朽木ルキア大ブレイクの予感パート7 :  46氏 投稿日: 04/05/18 19:50


『恋花慕情』


かぽ…ん

かぽ…ん

静寂が支配する朽木邸に、ししおどしの音がやけに大きく響き渡る。
「こちらでお待ち下さい」とこの部屋に通されたルキアは今、用意された座椅子の上に 座っていた。
掛け軸やわずかな調度品しかない質素な空間に、着せられた振袖はあまりにも不釣合いだ。
金銀の刺繍が施された、白絹の地。
ルキアは豪華な着物の重さに、自分の心までもがつぶされてしまうような気持ちでいた。

せわしなく廊下を往来する侍女たち。
彼らの表情はどれも一辺倒で、まるでよく動く人形のようだった。
(…私も、同じか)
今日からは自分とて、人形として生きるのだ。当主の良き義妹として。
あのときの自分の選択が正しかったかどうかなんて、今となっては考えても意味のないこと。
(恋次だって、あんなに喜んでくれたではないか…)
滲んだ涙が化粧に混じらないよう、ルキアは天井を見上げて耐えた。


同時刻、流魂街。
阿散井恋次は一人、小高い丘の上に立っていた。
苔むした墓石はあいも変わらず、3つ揃ってそこにあった。
『あいつらに俺たちが死神になるとこ、見せてやろうぜ』
霞のかかる真央霊術院を一望し、恋次は遠い記憶を呼び覚ましていた。

『お前は、俺が守る』
『死神になったら、また一緒に暮らそう』
『あいつらの分まで、幸せになろう』
『本当の、家族になるんだ』

言いたくて、言えずにいた言葉。
ルキアは恋次にとって、大切な幼馴染であり、たった一人の家族であった。
決して失いたくない、その気持ちが、彼の本心を偽らせていた。
それでもいつかは、言える日がくることを信じていた。

しかしその夢はもう叶わない。

ずっと願っていた、安全で穏やかに過ごせる生活を、「名門貴族」という最高のオプション
付きで手に入れることができるのだ。
彼女に巡ってきたチャンスを、自分の勝手な欲望で阻んではいけない。
不確実な未来よりも、確実な「今」を選択した方が彼女にとって幸せなことは明確であり、
それは恋次にとってもこの上なく喜ばしいことのはず、だった。

それなのに。

「…っくしょぉ…」
告げられなかった想いが、今になって爆発しそうだ。
「取り返したい」「邪魔してはいけない」――相反するふたつの気持ちが、頭の中でせめぎあう。
(どうしたらいいんだ…俺は…!)
やりきれず、墓前に膝を付く。
「お前らだったら、何て言うかな…」
情けなく呟いてふと地面に視線を落とすと、掘り返された跡のような、薄い盛り土があるのを見つけた。
先ほどまで全く気づかなかったが、わりあい広範囲にわたっている。
よく見ると、土の隙間から白っぽいものが覗いていた。
(…何だ? 何か埋まってる…?)
恋次は自分の気持ちを逸らそうと、わざとその部分に手を伸ばした。
ひんやりした土の感触を指先に味わいながら、ゆっくりと掻き分けていく。

目的のものは、簡単に姿を現した。
「……!」

白地に、淡い色で描かれた金魚模様。
大切そうに折り畳まれたそれは、ずっと昔に一度だけ恋次が贈った、綿の着物だった。
ルキアはこれを好んで着ていたが、初潮の血で汚して以来、恋次がその姿を見ることはなかった。
(これ…捨てたんじゃなかったのか…。じゃあ、あれも…?)
着物には、付属品として小さな蝶の帯飾りもついていた。
が、それはいくら掘っても見つからなかった。

しばらくすると、ルキアのもとへ侍女長と思われるやや年配の女性がやってきた。
後ろでは2人の侍女が頭を垂れている。
「侍女長の小春と申します。儀式の準備が整いましたので、こちらへ」
「あ…はい、わかりました」
ルキアが覚束ない足取りで一歩を踏み出すと、
「! お待ち下さい」
突然侍女長が彼女を制した。
「ルキア様、それは何なのです」
「え…?」
彼女の視線は、帯の端に留めてあるすすけた蝶の飾りに向けられていた。
「ああ、これ…これは私のお守りなのです。 毎日大切に…あっ!」
侍女長はルキアの帯から、それを素早く奪い取った。
「なっ、何をする!」
返せ、と言うが早く、「いいですか!」と侍女長はぴしゃりと畳み掛けた。
「貴女は朽木家の養女となるのですよ。過去にすがるような真似はおやめなさい。
 ましてこのような汚い物をお屋敷に持ち込むなんて…白哉様に対して 失礼だと思わないのですか!
 …だいたい、白哉様もなぜこんな小汚い娘を養子になんて…」
侍女長はそっぽを向いてぶつぶつと文句を言い出した。
(私だって…こんなところ、好きこのんで来たわけではない)
ルキアは黙って俯いていたが、侍女長の一言が彼女の目を見開かせた。
「こんな野良猫が、白哉様のお寝間にふさわしいわけないじゃないの」
「こ、小春様!」
侍女たちがぎょっとして侍女長を止めにかかる。

