朽木ルキア大ブレイクの予感パート11 :  ハルキ氏 投稿日:2005/10/19(水) 00:05:49

※続編になります。先にこちらをお読み下さい。


『――結』


十三番隊の隊長と、養女とはいえ朽木家の娘との婚約話は、旋風の勢いで各隊を駆け巡った。
「吉良君、聞いた? 朽木さんと浮竹隊長の話」
「もちろん。うちの隊でもすごく噂になってるからね」
「……でも私、朽木さんは阿散井君と結婚するんだと思ってた」
「僕も、そうじゃないかと思ってはいたけど……」
雛森桃と吉良イヅルの二人もまた、舞い込んで来たその噂に対しての忌憚ない意見を話し合っていた。
ルキア達と同期入学の彼らは、二人を一番近くから見続けてきた存在である。
ルキアと恋次がどれほど互いを想い合っているか知っている身からすれば、彼女が他の人間と結婚するなど信じられぬことだった。
「あ、阿散井君……」
丁度廊下の向こうからやってきた恋次を見つけた雛森が、小さくその名を呼んで彼を呼び止めた。
「おう、雛森。何だよ?」
「……阿散井君は知ってたの? 朽木さんの婚約のこと……」
「ちょ、ちょっと雛森君!」
吉良が止めようとするのも遅く、雛森はどこか青ざめた悲しげな顔で恋次を問いただす。
一瞬だけ言葉を失い無表情になった恋次が、しかしすぐさまいつもの笑顔へと表情を戻した。
「いや? 俺もつい最近聞いて驚いた」
「……阿散井君は、それでいいの……? だって……」
問を重ねる雛森に、恋次は仮面をかぶったような微笑を崩さぬままでひどく冷静に答える。
「それでいいも何も、俺とあいつは元からただのダチだよ」
さらりと呆気なくそう返答されて、雛森が不可思議そうに眉を顰める。
その彼女に、恋次は未練など皆無だというように翳りのない顔つきで言づてを頼んだ。
「……あ、そうだ雛森。お前、あいつに会ったら伝えてくれよ。『ごめんな、おめでとう』それと」
そこで一旦言葉を区切ると、恋次は飛び切りの晴れやかな笑顔で雛森に続きを告げた。
彼のその表情があまりに優しげに過ぎて、二人はそれ以上何も追求することはできなかった。
「……『幸せになれよ』ってな」

*          *          *


半月後――。
瀞霊廷内の高級料亭・紙葉庵で、浮竹朽木両家での顔合わせの会が設けられることとなった。
少し早く着すぎたと手洗いへ立ったルキアは、座敷へ戻る最中に突如高い声で呼び止められた。
「あれっ、朽木さん!?」
「雛森……吉良?」
その聞き覚えのある声に振り向けば、そこにいたのは元同級生の出世頭・雛森桃と吉良イヅルだった。
仕事中こそ上下関係があるとはいえ、こうしてプライベートの時分には友人同士の身である。
「ふむ……お前らがそういう仲だったとは」
ここは、友達同士が軽くお茶をするような店ではない。
それを指摘して茶化すと、雛森は真っ赤になって両手をぶんぶんと振った。
「ち、違う違う! 今日は副隊長同士の親睦会なの。伊勢さんや松本さんも向こうにいるんだってば!」
「何だ、そうなのか」
「当たり前でしょっ! ……あ、そうそう。そういえばあたし、阿散井君に伝言頼まれてたんだっけ」
その台詞に、ルキアが表面上は取り繕った顔で、その実、鼓動を大きくはやらせる。
「伝言……?」
「うん、えーっとね、確か」
「『ごめんな、おめでとう。……幸せになれよ』」
思い出そうと瞳を斜め上に向けていた雛森の代わりにそう口にしたのは、彼女の後ろに立っていた吉良だった。
それまで雛森の陰に隠れるように言葉を話さずにいた彼が、むっつりとしてそれだけ口から吐き出した。
そうしてから、がんと伸ばした腕でルキアの双肩にがっつりと掴みかかり、泡を飛ばす。
「……朽木女史。本当にいいのか!? 君はこれで、本当によかったのか?」
「……何を言う」
ルキアの返答に瞬きをするほどの短い間があったのを、吉良は見逃さなかった。
「僕は今日、これから阿散井君と会う約束を交わしている。六時に、西の大枝垂れ柳の前で」
「それが、何だというのだ」


