朽木ルキア大ブレイクの予感パート10 :  588・594・628(629)氏 投稿日:2005/06/30(木) 02:20:00


「ネェ〜さぁぁんっ♪」
コンはそう言って窓から帰ってきたばかりのルキアの胸元へ飛びこんだ。
「こらっ止めぬか、コン!靴が脱げぬではないかっ」
「だって一護と二人だったんスよ?ムサクルシイったらありゃしないっ…?
 おわ!?何すんだ一護ぉ!姐さんとの熱い抱擁の時間をーー!」
「だぁれが、むさくるしいんだよ!!!」
ベッドの縁を背もたれに雑誌を読んでいた俺は立上がりコンの首根っこをふん捕まえた。
んでもって自分の顔の前に持って来る。
「ぎゃっ!一護の どアップゥ!!!無理無理無理無理いぃ〜!!」
「あ〜ば〜れんなって、何もしねぇよ。」

コンとやり取りをしてる内にルキアは早々と靴を脱ぎ部屋の中に入っていた。
「すまぬな一護。もう放しても構わぬぞ?」
制服に留められている紅いリボンを外しながらくつろいだ様子でベッドに腰掛ける。
さっきまでジタバタしてたコンが急に静かになった。
不審に思った俺は、無駄にキラキラ輝くコイツの視線を辿る。
ベッドに腰掛けているルキアを上から見下ろしていた。
 
………なんだよ。
 
ルキアはリボンを外したあと窮屈なシャツの第一ボタンを外そうとしていた。
ハイっ!!問題なしっ!!この角度でも胸元は見えない。コン残念だったな、いくらおいしいシュチュでも
見えねぇモンは見えね―んだよなァ。依然としてコンはルキアを見つめる。
黒髪の隙間から白くってすきとおるような首が見え隠れしている。
いつもは髪に覆われて見えない綺麗ですべらかそうな肌に不覚にも胸の鼓動が早くなった。

「む。なんだ一護、コン」
一つボタンを外し終わると視線に気付いたのか俺の顔を見上げるようにルキアは振り向く。
類まれな色の瞳に一瞬囚われた俺はガラにも無くワタワタしてしまった。

「あっ、いや、コ!コ、コ、コンの奴がだなア!」
やべー普通に焦り過ぎだろ俺!
「姐さんっ、一護の野郎がエロい目…っ」


「むぅ?」
「何でもねえよ、何でもねえんだ!!」

俺は慌ててコンの頭を鷲掴み……もとい、コンの口を塞ぎ、自分でも驚く程に大きな声で言葉を返した。
ぶんぶんと手を振った時にコンが何やら喚いていたが、もちろんシカトだ。
「そ、それはそうと、外暑かったろ?何か冷たいもんでも持ってくっから!」
「あ、一……」

俺は片手にコンを掴んだままバタバタと部屋を後にした。
あの時、もう少し落ち着いていれば、もう少し冷静だったら……ルキアのしょんぼりとした、それでいて何処か気恥ずかしげな表情に気付けたのかもしれない。

***

「……むぅ…」

外してから握ったままだったリボンを放り投げ、私はごろん、と床に寝転がった。
静かな部屋にごぅごぅと空調の音が響く。

「…………」

するり、と胸元に手を伸ばし、襟元を微かに持ち上げて中を覗く。
我ながらがっかりする程に小さい胸を覆っているのは、いつもの借り物の下着ではない。
つやつやとした黒い布地に、薄い桃色の刺繍と同色のレース。
クラスの女子と買いに行った物だ。

「今更なのに…緊張してしまうな……」

空いたもう片方の手をスカートのポケットに入れ、中の物をきゅっと握り締める。
微かに固い感触が、気恥ずかしさを増殖させた。

「ありゃ、お邪魔しちゃいましたかねぇ。」
音も無く飄々と現れる男、浦原の声。
「な!?」
甘い夢から一瞬にして目が覚めた。
ポケットから手を出し、ベッドから身を起こす刹那に浦原が私の両手腕を押さえつけ圧し掛かかってきた。
「!!!」
抵抗しようと力を入れたがビクともしない。
浦原の顔は、いつに無く真剣な面持ちで、ふざけてやっているわけでは無いようだった。
数秒の沈黙と混乱で冷や汗を掻いた。……正直怖くて堪らなかった。
声を発しようとも、乾ききって喉元を絞められたような感覚になり声が出ない。
浦原は何かを囁きながら私の耳元に唇を寄せてくる。
耳元に息がかかりそうな位置までくると無意識に体が強張り、顔を背けた。
「…のつ、とお。」
そう言うと浦原は私の体を開放した。

