朽木ルキア大ブレイクの予感パート11 :  104氏 投稿日:2005/08/30(火) 00:57:05


キャッキャと聞こえる甲高い声につられ、松本乱菊は資料室の窓を開いた。木立の向こうに見えるのは、夏の終わりを告げる花々と群れる女性死神の姿。
(あの子達、またサボってる)
自分もさっきまで調べ物と言い訳をしながら休んでいたのに、棚に上げて眉をしかめる。
華やかに化粧や男性隊士の噂話をする中には我が十番隊の人間も混ざっており、少々情けなく思う。目と鼻の先に自分のところの副隊長がいるのに霊圧さえも気付けないのか。
と、その時書類を抱えこちらへ向かってくる少女の姿が見えた。
小柄な黒髪は、ちょっとした有名人。流魂街の出でありながら大貴族の養子に入ったお姫様。そして、先の大事件のきっかけを作った重大なる関係者の一人だ。平隊士ならともかく、ある程度の地位の者なら彼女と彼女に関わった一連の出来事を知らない人間はいないだろう。
そして、乱菊にとってはどうしてもある男を連想させてしまう。理不尽だとわかっていながらあまり見たくない顔だった。
だが、乱菊が顔を背けるより早く少女の姿のほうが消えた。空を舞う数枚の書類。女たちの前で、少女は派手に転んでいたのだ。
女の声が嫌にはっきりと耳に届く。
「ごめんなさぁい、あんまり小さいから見えなかったもので」
状況から察するに、誰かが少女に足を引っ掛けたのだろう。何でそんなことを、と呆れるところに、別の声が畳み掛ける。
「ざまあみなさい」
「隊長や副隊長だけでなく、旅渦の少年にまで取り入るなんてサイテー」
「この泥棒猫」
思わず顔の筋肉が引きつる。
何弱いものいじめをしてるんだ、死神として誇りはないのか。男しか見てねーのかこの給料泥棒。など罵詈雑言が頭を飛び交う。
彼女に対する世評は乱菊も聞いていた。その大半が朽木家の飼い猫への興味や中傷だったが、ここまで嫉妬心をあらわにする阿呆がいたとは。
当の少女が無言で書類を拾う姿にも怒りがこみ上げる。どうしてここで反論しないのか。所詮は世間をあきらめきってるお姫様なのか?
怒鳴り込んでやろうと窓枠をつかんだ瞬間
「破道の四、白雷!」
威力は弱いものの地面に激突した鬼道は土を巻き上げ足場を崩し、その場にいた十人弱の死神に尻餅をつかせる。
撃った当人は平然と手を見つめ、
「これくらいの霊力は戻ったのだな」
などと呟いている。
「何するのよ、危ないじゃない!」
まだ立てないうちの一人が食って掛かるが、少女はこう言ってのけた。
「ごめんなさい、詠唱破棄の練習をしていたんです。まさか撃てると思わなかったから」
艶然と笑ってみせる少女を前に、乱菊は拍手してやりたい気分だった。

「十三番隊朽木ルキアです。届け物を持ってまいりました」
「ああ、どうもありがとう」
出入り口に現れた副隊長を見て、ルキアは面食らったようだ。
「も、もしかして急ぎでしたか?すみませんでした。遅くなってしまいまして……」
「ああ、違う違う。たまたま私が手が空いてただけよ。それにしても……」
チラッと目線を外にやる。といっても、さっきの場所はここからじゃ見えないのだが。
「派手にやったわね。あそこらへん、綺麗だったのに」
乱菊がみていたことを理解したらしい、ルキアは目に見えてあたふたし始めた。
「もっ、ももも申し訳ございません!」
鬼道を撃った場所は地面がえぐれ、草花が所々散っている。いくら小さいとはいえ、目立つだろう。
頭が床に着くんじゃないかというほど体を折り曲げたルキアに、思わず笑いがこぼれる。
「責めてるわけじゃないわよ、ただ、貴族のお姫様があそこまでやるとは思わなかっただけ」
その言葉にルキアは逡巡し、口を開いた。
「やめたんです。……身に降りかかる火の粉を、自分への罰だと思って被るのを」
顔を上げた少女の顔は、晴れ晴れとしていて、そして決意を内に秘めていて。
もう、逃げることをやめたんだと言っているようだった。
ああ、きっとこれが朽木ルキアの本当の姿なのだ。お貴族様のあとをついていくだけの存在でも、赤毛の青年に見つめられるだけの存在でもないのだ。
「お茶飲んでいかない?享楽隊長からおいしいお菓子もらったんだ」
自分もいつか、あの日から逃げるのをやめることができるだろうか。
そのためにも今はこの少女をもっと知りたいと思い、その小さな手を引いた。


(完)