落ちていく。
それを追うように唇を下へ動かして、海燕はルキアのそこに淫らな赤い跡を残した。
「んっ」
くすぐったさに身を捩らせたルキアに、可愛いなぁという様に目を細めながら、海燕は彼女に頼む。
「背中、流してくれるか」
「はい……」
素直に返事をすると、ルキアは小さな腰掛に座った海燕の後ろに立った。
湯で軽く身体を濡らしてから、泡立てた石鹸を手ぬぐいに乗せて彼の背中を擦る。
しかしその布の感触に振り返ると、海燕はルキアが更に恥ずかしがるようなことを命じた。
「手で……いや、違ぇな。どうせなら身体でしろよ」
「身体……?」
言われていることが理解できないといった顔のルキアに、海燕はにやりと楽しそうに笑う。
手元にあった石鹸を軽く泡立てると、彼はルキアの裸の胸にその泡をさわさわと塗りたくった。
その指の感触にルキアが身体を震わせるのを面白そうに見上げながら、海燕はルキアに告げる。
「これで、俺の背中を擦るんだ」
「そんな……でき、ません……」
おどおどとそう答えるルキアに、海燕は笑いながら、しかし拒否は許さないというような強い口調で命じる。
「やれよ、ほら」
座ったままルキアの背中に腕を回し、無理やり自分の背中へと寄せる。

接近させられた海燕の背中を前にして、ルキアが覚悟を決めたようにこくんと喉を上下させた。
海燕の肩に両手をかけて、薄い胸をなすり付けるようにして広い背中を上下に擦る。
ざらつく鮫肌に乳首が引っかかるその刺激に反応して、徐々にルキアのそこがぴくぴくと勃ちあがっていく。
(胸が……気持ちいい……)
段々と快感に支配されていく身体から、経験のないルキアは逃れるすべを知らない。
身体の奥から湧き上がるようなむず痒さに促され、ただ全身を熱くしていくだけだ。
「んっ……はぁっ……」
知らず知らずのうちに漏れ出た声は、風呂場の壁で反響したのか実際よりも数段大きく響き渡った。
そのあられもない嬌声に、ルキアがますます顔を朱に染めてしまう。
(恥ずかしい……。私は海燕殿の背中を流しているだけなのに……こんなになって……)
けれど、初めての快感に声を抑えることなど出来ようもない。
その代わりにこの快楽がもっと欲しくて、言われてもいないのに自分から強く胸を擦り付けてしまう。
「あっ……ふぅ、んん……っ」
首筋をくすぐる熱い吐息と背中に密着した胸の感触とに、当然海燕も興奮してしまう。
がばりと振り返ると、彼は身体を押し付け続けるルキアに「もういい」と声をかけた。
そう言われてやっと身体を動かすのをやめた彼女に、海燕は身体を翻し直接対面する。
既にほとんど泡が消えてしまった胸元で、二つの乳首が物欲しそうにぴんと上を向いていた。
悪戯な笑みを浮かべて新たに石鹸の泡を作ると、天を突くそこに指を伸ばす。
「今度は、俺が洗ってやるよ」
そう言って、その周囲を優しく円を描くようにして指先で愛撫する。
ふわふわした泡のぬめる感触が指の与える刺激にあいまって、言い様のないほどの快楽を彼女に感じさせた。
「かいえん……どの……」
今にも泣き出しそうな声でそう名を呼ばれて、海燕がにまりとおかしそうに笑う。
自分のすぐ目の前にあるその嫌らしい笑みに、ルキアはますます切ない声を上げて悶え狂う。
「んっ、……ぁっ、く、はんっ……!」