(白哉様の、「お寝間」…?)
やはり、そうだった。
朽木家の養女にと自分を誘いに来る者たちの、会話の節々から 怪しいと思ってはいた。
けれど、妹として縁組する自分にそのようなことがあるわけはないと、
だから恋次にも相談したのに――
「…そうか。わかった」
ルキアは侍女長の手から帯飾りをひったくると、おろおろしている侍女たちをはねのけて、 一目散に門へ向かって走り出した。
「ちょ…お待ち下さい! ルキア様!」
侍女たちが追いかけてくるが、流魂街で培った逃げ足の速さにかなうはずがない。
(こんなところ…来なければよかった…!)
幾重にも重ねられた厚い裾が、足を踏み出すたびに絡まる。
「もう…鬱陶しい!」
一気に裾を捲り上げ、左手でまとめると、走りながら右手で破道の呪文を唱えだす。
来る時に見た限りでは、門番は一人だった。不意打ちならなんとかなるはずだ。
白哉が追ってきたら…? という考えも脳裏によぎったが、今はそれどころではなかった。
早くここから逃げ出したい、それだけだった。

ルキアの脱走は、即刻白哉のもとへ伝えられた。
いかにルキアの足が速くとも、白哉の「瞬歩」をもってすれば難なく抑えられる。
しかし白哉は小指の先ほども動揺せず、「放っておけ」と言った。
「儀式はまた後日だ…そう急ぐものでもあるまい」

恋次は掘り出した着物を眺めながら、いささか呆けた頭で考えを廻らせていた。
おそらく朽木家に入るにあたり、今まで使ってきたものは全て焼却処分されただろう。
それでもこの着物だけは、ここに残した。
ルキアは、自分のことを少なからず想ってくれていたのだろうか。そう考えると辻褄が合った。
しかしそれが事実だとしても、もう遅い。貴族になったルキアと結ばれる望みなど、 億が一にもなかった。
(コレが結末か…何気に、酷だなァ)
はあ、と溜息をついて雲ひとつない青空を仰ぐ。
(天気さえも憎らしくなるぜ…)
どうせなら久しぶりにここで昼寝していこうと思いつき、草の上に移動するべく立ち上がる。
墓石に背を向けた、その時だった。

「……は? おまっ、何で…、え?」
一瞬、頭がおかしくなったかと思った。
そこには、いるはずのない人がいたのだから。

結い上げられた黒髪は乱れ、高価そうな髪飾りもとれかかっている。
艶やかな着物の裾は色気もなくはだけられ、泥まみれの膝頭や足袋には 血が滲んでいた。
そして右手には、きつく握り締められた、銀色の飾り物――。

「その…、それは…、」
『いやぁ、やはり私には御貴族様の生活なんて合わないのだ、だから丁重に 断ってきたよ』などと、いつものお気楽な返事ができるような空気ではない。
ルキアは意を決して、恋次に告げた。
「白哉様の、…夜のお寝間をともにするのだと、そう…」
「言われたのか。誰かに」
ルキアは真っ赤になりながら頷いた。恥ずかしくて目線を合わせられない。
恋次はまた少し黙り込み、言った。
「…それだけか」
「それだけとは何だ!」
ルキアは、思わず怒鳴り声を上げた。
「貴様は男だからわからんのだろう! そのようなことを言われてやすやすと 受け入れられるわけがないではないか!
 恋心を一片も持たぬ男に、玩具のように扱われるなぞ、私には耐えられぬ!
 それを貴様はやれと言うんだな!」
一息にまくし立て、荒い呼吸をするルキアの細い両肩を、恋次はガッと掴んで俯いた。
「…わかってないのはお前の方だよ、ルキア」
「痛い、離せ!」
肩が軋む。
「俺がどんな気持ちでお前を送り出したか、お前は考えたことがあるか?」
「え…?」
そんなこと…と呟く声は、後には続かなかった。