「僕は其処へ行かない。……だから、代わりに君が行け」
「吉良、貴様……!」
額に青筋を浮かべて激情を見せるルキアに、吉良もまた、張り合うように激昂して叫ぶ。
「僕は! ずっと君達の関係に憧れてた! お互い何の遠慮もなく話し合って、笑い合って。そんな君たちが羨ましかった!」
喉が枯れるほど絶叫したからかそこまで言ってはあはあと荒く呼吸すると、吉良は再び顔を暗くして小声で呟いた。
「ごめん。余計な真似だって分かってるよ。でも……」
すたすたとルキアを背にして歩き出した吉良を、雛森が慌てた声で名を呼んで後を追う。
「吉良君!」
その足を一瞬止めて振り返ると、雛森は蚊の鳴き声の様な細い声音でルキアに告げた。
「あのね、あたしは浮竹隊長って素敵な人だと思うよ。でも、やっぱり朽木さんの隣が似合うのは……」
濁した言葉尻では、そこまでしか聞き取れなかった。
けれどルキアには、雛森が何を言いたかったのか分かった。
分かったからこそ、胸が万本の針で刺されたように痛んだ。
その場に一人取り残されると、呆然とする頭の中を恋次からの言づてがリフレインした。
『幸せになれよ』だと? どの口でそんなことを抜かすのだ。
私を本当に幸せにできる人間など、この世でたった一人しか居ないだろうに――。
……駄目だ。忘れると誓ったはずだ。
それを今更心が揺らぐなど、私は一体、どこまで弱い人間なのだ。
「…………恋次……」
その名を口に出すと、愛しさが何倍にも膨れ上がった。
胸いっぱいに閉める彼への想いが苦しくて苦しくて、呼吸が出来なくなりそうだった。
折れそうなほど奥歯を噛み締めて、今にも泣き喚いて走り出してしまいそうなのを堪える。
鉄の味がしてふと気を緩めれば、いつ噛み千切ったのか強張らせていた唇から一筋の血液が垂れ下がっていた。
指先で拭ったその血の色さえ、愛しい人の赤い髪を思い出して涙腺を刺激する。
何をされようとも嫌いになれない。忘れることなど、尚更出来ない。


自分の世界を占める唯一の人。
「ふぇ、……れん、じぃ……っ」
せっかく時間をかけてはたいた頬の白粉も、瞳から流れた雫のせいで剥がれ落ちてしまった。

――彼女が名前を呟くのを、廊下の向こうで聞いた者がいた。
一度深く嘆息してから、その影は静かにもと来た道を戻った。

その場で立ち竦むルキアに、再び声をかける者が現れた。
「ああ、ルキアちゃん。ここにいたのかい」
「……京楽隊長? どうして……」
突然話しかけてきたその大柄な男に、ルキアは戸惑いを隠せず声を上げる。
慌てて目元を拭い、赤い目を見られぬよう故意に下を向いたまま受け答えする。
「実は、浮竹のやつがまた調子を悪くしてね、今日の会は延期にしたいそうだ」
その言葉に、既に歯止めががたがたに壊れかけていたルキアの心がかたりと押される。
俯いたままの彼女の表情に気づいているのかいないのか、京楽は飄々とした調子で続けた。
「白夜君もまだ到着していないようだし、悪いけど、今日のところは一人で帰ってくれるかな?」
「は、はい……。わざわざ済みません京楽隊長」
頭を垂れているルキアの艶やかな黒髪をさわさわと無造作に撫でると、京楽はそれ以上何も言わず、にこりと笑って去っていった。
その広い背中を見やりつつ、ルキアは己の覚悟を決めた。
何を捨ててもいい。自分自身にこれ以上、嘘は吐けなかった。