乳首の上にちょこんと乗せた泡の塊を押し潰すように、ぐりぐりとそこを指で刺激する。
ただでさえ快楽に弱いその部分が、ぬるぬると滑る石鹸のせいで普通に触られるのの何倍もの快感を与えられている。
火照った身体はどうしようもなく、ルキアは海燕にしがみ付いて声を出すこと以外何も出来なかった。
「やっ……変っです、おかし……」
「何がおかしいって?」
くすくすと目元を笑わせながら問う海燕に、ルキアはまともに答えられるわけもなく喘ぎ続ける。
その姿を愛しげに見つめて、海燕は胸を弄っていた両手のうちの片方を彼女の秘所に向かわせた。
「あっ!」
ねっとりと濡れたそこに海燕の指先を感じて、ルキアが羞恥に声を震わせる。
その反応に気を良くしたのか、海燕はわざとルキアの恥辱を煽るようなことを宣言する。
「こっちも、洗ってやんねぇとなぁ?」
泡をなすり付ける手つきに、ルキアはびくびくと全身を震わせて身悶えた。
男の人にそんな部分を触れられるなど初めてで、恥ずかしさからルキアは思わず瞳をぎゅっと閉じた。
けれどそうすると、視界が奪われた分他の感覚が鋭敏になってしまう。
自分を嬲る指先の熱さ、太さが先刻よりも更に鮮明に感じられて、ルキアは荒く熱い息を吐いた。
「……海燕殿……っ」
濡れた声で助けを乞いても、その手は止まるどころか一層に激しさを増していく。
泡塗れの指でくりくりと陰核を弄られて、ルキアが怪我でもしたように「ひぃっ」と口から悲鳴を出す。
ゆるゆると包皮を剥かれて顔を見せたそこに泡がじわっと染みていく感触が、ルキアの頭の中を真っ白にした。
「はっ……ぁ、んんっつ!!」
海燕の腕の中でびくびくっと身体中を痙攣させた彼女を、彼は手加減なく更に責め直す。
「オメーなぁ、これじゃいくら洗ってやっても終わらねぇだろうが」
ルキアの股間から溢れ出る粘液をすくって、指先に絡みつくそれを彼女に見せ付けてやる。
僅かに瞳を開いてそれを見たルキアは、その言葉と実物とに声も出せないほど恥ずかしくなった。
自分が感じている証拠であるそれは、海燕の指でぬらぬらと妖しく輝いている。

それを鼻面に突きつけられて、ルキアはこらえ切れず耳まで真っ赤にした。
その表情をじっと見つめながら、海燕はひどく楽しそうに笑い続けていた。
「気持ちいいか? 朽木」
「は、い……。気持ちいい……です……」
快楽に痺れた脳は、ルキアの口からごく素直にいやらしい言葉を引き出させる。
とろりと蕩けた両の瞳は、更なる刺激を待ち望んで熱く惚けていた。
その可愛らしいルキアの様子に、海燕も興奮を隠しきれない。
先刻から勃ち上りかけていた己自身を、更に硬く張り詰めさせる。
「背中も洗ってほしいか?」
「はい……お願いします」
ルキアの返答を聞いた海燕は、即座に彼女を腰掛へと座らせて、自分はその後ろに回った。
彼女の小さな背中の前に仁王立つと手早く泡立てた石鹸をそこになすり、そのまま自分の身体を密着させる。
彼は手ぬぐいや手でなく、先ほどルキアにやらせたように自分の身体を使って彼女の背中を洗うつもりらしかった。
腰部に宛がわれた硬いものの感触が、ルキアの身体を強い力でぐいぐいと押す。
猛った一物に背中を擦られる熱い感覚に、ルキアの秘奥が触れられてもいないのにとろとろと蜜を溢れさせた。
海燕の大切な部分が押し当てられているのを背中に感じて、ルキアは先刻以上に啼き声を上げる。
「か……海燕殿っ……はっ、ぁっ……」
室内に反響するルキアの甲高い声に、海燕の心の中の男が刺激される。
ぬちぬちと強く上下に擦れば、滑らかな肌の吸い付くような感触に反応した性器が益々天を向いて勃起する。
それが熱さと硬度を増していく様を一々敏感に感じ取って、ルキアはその度に嬌声を漏らした。
感じている彼女の姿を見た海燕が、背後からルキアの胸部に両手を伸ばす。
硬くなっている乳首をつんと引っ張ってぐりぐりと嬲ってやると、ルキアは掠れた声で苦しげに呻いた。
小刻みに身体を痙攣させ始めた彼女に、海燕は動きを止めず両胸と背中とを苛め続ける。
「あっ、はっぅ……ひ……!!」
がくがくっと身体を揺さぶらせてそう叫んだ彼女に、海燕はルキアが達してしまったらしいのを知った。