「朽木さ〜ん、コレ取りに来るの忘れてたんじゃないですか?」
呆然とする私を尻目にニッコリと営業スマイルを浮かべ、懐からある商品を取り出した。
「あ。」
気の抜けた声がでてしまった。目の前に出された物は最近は余り使わなくなった記換神機。
これは都合の悪い現場を目撃された時に使う記憶を一部入れ替えることの出きるシロモノだ。
注文はしたもののすっかり取りに行くのを忘れていた物でもある。
「思いだしましたか?十日も待ってたんですけどねぇ。一向に来る気配がないもンで、届けに来ちゃいましたよ。」
そう言いながら私の手を引き、まだ少しだけ強張った体を支えベッドからヨイショと起してくれた。
「結構10秒っていうのは長く感じたでしょう?」
『、ここのつ、とお。』浦原が私の耳の元で云ったのは意味のある言葉では無く、単に数を数えていたのだと今更ながら気づく。
そして安堵した瞬間から、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「私の十日分のモヤモヤは10秒のイタズラでチャラにしておきますよ♪」
「悪戯にしては度が過ぎる。ついでに料金もチャラにしろ。」
機嫌の悪くなった私を見て、やれやれ…といった感じで帽子をかぶり直した。
「ま、今回はやり過ぎました。いいでしょう、お得意さんですしサービスしておきます。」
「よし!」
この一言だけで気分はすっかり晴れやかになり、意外と押しに弱い浦原と単純な自分にくすくすと笑ってしまった。
「も〜何笑ってるんスか!!」
「っく、すまぬな。何でもない。」
浦原は大きなため息を付くと立ち上がる。
「本当は嫌がらせなんてするつもり無かったンですけどあんな姿見せられちゃったら…ねえ?」
優しい瞳で私を見て子供の頭を撫でるように、ひとなでする。…ン?……あんな姿!?
「もう少し気をつけなきゃ駄目ですよ。女の子なんだから。じゃ、また宜しくお願いしますよ〜毎度!」
そういうと窓からひらりと飛び去った。
と同時に顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。違う!何を勘違いしておる!ちがうのだーーー!!
「違うのだ!あれはっ!!……あのときの…違うのだ。」
とっさに窓から身を乗り出し叫んでも浦原の姿はもう見えず。伝えたかった言葉は風にかき消された。
小さなため息がでた。脱力した体ベッドの上に体を投げ出す。天井が白い。
「完全に自慰だと思われただろうな。」
ぽつりと呟き、ポケットに手を入れ中のモノを触る。硬いような柔らかいような感触が指先に伝わる。

私は今日の出来事を断片的に思い出していた。
体育の授業ー。更衣室。何気ない一言から始まった。
「朽木さんってシンプルな白好きだよね。」井上織姫の声。
「え?ええ、私これしか持っていなくて。」
確かに他の女子の下着と比べるとレースも何も付いていない。まったくと云っていいほどの飾り気のないスポーツブラとか云う下着。
有沢竜貴もこのタイプで彼女からそう聞いた。
拝借して使わせてもらっているのだが私にちょうど良く結構気に入ってるものであった。
「なんですって〜〜〜!このタイプしか持ってないなんて勿体無い!もっと下着を楽しまなきゃ♪
今日の放課後下着見に行きましょうよ、ねっ♪私が朽木さんの手取り胸取りサイズを測ってあげるから!!」
本庄千鶴が目を輝かせながら近づいてくる。
「あ、じゃあ私も一緒に行く行く。最近ちょっとキツクなってきて〜」
「あぁん、ヒメったらまた大きくなっちゃったのぉ?どれどれオネーさんに見せてご覧なさ…ぶほっ!」
有沢竜貴の鉄拳が飛ぶ。
「テメーはまたそれかよ!万年発情猫!!この2人とアンタだけじゃ不安だから私も行く。」

「「「ぴーち☆じょー?」」」
「違う違う。そしてハモるな!ピーチ☆ジョンだよ、略して『P☆J』。みんな知らないの?ふふ…かわいいわ。
通販とかで有名なの。そしてエロカワイイのよ〜ここの下着はっっ♪さぁ行こ行こーーーーーぅ!!!」
店内は夕方ともあって少々込み合っていた。
色とりどりで色んな形。レースやフリルをあしらった下着、デザインが奇抜なもの。ドキドキするような配色。
落ち着いた音楽に異様に色気のある店員。下着を手に取る小奇麗な客達。
見たこともない光景、なんだか違う世界に来たみたいだった。
ここにいるだけで恥ずかしい、そんな気持になった。
竜貴もたぶんそう思ってるだろう。ソワソワと落ち着きが無く表情からもそれが読み取れてしまう。
「サイズは海外表記になってるからここのサイズ表見るといいよ。」
彼女は良くここで買っているのだろうか。チラリと彼女を見る。
「なーに赤くなってんのぉ?朽木さんたらカワイイ〜んだから♪抱きしめちゃうぞ!!って流石に店の中だからやらないけどぉ。
そうそう、今セール中だから安くて可愛いのもいっぱいあるよ。これなんて似合うと思うよ。サイズも合いそうだし♪」

結局それを店員さんにあわせてもらったら、ぴったりで。ある意味彼女の観察眼には度肝を抜かれたんだった。
お年頃ということもあり皆1組づつ買った。…というか井上以外は本庄千鶴の激しいススメに勝てなかったのである。
なんだかんだ言っても可愛い下着を手に入れたのに満足した私がいる。竜貴もそうだろう、悪態を付きながらも笑顔が絶えなかった。
彼女も私も選ぶのと買うのとが恥ずかしかっただけなのだ。
「せっかくだから皆着て帰ろーよ。」と井上。
「あ、セールで思い出した!7月って一護の誕生日だ。」と竜貴。
「まさか一護だけに15日生まれ〜?」と千鶴。
「うん、覚えやすいだろ?あいつの父親らしく洒落が利いてるだろ?」竜貴は笑みを浮かべながらそう言った。
その流れでコレも買ったんだったな。先ほどからポケットの中で触っていた手の平に収まるほどの、小さくラッピングされた物を取り出した。
親しい人はその人が生まれた日にプレゼントを渡すことがあるらしい。

「世話になってるからな。」

でもこういうコトをするのが初めてで、どうしたものか。いつ渡そう?
緊張と変な焦りで顔が高揚した上に私はポケットに手を入れて小さな包みを掴んだり離したり手を存分に動かしていた。
そんな折に浦原が訪ねてきた。
勘違いもするか。
はぁ……。後で誤解を説かなければな。


(完)