          *          

浮竹隊長、貴方が好きです。
貴方となら幸福を得ることが出来るかもしれないと、ついさっきまでは思っていました。
けれどやはり、自分を騙し続ける事は不可能なようです。
……私は貴方の優しさを利用して、そして今裏切ろうとしています。
恨んでくれて構いません。なじってくれて構いません。
それでも今あいつへの想いを形にせねば、私はきっと生涯後悔するでしょうから。
だから、ごめんなさい――。

          *          

京楽が見えなくなるや否や飛び出すと、ルキアは嵐のように駆け出した。
行く先は、赤髪の男が待つ場所。

*          *          *

「あれで、よかったのかい?」
「ああ、すまないな」
廊下から戻った京楽が、座敷の内の奥まった一室へと足を踏み入れる。そこにいたのは、体調を悪くしたはずの浮竹だった。
苦い顔で窓際に立ち外を見つめながら、浮竹は一つの魄動が料亭から離れていくのを感じていた。
「……まったく。お人好しだねェ、君は」
消沈する彼をからかうように、しかし包み込むような穏やかさで京楽は浮竹に話しかけた。
それを煩そうに跳ね除けて、泣き笑いの表情で浮竹は返す。
「全くだ」
それだけ言うと、憑き物の落ちたようなさっぱりとした顔でからりと笑って、彼は親友に頼む。
「京楽。……今日だけ胸を貸してくれないか」
「学院時代から、僕は失恋するたびに君に慰めてもらってもんなァ。たまには逆もいいか。今日だけと言わず、いつでもどうぞ」
そう軽くおどけてみせてから腕を広げた京楽へ、浮竹はゆらりと身体を寄せた。
自分より更に長身のその肩口に頭を沈めて、震える喉で、けれどきっぱり言い放つ。
「いや、今日だけさ。……俺は、誰かを愛しながら他の女に恋出来るほど、器用な人間じゃないからな」
友人の肩越しに窓の外に咲く桜をぼんやりと眺めつつ、浮竹は長く重い息を吐いた。


*          *          *

枝垂れ柳に、落ちかけた夕日の紅が重なる。
息を飲むような情景の中に、その陽よりもさらに赤い髪の男が立っていた。
今日が両家の顔合わせの日なのだと、散々騒がれた噂のせいで恋次も知っていた。
(これで……いいんだよな)
ルキアの幸せを思えば、一隊員でしかない自分などよりあの人と身を固めたほうがいい。
それが分かっているのに、こんなにも頭が痛いのはどうしてだろう。
ちっと舌打ちして目の前の木の葉を引きちぎり、吹いた風に乗せてそれを空へと飛ばす。
葉の飛散していった方向をぼうっと目で追っていた恋次が、草原の向こうにちらりと見えた人影に目を大きく見開いた。
「おっまえ……何で……!?」
「……来て、しまった」
てくてくとこちらに寄って恋次の目の前で平然と言うルキアに、大慌てで口を速める。
「ばっ、馬鹿野郎! 何やってんだよ? 早く戻らねぇと……」
「馬鹿はお前だ!」
その言葉に叫ぶと、ルキアは恋次をじっと見据えた。
漆黒の瞳が恋次の目を捉えて離さず、溢れ出る言の葉が恋次の耳を縛って動かさない。
「浮竹隊長は素晴らしい方だ。けれど、けれど私には、やっぱりお前しか居らぬ。
お前以外の誰にも、私は焦がれる様な想いなど抱けないのだ……」
ルキアは恋次を睨むように凝視すると、縋るような口ぶりで問うた。
「お前は、私が嫌いか……?」
そんなわけない。そんなわけないだろう。でも。
でも、俺にはルキアをこの手に抱く資格なんて無い。
あんな酷いことをしようとした俺にはもう――。
「お前は俺が何をしたか知らねぇから、そんなことが言えんだよ! 俺は……っ」