もっとも、時をほぼ同じくして、自分も彼女の玉の肌に欲望を放ってしまったのだが。
ぼんやりと朧気な様子の彼女が正気を取り戻すのを待って、彼はルキアに済まなそうに話しかける。
「悪い、朽木。ちっとヤりすぎた……」
「い、いえ……大丈夫……です」
まだ今一つ焦点の合っていない瞳でそう答える彼女は、自分の背中が海燕の精液で汚れているのにもろくに気づいていないようだった。
何だか生暖かく濡れた感触が背中を覆っているのに対しても、不思議そうに首を捻るだけだ。
それが何であるか自分からは指摘出来ず、代わりに海燕は気まずそうに彼女に告げた。
「背中……今度は普通に流してやるよ」
「いえ、もう構いませんから……」
「いいから、大人しく言う事聞いとけ!」
顔を赤くして無理やりにそう押し切ると、床に落ちていた手ぬぐいを拾ってごしごしと彼女の肌を洗っていく。
蝋細工のように滑らかで美しいその肌を、傷つけないよう気をつけて優しく擦る。
ふわふわの泡で十分に磨き上げてから、手桶に汲んだ湯でそれを丹念に洗い流してやる。
「海燕殿、そんなに丁寧にしなくても……」
「ごちゃごちゃ言うんじゃねーよ」
制止するルキアを振り切って、海燕はもう一度彼女の身体を上から順に時間をかけて拭っていく。
ルキアの皮膚は驚くほどにきめ細かく、ただ触れているだけでもひどく心地よかった。
それをいとおしむように、海燕はルキアの全身をゆっくりと洗い続けた。
艶やかな黒髪から足の小指まで、体中を舐めるように洗い清めてやっと、海燕は満足いったように彼女を解放した。
水に濡れて更に輝きを増した彼女の小柄な身体を横抱きにして、浴槽へと連れる。
「ひゃぁっ!」
湯の一杯に張られた浴槽にルキアを浸からせると、決して広くはないそれに無理やり自分も身体を押し込めた。
ルキアの後ろへ身体を滑り込ませ、そっと彼女を自分の側へと抱き寄せる。
その温もりを肩に感じながら、身体が存分に温まるまでの長い間、海燕とルキアはずっと無言でいた。
それが今の行為を思い出してなのか、それともこれからの行為を思ってからなのかは分からない。
けれどどちらにせよ、このときの彼らは、まるで声を出したらこの瞬間が崩れ落ちてしまうとでもいうように頑なに言葉を交わさずにいた。

*          *          *

――今夜だけは、幻の中に居たかった。
   今夜だけの、幻の中は痛かった。
   けれどこの時の私は、痛みなど気づかないふりをしていた。


ざばりと大きく水面を波立たせて、ルキアが風呂から身体を上がらせた。
そのままくるりと身体を回して海燕に向かい合うと、その両肩に腕をかけて彼を立ち上がらせる。
長くその場を支配していた沈黙に耐え切れなくなったのだろうか。ルキアは必死で彼の名を叫んだ。
「海燕殿……」
眼前に居るその人に倒れこむようにして上半身を預けると、ルキアはきゅっと広い胸に両腕を回した。
肌の触れている部分から温かい温度が広がっていくのを感じ、ルキアが瞳を閉じる。
「貴方をもっと……感じさせてください……」
震える声でそう呟くと、ルキアは海燕の性器へおずおずと手を伸ばした。
突然の行為に海燕の顔色が変わるのも待たず、ルキアはそれを小さな掌で覆う。
両手を重ね指を絡めると、きゅむきゅむと軽く上下に動かす。
その動きに反応して手の中で硬くなっていく男性器の熱さを感じながら、ルキアは強くそれを愛撫する。
もたげた鎌首を愛しげに撫で上げると、ルキアはなおも丹念に掌全体を使ってそこを扱き上げた。
透明な粘液が溢れるのを楽しそうに見つめつつ、亀頭を指先でぐりぐりと弄くる。
同時に敏感な裏筋を上下に刺激されて、つい海燕が「んっ」と声を漏らす。
それを聞いてどこか嬉しそうに顔を綻ばせると、ルキアは頭を低く落として跪き彼のそれを口に含んだ。
既に大きく張り詰めた怒張はルキアの小さな口には巨大すぎるらしく、入りきらなかった根元が余ったままだ。
なんとか全部含ませようと顎を精一杯にまで開いたルキアの目には、苦痛からか涙が滲んでいる。
口淫など初めてなのかルキアの舌遣いは酷く未熟で、決して巧みとは言いがたかった。
恐る恐る絡める舌、巧く動かすことの出来ない唇。
けれどその稚拙な行為が、口いっぱいに海燕のものを頬張って必死に奉仕しようとする彼女の姿と相まって、ひどくそそらされた。
時折苦しそうに眉を顰めつつも、瞳そのものは幸せそうな表情を決して崩さないルキアに、いやがおうにも興奮させられる。
見下ろすルキアの扇情的な表情に、海燕は思わず彼女の口腔内に詰め込まれた一物を益々大きくさせた。
猛った性器が狭い口内をぎちぎちと目一杯広げ、喉の奥まで易々と到達する。
射精が近いのを知らせる濃い液がルキアの口腔に溢れ、唾液と混じったそれが開いた唇の端から一筋垂れ落ちた。
「ふっ……ん、っ……う」