空を仰ぎ苦悩しながらの咆哮を、ルキアが遮った。
「斑目殿のことなら、知っておる」
「なっ……」
「知っていて、その上で言っておるのだ。私にはお前しか居ないと」
ルキアの言葉に、恋次が唖然とした顔を見せる。
けれど、視線の先のルキアは全てを許す聖母に似た瞳を、真っ直ぐ恋次へと向けていた。
呆然とした怯えるような声で、恋次は眼前のルキアへと尋ねる。
「……いい、のか? 俺で……いいのか?」
「――当たり前だ」
少女がその返答を口にした次の瞬間、恋次はルキアを固く抱きしめた。
「ルキア!!」
腕の中に確かにあるルキアの感触に、恋次は我を忘れて更に強く彼女を抱きすくめる。
もう二度と離さぬように、誰にも渡さぬようにと、恋次はルキアの細い身体を精一杯にかき抱く。
言葉など必要ないという風に二人は抱き合い、そのまま長い間、一つの彫像のように動かずそのままでいた。
さながらすれ違っていた今までの時間を埋めるかのように、ぴたりと触れ合って微動だにしない。
しかしその美しくシリアスな光景は、「ん?」と眉を寄せて疑問を放ったルキアの一言によって即座に幕を下ろした。
「恋次……その、何か当たっておるようなのだが……」
彼女のその言葉を聞いて、見る間に恋次の顔が熟した林檎の実の様に真っ赤になっていく。
「あ、い、いや……その……」
何とか誤魔化そうとするのをすぐさま諦めて、恋次は無理やり己の身体の変化を正当化した。
「しっ、仕方ねぇだろうがっ! 惚れてる女抱いてこうなるのは男の摂理だ!」
いくら何でもこの位でこうも勃ってしまうなんて普通はそう無いのだが、男の生理に付いてあまりよく知らないルキアは素直に納得したらしい。
ふんと首を頷かせて、甘く香る誘惑するような顔で恋次に訊いた。
「そんなに……私としたいのか?」
「ああ。お前の全部を喰らい尽くしたい」
恋次の言葉に桃色に染まっていく顔を伏せると、ルキアは少しはにかみながら彼の願いを承諾した。
「いいよ。……存分に、私を喰らってくれ」


*          *          *

そのまま手を繋いで、恋次の家へと向かった。
二人の掻いた汗で繋いだ掌がじっとりと湿ったけれど、どちらも離そうなどとは言い出さなかった。
道中、久しぶりに色々な話をした。
他愛の無い、どうでもよいような下らぬ話に、腹を抱えて笑い合った。
学院時代に、いやそれよりももっと前に戻ったような心安らぐ懐かしさが、恋次とルキアをほっこりと包んだ。
「ほら、入れよ」
十一番隊の席官になって昔のあばら家を抜け出した恋次は、瀞霊廷の内に立派な部屋を借りていた。
考えてみれば中に入るのは初めてで、ルキアは少し緊張の面持ちを見せながら引き戸を開く。
朝起きてからそのままらしい敷きっぱなしの布団の上に堂々と腰を下ろしたルキアの隣に、恋次もどっかりと胡坐を掻いた。
「……なんか、夢みてぇ」
本当に夢うつつといった感じのぼんやりとした声で、恋次がそう漏らす。
その顔にひょいと横から手を伸ばすと、ルキアは指先で強く恋次の頬をぎゅぅっと抓りあげた。
「痛ぇ」と叫んで赤く腫れた頬を掌でさする恋次の姿にぷっと吹き出してから、ルキアは楽しそうに尋ねる。
「夢か?」
「いや、……違ぇな」
言いながら、まだ自分の顔を指差して笑っているルキアに報復してやろうと彼女の脇に唐突に腕を差し入れる。
両手で盛大にくすぐってやると、堪え切れないという様にルキアが笑気に身体を震わせた
「ひゃ、ひゃははははっ、ばか、れんじっ! やめっ……ひゃぁっ……!」
力が抜けたのか仰向けに倒れてしまったルキアを更にくすぐろうと、恋次が彼女に覆い被さる。
そうしてまた脇の下へと持っていこうとした腕をしかし途中で留めて、代わりに恋次はルキアの頬を触った。
その温かい感触に息を飲んで、恋次はルキアにずっと言えずにいた言葉を告げる。
「ルキア。……愛してる」


それに対するルキアの返答も聞かぬまま、薄桃色の唇に自分のそれを重ねる。
初めてのキスは蜜のように甘く、上等の酒のように恋次を深く酩酊させた。
ルキアの唇は溶けてしまいそうに柔らかくて、その口付けだけで恋次は身体中の血が沸騰するように滾った。
一旦唇を離して、もう一度、今度は上下の隙間から舌を差し入れる。
狭い口内に舌を押し込めると、ルキアは自分から己の舌を恋次へ絡めてきた。
ちゅるっと淫靡な水の音が響き、交じり合ってどちらのものか分からない唾液がルキアの口腔に溜まっていく。
それをこくこくと喉を鳴らしながら飲み干して、ルキアは上気した顔で恋次を引き寄せた。
「……私も、愛している」
先ほど抓って痕の残った頬にちゅっと唇を寄せて、ルキアは上からもう一つ赤いマークを付ける。
その台詞と行為とに顔を熱くして、恋次は抑えきれずルキアの首筋にむしゃぶりついた。
蝋に似て白いそこに愛しく口付けて、自分のものだと宣告するようにキスの刻印を刻み込む。
「恋っ次……はぁっ……」
強く吸引されてひくひくと身体を左右に微動させる彼女に突き動かされ、恋次はルキアの帯に手を回す。
気が動転しているのか中々解けない帯に苛立ちながらやっとのことでそれを外し前を開くと、その下に着た薄い襦袢を肌蹴させる。
目の覚めるような純白の肌と両手に軽く収まりそうな薄い胸が、恋次の眼前にしどけなく晒された。
その浅い谷間に頭を埋めて耳を寄せると、割れそうな程にどくどくと早鐘を鳴らすルキアの心音が聞こえた。
「緊張、してるのか」
「初めて好きな男に抱かれるのだ。当たり前だろう」
そう答えるルキアの声は少しだけ震えていたが、表情は心底穏やかで幸福そのものだった。
その微笑にこちらも心を落ち着かされて、恋次はルキアの胸元へ唇を寄せた。
まだどきどきいっている心臓の上に、さながら愛を誓うように真摯な顔で口唇を掠める。
そのまま唇を動かして小さな突起に舌を這わせると、身体の下のルキアがぴくりと身に力を込めた。
ちろちろと細くした舌先で舐ってやれば、ルキアが切なそうに声を上げて身体を捩る。
「……んっ、ふぁっ……れんじ……」
まるで誘っているような色っぽい嬌声に、つられてもう片方の胸も指先で摘んでころころと転がすと、ルキアは更に激しく身悶えた。


薄く開いた唇から漏れ出る湿った吐息が恋次の首筋に当たり、それだけでひどく下半身が硬くなる。
痛くないようほんの少しだけの微弱な力で乳首を噛むと、それに反応してルキアの全身がびくびくっと跳ね上がった。
二度三度と繰り返し甘噛みして様子を見れば、ルキアは快感の涙に潤んだ両目で恋次を見上げていた。
「恋次……ずるいぞ。私も……していいか?」
「は?」
いきなりそう言われて首を捻った恋次に構わず身体を起こすと、ルキアは恋次を突き飛ばして無理やり仰向けに寝かせた。
突然のその行為にまだ理解がついていかない恋次をにっこりと見つめながら、ルキアは恋次の股間へと腕を伸ばす。
先ほどからずっと自分の腰に押し当てられていた熱い物を袴越しに掌に感じて、ルキアはふぅと息を吐いた。
「ルッ、ルキア! おまっ、何してんだよ!」
布越しとはいえルキアの細い指に触れられて、興奮した恋次のそこが更にぐんと硬度を増す。
それを気にせず袴を引き下ろすと、ルキアはそそり立った男のそれに直接指を絡めた。
炎のように熱いそれは、以前一角に無理やり握らされたのと同じものであるはずなのに、不思議とまったく嫌悪は感じなかった。
むしろ何だか愛しい思いが込み上げてきて、ルキアは引き寄せられるようにそれを口に含む。
ぱくりと咥えてちゅぅちゅぅと吸い付けば、呼応するように質量が増大していく。
「やめっ……馬鹿! おい!」
今日はまだ湯も浴びていないのだ。しかし必死に命じる恋次を無視し、ルキアは恋次のそこを丹念に舌で愛撫した。
ミルクを飲む仔猫のような舌遣いで鈴口を舐めてから、舌全体を押し付けるようにして敏感なカリ首を刺激する。
竿全体をつぅっと上から下に唇で撫で上げて、そのまま睾丸にまでちゅぱちゅぱと舌を吸い寄せる。
その巧みな舌の動きに追い詰められ、恋次が苦しそうに熱い息を吐く。
「ルキア……もういい! 出ちまうから!」
その言葉に、ルキアは亀頭を口に含んだままで答える。上目遣いで恋次を見る表情が、胸を締め付けられるほど官能的だ。
「飲んでやるから、そのまま出してしまえ」
「アホっ、んなこと……させ、られ…………っぁ」
そう強情を張ろうとした瞬間、裏筋にルキアの舌で縦に線を引かれ、恋次は小さく呻きながらびゅくっと腰を浮かした。
勢いよく飛び出した白濁液が、ルキアの細い咽喉をしとどに打ち付ける。