苦しそうに呻くルキアの様子に「無理すんな」と呟くと、海燕は彼女の頭に腕を伸ばし無理やり自身から離した。
嚥下し切れず喉の奥に残った苦い粘液を無理に飲み下すと、ルキアは切れ切れの荒い息で何度か深く呼吸する。
しかしその呼吸もろくに収まらないうちに、ルキアは再び海燕を軽く屈ませ、その身体へと腕を伸ばした。
片手を相手の肩に回し、もう片方の手でその口を何も喋れないよう塞いでしまう。
そのまま、ルキアは射精寸前にまで膨張した海燕の男根を両足で跨いだ。
何かを叫ぼうとする海燕の口に更に強く手を押し当てると、ルキアは立位のままゆっくりと腰を沈めた。
「…………んっ、はぁぁっ!!」
一気に中まで割り広げられて、高く長い悲鳴がルキアの口から漏れ出る。
先刻多少愛撫されたとはいえ、ほとんど解されていない状態での挿入など辛いに決まっている。
そのうえ、体勢のせいで普通にするよりも深い所まで突き刺さっているのだから、苦しいのも当然だ。
実際、ルキアの表情には苦悶の色が浮かび、見ているこちらのほうが痛々しくなってくる程だった。
「くち……」
『朽木』と名を呼ぼうとした海燕の台詞は、しかし宛がわれたルキアの掌によって途中までしか発されなかった。
ルキアは海燕の目を見つめてふるふると首を横にすると、今にも壊れてしまいそうに細い身体を密着させて囁くように口にした。
「頼んだのは、……誘ったのは私ですから」
元から白い顔色を病気か何かのように薄っすらと青ざめさせて、ルキアはそう言った。
その言葉の意味が分からなくて、海燕は力に任せ彼女の細腕を振りほどく。
「何ワケの分かんねーこと、言ってやがる?」
尋ねるというよりも詰問するような口調で低く声を上げた彼に、ルキアは何も口にせず困ったように笑った。
答えの代わりに海燕へ身体を寄せてしがみ付くと、彼女はそのまま激しく腰を前後させる。
しっかと海燕の腰を腕で掴んで、がくがくと己の身体を揺さぶらせる。
快感よりも痛みが大きいのだろう。ルキアの瞳は苦痛に大きく見張られ、全身の筋肉が硬く緊張していた。
「――――っあ、は、……ぁあっ!」
絶え絶えに何とかぜぇはぁと息しながら喘ぐルキアに、海燕が制止しようと肩を掴んで絶叫する。
「おい、やめろよ朽木! 無茶すんな!」

「っく、ひ……ふぁ……」
「聞こえてんだろ!? 慣れねぇことしてんじゃねえよ!」
その怒声に重なって、ぱんっと乾いた音が響いた。それは、海燕がルキアの頬を平手で張った音だった。
突如頬を刺した痛みに流石に動きを止めたルキアが、海燕の顔を見上げる。
彼女の純白の肌が赤みを帯びているのに済まなそうな顔をしながらも、海燕は至極沈んだ声で戸惑った様に問うた。
「……お前は、自分からこんなことする女じゃねーだろうが」
そう言って自ら叩いた頬に痛ましげに指を這わせると、海燕は彼女に口付けた。
覗かせた舌先で彼女の口唇をなぞり、唾液でゆっくりと濡らしてから熱の篭った唇を重ねる。
まるで子供をあやす様に優しく時間をかけて、心を落ち着かせるためのキスをしてやる。
その温かい感触に張り詰めていた力が抜けたのか、ルキアががくんと身体を前のめりに倒した。
海燕に支えられ、ぽつりと蚊の鳴くような小声で言葉を漏らす。
「行為を強制したのは私であって、貴方には何の落ち度もないのだと……そう、思って頂きたくて……」
「…………っ」
その言葉に、思わず海燕は息を呑んで眼前の少女を驚きの目で凝視した。
ルキアの痛々しい想いに気づかされた彼には、言葉を発することすら不可能だった。