粘るそれを何とか全部飲み下して口元の残滓をぺろりと舐めとった彼女に、恋次が気まずそうに声をかける。
「悪ぃ……」
「何を謝っておるのだ?」
心から不思議そうに尋ねるルキアに、恋次は頭を掻きつつ口ごもる。
「いや、だってお前……」
「ははっ、私ばかり喘がされてたまるか! このくらいの仕返しは必要だろう!」
人差し指をびっと前に突き出して高らかにそう宣言するルキアに、恋次はどっと疲れが押し寄せる。
こっちは、我慢しきれずに口の中で放った上飲ませてしまったなんて一体どうしようかと罪悪感でいっぱいだったのに、なんて女だ。
張り詰めていた気が抜けていくのを感じながら、恋次は眼前のルキアに掴みかかる。
「てめぇ……俺がどんだけビクついたか分かってんのか……」
「おお、そういえばずいぶんと身体をビクビクさせておったのう。あの程度であんなになって可愛いやつだ」
「そっちのビクつくじゃねぇっ! ってか、何だ? 俺が可愛いだぁっ!?」
紅葉のように赤面した顔で突っかかる恋次に、ルキアはけらけらと爆笑しながら声をかける。
「ああ、可愛いな。まさか女を知らないわけでもないだろうに?」
そう言って笑い涙を拭っていたルキアに、売り言葉に買い言葉といった感じで恋次が思わず秘密を暴露してしまう。
「ああ、知らねぇよ!」
「は? 恋次、おまえそれは……」
さすがに冗談だろう、と言いたげな疑惑に満ちた顔で、ルキアが恋次を見やる。
学院時代から優等生で、今ではエリートである席官の彼に一度も女がいないなど、到底信じられぬ戯言に思えた。
「……お前以外の女と寝る気なんか、少しも起きなかった」
あまりに単純なその理由を恥ずかしそうに告白すると、恋次は顔を背けてルキアに告げた。
「だから、その……下手でも笑うなよ」
その恋次の言葉に、しかしルキアも淡々と自分についての真実を吐露した。
「……いや、大丈夫だ。私も男と最後までしたことは一度もないから」
「……は? だってルキア、お前、浮竹隊長と……」


何を言ってるんだこいつはという胡乱げな顔でルキアを見つめる恋次に、彼女はあっさり事実を告げる。
「あの人は、病のせいで女が抱けぬ身体だったのだ。だからその、指……はあるが、それ以上は……」
「い、一角さん……は?」
「花見の夜のことを言っておるなら、未遂だったが……」
その答えにほっと胸を撫で下ろしつつ、恋次は唖然とした声でもう一つだけ気になっていた名前を尋ねる。
「けど、朽木隊長が」
「……なぜここで兄様の名前が出てくるのだ?」
本気で意味が分からなそうな顔で訊き返されて、恋次は自分の脳がぐるぐると物凄い速度で回転するのを感じる。
…………おいおいじゃあ待てよっていうことはつまりもしかしてルキアは……。
「初めて……?」
「さっきもそう言ったではないか!」
「いや、あれは俺とするのが、って意味だと思って…」
未だ信じられないようなその事実が、ゆっくりと理解として脳内に染み込んでいく。
ルキアは俺が初めて……? 本当に? そんな、流石に想像してなかった。っつーか、どうするよ俺、今。
「俺、今……一生の運を使い切ったかもしれねぇ」
口にして、恋次はルキアを再び布団に押し倒す。
その顔に映った満面の笑みをルキアに見せ付けるように顔を接近させて、彼女の額に軽く口付ける。
「れれれ恋次!?」
「ルキア」
青空に似た晴れやかな笑い顔を作って、恋次はルキアを全力で抱きしめる。
その腕の片方を背中に残したまま、ルキアの下腹部をそっと指で横撫でした。
薄い茂みを指先で掻き分け、その奥のしっとりと濡れた箇所に震える手つきでちょんと触れる。
温かく湿ったそこはひどく手触りがよくて、まるで薄絹のようにすべすべとしていた。
どうすればいいのか分からなくて、恋次はとりあえず心地のよいそこの感触を愉しむ。
内股から性器の周りにかけてを優しい手つきで撫で上げると、ルキアが少しだけ吐く息を強めた。


その反応を見て、恋次はその周辺を満遍なく指で刺激してみる。
陰唇をぷにぷにと突付き、指二本で挟んですり合わせると、ルキアがふるふるっと全身を震わせた。
「あっ、ん……っは、っ」
嬌声をもっと聞きたくて、恋次は中心で艶やかに濡れた豆のような突起をつんと押す。
それにびくびくと今までになく身体を痙攣させたルキアに、恋次はここが女の弱所なのかと知って激しく攻め立てる。
立てた指先でくりくりっと弄くって、顔を出した赤い芽の先を更に強く擦ってやる。
「ふ、ぁっ、く……ひ、ぁあっ」
抑え切れず大きくなっている声で喘ぎ続けるルキアに、恋次も興奮を隠せない。
指での攻めをそのままに、覆いかぶさってもう何度目か分からない口付けを彼女の唇へ寄せる。
「ひっ、ぁ……はぁっ!」
達したらしいルキアがすぐに意識を取り戻すのを確認して、恋次は彼女に目配せした。
それにルキアがにこりと笑んで首を縦に振るのを確かめ、恋次は唾液で濡らした人差し指を彼女の秘所に挿した。
中は燃えているように熱く、恋次の指を千切られそうなほどに締め付けてきた。
内部の感触を一つ一つ覚えるように、ゆっくりと指を前後に動かす。
「……はっ、ん」
苦しそうに呻くルキアが気になって、つい恋次が動きを止めてしまう。
それにいやいやと頭を振って、ルキアは続けるよう恋次へ願った
その仕草に促され、恋次は中に挿れた指をくちゅくちゅと円を描くように掻き回す。
次第に溢れ出す膣液が恋次の指を濡らし、きつかった注挿を楽にしていく。
内部の指を何度も何度も出し入れし時間をかけて中を丹念に解していく恋次に、ルキアが耐え切れずねだった。
「れん……じっ、もう……いいから。恋次を……挿れてくれ」
その哀願に、恋次が耳まで赤くして表情を固める。
だがすぐに覚悟を決めたのか、彼は硬く勃起した性器をルキアの入り口へと宛がった。
「痛かったらごめんな」
耳元でそう呟いて、恋次はそれをルキアの中に一気に押し込んだ。