彼女は、分かっているのだ。
海燕が愛しているのは唯一人、妻だけであるという事実を。
そして、その彼女を裏切ってこうして他の女性と抱き合ってしまったら、その後に海燕がどれほど己を責め苦悩するかを。
だから、海燕が自分から動く前に、こうして無理に身体を重ねようとした。
海燕の罪の意識を、僅かでも少なくし、和らげるために。

何て不器用な女だ、と海燕は思わずにいられなかった。
もっと単純に、一夜だけなら一夜だけと最初から割り切って楽しめる性格なら、ここまで心を傷だらけにすることもないだろうに。

そう嘆息する反面、けれど、それゆえに彼女への愛しさが心の底で募っていくのを感じた。
いけない、と心がブレーキをきかせようとする。
深みに嵌っていきそうな己に、脳が冷静に命じる。
これ以上は止めておけ。そうでなければ、きっと取り返しの付かないことになるから、と。
けれど、一度生み出た思いはそう簡単に消えず、海燕は強く強くルキアを自分の側へと抱き寄せ囁いた。
「…………好きだっていったら、迷惑か」
その言葉に、一瞬息を張り詰めさせるような間をおいてから、ルキアは一言「……いえ」と呟いた。
頭を海燕の胸元へと伏せていたので、表情は見ることができなかった。
けれど胸部に流れた水滴で、彼女が涙しているのだけは分かった。

――もっとも、それが嬉し涙か、悲しみの涙かまでは、あいにくと海燕に知るすべはなかった。

いけないと分かっていても、その少女を抱きたいと思う自分がいた。
光に寄せられその身を焦がす虫のように、彼女に惹かれる思いを止める事は出来なかった。
「朽木。……ごめんな」
小声で謝って、海燕はルキアの唇をそっと奪った。
唇同士を重ね合わせるだけの子供のようなキスを、海燕はルキアに捧げる。
それ以上のことをして自身の押さえが利かなくなるのを恐れるかのように恐々と、海燕はルキアの背中に伸ばした腕を絡ませた。
力任せにルキアの身体を抱きすくめ、きゅぅと両腕で包み込むと、上から押さえ込むようにして耳元に唇を寄せる。
「今度は俺から抱かせてくれ」
「海燕殿、それはっ……!」
囁かれたその言葉に瞳を見開いたルキアが、必死の形相で頭を横に振って反論する。
しかし、説得しようとするルキアの声も聞かず、海燕は無理やりルキアを己の側へと引き寄せた。
硬い胸肌に頭を押し付けられ海燕の熱と鼓動をその肌で感じたルキアが、怯えからかびくんと身体を強張らせる。
「駄目なんて言っても聞かねぇよ」
再びそう呟くと、海燕は彼女の耳朶をはむはむと軽く食んでからぺろりと中を舐めた。
尖らせた舌先をくちゅくちゅと内部に差し入れすると、ルキアがびくんと身体を揺らして哀願する。
「あ、……っ! い、いけません!!」
「いいから、素直に感じてろ」
ルキアの首筋を上から下へと舌でなぞって、その新雪のように白く滑らかな咽喉元を喰らい付くように甘く噛む。
獣が獲物の味でも見ているかのようにそっと噛み付いて、海燕はそこに小さく歯形を残した。
今夜限りの関係ならば、せめて、少しでも後に残る物を刻み付けておきたい。
「海燕、どの……」
その行為にルキアが呼吸を止めて身体を粟立たせたのを確認し、海燕は彼女の身体を陵辱し始める。
首から肩口にかけての道筋を何度となく唇で吸い上げて、幾つもの赤い痕で彩ってやる。
口唇が寄せられるたびにルキアが「ひっ」と息を飲み、まるで怯えてでもいるかのようにびくっと身体を竦めさせた。
「あっ、も……それ、以上は」
「嫌だなんて、言わないでくれ」