愛撫で慣らされていたとはいえ、男性自身を受け入れるのは初めてである。
「ひ、ぁあっぁああっ!!」
ルキアは痛々しげにそう一声叫んでから、ひどく苦しそうな荒い息を続けざまに吐いた。
苦しくて、仕様がない。熱い弾丸に似た塊が、腹の中をずんずんと侵している。
指とは比較にならない大きさが、熱さが、ルキアのそこに無理やりに押し込められた。
「わ、悪ぃ! 痛いよな!?」
彼女の声に驚いて慌てて性器を引き抜こうとする恋次を、ルキアが辛そうな声で止めた。
「いい! 抜かないでくれっ!」
「でも、お前」
苦しむルキアを見たくないという思いで言葉を挟んだ恋次に、だがルキアは必死に微笑んで告げた。
全身に油汗を掻くほどの壮絶な苦痛に耐えながらも、ルキアはひどく嬉しそうだった。
「……お前と繋がっているのを、感じていたい」
「ルキア……」
「やっと、お前と一つになれた……」
両腕を真上に伸ばしたルキアに身体を寄せ、背中を貸してやる。
そこにしがみ付いたルキアの確かな温かさに、恋次はどうしてか泣きたくなった。
「動いてくれ。私は、大丈夫だから」
言われて、恋次はそろそろと僅かに腰を動かす。
繋がっている部分は温かくて、何もしていないのに今にも射精してしまいそうだった。
それを尽力して堪え、徐々に腰の動きを強いものへと変えていく。
激しく突き上げるようにして膣壁を擦ると、ルキアの口からくぐもった声が響いた。
少しも平気でない顔で「平気だ」と言って憚らない彼女に、恋次は躊躇いながらも行為を続ける。
しかし、中をぐりっと回すように抉ってやると、ルキアの苦痛に満ちた声が初めて艶っぽく変化した。
「ここか……?」
「んっ……そこ、してくれ……」


細い声で頼むルキアに、恋次はその箇所を狙い何度も連続して突き上げる。
そうすると、ルキアの細い身体がびくびくと痙攣して左右に揺れた。
恋次の背中を掴む指先にも自然と力が増して、きりきりと鋭い爪で傷跡を付けられる。
視線の下にあるその身体が今にもかき消えてしまうんじゃないかと気が気でなくて、恋次は確認するように何度もルキアの名を呼び続ける。
「ルキア、ルキア好きだ。もう誰にも渡さねぇ」
「れん……じ……。わ、私も……もう、どこにも行かぬ……」
ぎゅっと恋次がルキアを抱きかかえる。
その腕の優しさを全身で感じるように、ルキアは恋次の胸の中に飛び込んだ。
その姿勢のまま、恋次はルキアの身体を上下に激しく揺さぶる。
「はっ、恋次……れ、んじ……ぃっ」
「ルキ……ア……」
互いの名を呼びながら、二人は同時に達した。
ぐったりと身体を預け失神してしまったらしいルキアを、恋次はいたわる様な瞳で見つめる。
「ルキア……ありがとな」
彼女が聞こえていないのを確認してそう言うと、恋次はそっとルキアを布団に寝かせた。
その隣に彼女を守るように自分も横になると、その晩恋次は一睡もせずに飽きることなくルキアを眺め続けていた。

*          *          *

たとえば明日が世界の最後の日でもいいと、そう思えるくらい幸せだった。
けれどもし明日が本当に最後の日だったら、俺たちはたったの一日しか一緒にいられないわけで。
そう考えたらやっぱり、明日もあさっても何事もなく普通の日が来てほしいと思った。

あの頃、普通だったルキアとの生活が突然失われてしまったように、この普通もまたいつ奪われるか分からない。
だから俺は、これを守るためなら何でもしよう。
地を這おうとも、血を吐こうとも。
ルキアを守るためなら何でもしよう――。

*          *          *

一週間後、ルキアに唐突な異動裁定が下った。
突然命じられた彼女の現世行きに、恋次が思わず眉を寄せて不平をこぼす。
「浮竹隊長、やっぱり俺たちの事に怒ってんのかな……」
自分たちを引き離すためにルキアを異動させるのだろうかと怯えつつ問う恋次に、ルキアは首を横に振った。
「あの人はそんな人ではないよ。きっと……私を思ってくれたのだ。
隊長との婚約を身勝手に破棄した私が周りから嫌がらせを受けずともすむ様、わざと現世に行かせるのだろう」
「……へぇ。で? 場所はどこだって?」
「ええと……。うむ、なんと読むのだこの地名は?」

彼女の手の上で開かれた紙片には、こう書かれていた。
『十三番隊隊員朽木ルキアに、来期付けで現世・空座町での担当死神職を命じる』。

――これは何かのエピローグ。
けれど何かのプロローグ。
運命の歯車はまだ、最初の一つが廻り始めたばかり――。

BLEACH0.Days before first day――――――――――――


(完)