ルキアの制止を遮ると、海燕は大きな手で彼女の胸元をふうわりと覆った。
優しく、暖かく、けれど情熱的に、その手がルキアを追い詰める。
熱そのものを固めた様に熱い海燕の掌が、ルキアの薄い胸をやんわりと揉みしだいていく。
片手で容易に隠してしまえるほど小さなその乳房は、吸い付くように柔らかな手触りをしていた。
「は、ん……あぁっ」
甘く弱い吐息を開いた口から漏らす彼女の姿に触発され、海燕はルキアの胸を更に強く刺激した。
両手の指先を胸の中央で硬くなった突起に伸ばして、こりこりと上に向けて摘まみ上げる。
親指と人差し指との間ですり合わせるようにしてやれば、ルキアが戸惑うように瞳を揺らして彼を見上げる。
快感を得る事を恐れるようなその表情に余計興奮を煽られて、海燕は最前以上にそこを攻め立てた。
「ぁ、あ゙っ!! はぁんっ!」
風呂場に響く嬌声が、一段激しく大きなものへと変化する。
ぷつんと勃ち上がった乳首を海燕の指先で好きなように転がされ弄ばれては、声を耐えることなど出来なかった。
あらん限りに喘ぐルキアをもっともっと乱れさせたくて、海燕はルキアのそこに唇を押し当てた。
「えっ!?」
伸ばした舌が、色づいたルキアの突起をぺろりと舐め上げる。
途端、びりびりと雷にでも打たれたかのような鋭い感覚が、全身を貫いて襲い来た。
「や、これ、嫌……」
「それが嫌ってツラかよ」
「だって……、ひ、ひゃんっ!」
鋭く尖らせた舌でぺろぺろと舐られて、同時にもう片方の乳首も指先で刺激される。
左右の突起が、共にこれ以上ないというほど硬くぷつんと張り詰めている。
「んっ、かいえ、どのぉ……っ」
目に溜まっている涙は拒絶の意思ゆえか、それとも快楽に溺れてのものだろうか。
名を呼びながら抱き付いてくるルキアを、海燕は更に強く攻める。
唇での刺激をそのままに片手を両足の間へと持って行く。

既に熱を持っているのを指先で確認すると、海燕はルキアのそこを伸ばした中指で軽く擦り上げた。
ぬるぬると滑る粘液が指に絡みつき、いやらしい気分を増徴させる。
「ひぁっ、駄目です! や、……ぁっん゙!」
敏感な芽は、ルキアの言葉と裏腹に海燕の指を悦んでいる。
ぷっくりと充血したそこをくにくにと触れられて、快感の火種が激しく煽り燃やされる。
「あっ、ぁぁっ!! やっ、そんなに、されたら……」
「どうなる? おかしくなりそうか?」
いつもと変わらない優しい笑顔のままで、海燕はルキアにそう尋ねた。
それにはぁはぁと喘ぎながら首を縦にしたルキアに、海燕が一瞬真剣な顔になって告げる。
「……なら、おかしくなっちまえ。今は、真面目な部下の振りも出来た妹の振りもしなくていいから」
海燕の指がルキアの突起を摘まみ、そっと包皮を剥いていく。
そのぞくぞくするような痛みと快楽の混濁した感覚に、ルキアが全身をぶるりと震わせる。
皮から仄かに顔を見せた赤いそこをそのままぐりぐりと指で押しつぶされ、びくんびくんと身体が揺れた。
「俺には、本当の顔を見せろよ」
言ってそこから手を離すと、海燕はルキアの膣内にそろりと指を押し込んだ。
愛液でとろとろと湿ったそこは柔軟で、海燕の指を難なく飲み込んでいく。
そうしてくちゅくちゅと内壁をかき回すと、ルキアが肩を揺らしてしがみ付いてくる。
海燕の背にがっしりと立てられた爪の先は、痛いがどこか心地良い。
その鈍痛を背中に感じながら、海燕はゆっくりとルキアの中を解し慣らしていく。
ルキアのほうから仕掛けられたとはいえ、先ほどの行為はあまりに突然だった。
あれでは、向こうも快感など殆ど無かったことだろう。
どうせ抱いてやるのなら、今度は精一杯優しく、気持ちよくしてやりたかった。
「あっ、な、かに挿入って……っ」
内奥に触れられる独特の感触に、ルキアが総身を打ち震わせる。
見開いた瞳でこちらを見つめる表情は、愛しいという以外の言葉で言い表せなかった。

「痛くねーか」
胸に去来するその思いを無理やりかき消すように、海燕はそう尋ねる。
その問いに絶え絶えな息で「いえ」と答えるルキアに、出来る限り素っ気無く「そうか」と返す。
ルキアの反応を見ながら、中を侵す指を、一本、また一本と徐々に増やしていく。
もっとも、快感の波に犯されている当人は気付く余裕もないようだけれど。
「っ、んんっ、海燕どの……もうっ……」
「もう、何だ」
そこで止められた台詞の続きがどちらなのか、海燕は動かしていた手を止めてルキアに訊く。
「止めてほしいのか。それとも、抱いてほしいのか。どっちだ朽木」
海燕の言葉に、ルキアがぜんまいの切れた人形みたいに、動きを停止する。
その問いがひどく残酷だと了承していて、けれど、訊かずに彼女を抱くわけにはいかなかった。
常に自身の思いを押し殺して生きているような相手だから尚更の事、彼女の声で教えて欲しかった。
時を止められたかのように固まったままでいるルキアに、海燕が再び言葉をかける。
「……お前の、本当の顔を見せてくれ」
その言葉に心の内の何かが外れたのか、ルキアは海燕に全身で縋りついて、荒い息のまま涙声をあげた。
「抱いて、ください……っ」
枯れて震える弱弱しい声音で、それでも彼女は眼前の男にはっきりと告げた。
その言葉に何も答えず、ただ頷いて肯定する海燕に、ルキアは尚もきつく取り縋る。
「海燕殿……、好きです。ずっと、ずっとお慕いしていました」
「ああ」
「ずっと、ずっとこうされたいと……、思って……」
そう口にするルキアを無言でぎゅぅと強く抱きしめ、海燕は彼女の唇に淡く口付けた。
嗚咽混じりのその本心に、対峙する海燕はふっと表情を緩めた。
眼前に泣く少女はあまりに美しく、そしてそれ以上に脆く儚く見えた。
指で十分に解された入り口に、硬く勃起した性器を押し当てる。

その感覚に息を呑んで目を瞑ったルキアの耳朶に、海燕が唇を寄せて囁き訊く。
「いいんだな」
「……はい」
その肯定を契機に、海燕がルキアの細腰をむんずと抱いて引き寄せる。
容易に折れてしまいそうなそこを両腕で抱え込むと、海燕は己の下半身に力を込めた。
「あ゙っ……い、ぁっ、海燕殿、かいえ、どのぉっ……!!」
海燕の猛った性器が、少しずつルキアの奥へと入っていく。
むっくりと太い亀頭が小さな割れ目を無理に抉じ開けていく痛みに、ルキアは抵抗するよう髪を振り乱す。
潤っているとはいえ、海燕の一物を受け入れるには、彼女のそこは狭く浅い。
中に侵入される感触に身を震わせながら、彼女は「んんっ」と苦しそうな息を吐いた。
「大丈夫か」
「は、い……。もっと、全部、海燕殿を全部ください……」
苦痛に息を乱しながらもそうねだるルキアに、海燕は素直に従って行為を続行する。
少女の小さな身体を極限まで密着させて、屹立した性器を奥の奥まで推し進める。
ルキアの呼吸が落ち着くのを待って軽く動いてやれば、押し寄せる快感に戸惑いがちな嬌声が漏れる。
「ん、あっ、き、もち……い」
その声にこちらも色欲を煽られて、海燕はルキアの内部をゆるゆると嬲る。
円を描くように腰を動かして内壁を犯せば、ルキアがますますしがみ付いて爪を立てる。
「あっ、……い、です……。うれしい、……です」
海燕の胸元に頭を埋め、ルキアは何度も同じその言葉を繰り返した。
その度に、海燕はルキアの頭をそっと撫で、水を含んで艶々と光る髪を愛しげに掻き乱した。
「っ、……やっ、ん゙んっ……!」
激しい腰の突き上げに、ルキアは意識を飛ばしそうになりながら必死で己を保つ。
その表情が可愛らしくて、海燕は一層強くルキアの中をがしがしと攻め立てる。
「もっ、達ってしまいます……抜、いて、」

「嫌だ」
『お前だって、本当は抜いてなんかほしくないくせに』。
海燕がそう囁くと、ルキアはびくんと瞳を大きくしてふるふると頭を左右に振った。
「駄目、です。抜いてくださ……外で、外に……」
けれどその仕種にも構わず、海燕はルキアの中を強烈に擦り上げる。
与えられた刺激に「ひんっ!」と喘ぐルキアを、海燕は冷たく見据えて言う。
「このまま達っちまえ。俺も、そうする」
「でも」
「どうせ、今夜だけなんだ」
自分でも驚くほど、冷徹な声音を出していた。
そう、どうせ今日一晩だけなのだ。この少女を抱けるのは、愛せるのは。
それならせめて、今夜だけは好きなように。
「いいな」
「……はい」
観念したように静かな、けれどどこか嬉しそうな思いを秘めた声でルキアがそう返した。
その返事を聞いて、海燕が再び腰を打ち動かす。
身体同士が擦りあわされる淫靡な音が室内に響いて、いつまでも消えずに残存する。
二人の吐息が、汗が、そして体液がぐちゃぐちゃに混ざり合って、共におかしくなっていく。
「あぁっ、もう、イ……んん゙ーーっっ!!」
鈴が鳴るように高い声で一啼きして、ルキアががっくりと身体を落とす。
それに少し遅れて、海燕もまた、ルキアの内に欲望を溢れさせた。
ルキアの膣内に、海燕の精液がどくどくと流し込まれていく。
粘る白濁をその身に注がれ、ルキアは海燕の胸の中で何かを呟いた。
それは酷く掠れて、聞き取りがたいほどに小声だったが、海燕には彼女がなんと言ったかよく分かった。

「ありがとうございます」

彼女は確かに、そう言っていた。


*     *     *


人に出くわさぬよう気を付けながら、二人で並んで白み始めた空の下の道を歩む。
もうこんな日が来ることは二度とないだろうという確信が、ルキアを少しばかり大胆にした。
隣を行く海燕の袖をくいっと掴んで引っ張ると、立ち止まった彼へ踵を浮かせて背伸びする。
柔らかい唇に口付けて、この時間が終わってほしくないというように吐息を重ねた。
それを咎める事も拒む事もせずに、海燕はされるがままでいた。
「海燕殿……もう、朝ですね」
「ああ、そうだな」
離した唇を動かしてルキアがそう呟くと、まるでそれが終わりの合図だとでもいうように、海燕は瞳を彼女から逸らした。
昇りつつある朝陽を仰ぎ見て眩しそうに目を細めながら、ぽつりと言葉を漏らす。
「……朽木、悪ぃ。今日のことは、夢だと思ってくれっか」
胸から絞り出したようなその言葉に、ルキアはいやな顔一つせずに「はい」と頷く。
微笑すら湛えて答えるその聞き分けのよい返事に、海燕は自分が頼んでいるのがどれだけ汚いことか思い知らされた気がした。
「元より、そのつもりです。これは一夜の夢……。私が見た、ただの夢ですから」
言って僅かに瞳を伏せる彼女の顔にかかった翳は、思わず息を呑むほどに美しく鮮烈だった。
「……すまねぇ。俺、酷いことを頼んでるよな」
「そんな。先に酷いことを頼んだのは、私のほうですから。海燕殿こそ、今夜のことは悪い夢だと思ってください」
言って、彼女は笑った。誰よりも美しく、何よりも幸せそうに。
その笑顔に胸を射抜かれて、また掻き抱きたくなる想いを必死に抑え、海燕は「ああ」と呟いた。
もしももっと若い頃に出会っていたのなら、きっと自分はこの少女に恋をしていたことだろう。
けれど現実の自分には妻が在り、地位が在り、そして何より良識が在った。
海燕は、その全てを彼女のために捨てられるほどに無鉄砲では無かった。

――それでもこの心の中に、きっと彼女は居続けるのだろう。
恐らく死に臥す瞬間まで、自分はこの夜の出来事を忘れることなど。

「朽木」
先に行く少女をふと呼び止める。
振り返った彼女に、海燕はもう一度だけ何か言いたくて、けれど、何と言えばいいか分からなかった。
「誕生日、おめでとな」
結局、口をついて出たのは何のセンスも面白みも無いそんな言葉で。
それでも、そんな彼の言葉に、ルキアは心から嬉しそうに頷いたのだった。



「誕生日、おめでとな」
そう言って、あの日貴方がくれたのは、忘れられない思い出でした。
一夜の夢と思ったそれは、千夜続けて夢に見る。
私は貴方を心に思い、独りの夜を泣き眠る――。


(完)