恋次はゆっくりと顔を上げ、ルキアの眼をじっと見つめた。怒っているのかそれとも泣きそうなのか、 ルキアには量れなかった。
「俺は、お前に幸せになってもらいたかった。それは今でも変わらない。なんでだかわかるか?
 お前が好きだからだよ」
「そ、そんなことはわかってお…」
「違う。俺はお前を女として見てる、この腕に抱きたいと、いつも思ってた。でもそんなこと言ったら、
 お前は俺を、今までのようには見られなくなるだろ? 俺にはそれが怖くて…言えなかった」
思いも寄らない恋次の告白に、ルキアは激しく心を揺さぶられた。
目の前の幼馴染に対する感情がただの好意でないことは、ルキアもまた同じだった。
「ならば…、何故…」
大きな深紫の瞳から涙が溢れ、握り締めた手の甲に零れ落ちる。
「いいか、よく考えろルキア、朽木家に拾われるなんて、普通じゃ絶対に考えられねえことだぞ?
 俺たちの頭じゃ想像もつかねえような贅沢な暮らしがお前を待ってるとわかってて、 それを奪う権利は俺にはねえ。それに、」
「でも…でも他の男に身を捧げるなんて私にはできない、そんなことをするなら死んだ方がマ…」
「ルキア!」
小さな身体がビクッと反射する。
見ると、恋次はルキア以上に辛そうな表情をしていた。
肩を掴んでいた手がルキアの背部に回り、そのままぎゅうっと抱き締められる。
「…わかってくれ…、俺だって惚れた女が他の男に抱かれるなんて想像したくもねえし、
 できることならずっと、一生俺の傍にいて欲しかったよ、
 でもな、相手はあの朽木白哉だ、今の俺じゃどうすることもできねえ、
 それがたまらなく悔しいんだよ…!」

「恋次…」
逞しい腕に、さらに力がこめられる。
ルキアはその手が、微かに震えているのに気付いた。
その悔しさ、やりきれなさが、熱い身体を通して伝わってくる。
強大な権力を前に立ち向かう術を知らず、ただ唇を噛み締めて耐えるしかない愛しいひと。
「れん…、……」

――ならば私も、その痛みに耐えてみせよう。

「…腕を解いてくれぬか」
「あ…ワリぃ…」
そろそろと腕を離す恋次の顔を覗き込むと、やはり僅かに泣いていたようだった。
貴様でも泣くことがあるのだな、とからかうと、
「るせー…ゴミだよゴミ」と言ってわざとらしく目をこすった。
ルキアはそんな恋次がいとおしかった。彼の精一杯の愛情を、守り抜こうと心に誓った。
「恋次」
「…あ?」
「私は…屋敷に戻るよ」
ルキアの瞳に迷いはなかった。恋次は「そうか」という一言を絞り出すのがやっとだった。
最愛の女にそこまで覚悟させてしまった自分を呪わずにはいられなかった。
陰鬱な気分でうなだれていると、突然ルキアが抱きついてきた。
「ル…」
と同時に、首筋に柔らかいものを感じる。
ルキアの唇だった。
「は…!? お、おいルキア何やって…ッ」
ルキアは慌てふためく恋次に構わず、そのまま蛸の吸盤のようにきゅうっと吸い上げる。
こうすると自分だけの印をつけることができるのだと、いつかクラスの女子らが騒いでいた。
そっと唇を離して確認すると、そこには確かに紅い印ができていた。
指でなぞり、満足そうに微笑む。
「これは私のだという印をつけたのだ」
「バッ…てめえ、俺はモノじゃねーぞ!」
しかし内心、そんなことでふふんと偉ぶるルキアが可愛くて仕方ないのだ。
恋次は再び彼女の身体を抱き寄せた。
「…じゃあ、俺は…」
耳元で囁く。彼女の身体が、かすかに反応した。
『消えない印を、残してやる』
それは白哉に対する、恋次の密かな宣戦布告だった。

草の上に座るルキアは、恋次の骨張った手の動きをただ見つめていた。
(此奴の手…こんなに大きかったのか)
結ばれた帯が解かれ、締め付けられていた身体が解放される。
折り重なる着物を上から順番に落としながら、恋次は仕様のないことを言って ルキアを苦笑させた。
「なんか…蜜柑の皮を剥いてるみてえだな」
「…もう少しまともな表現はできないのか、たわけ…」
肌襦袢の細い帯に指をかける。戒めはあっさり陥落した。はらり、と合わせ目が緩み、
抜けるように白い肌が露わになる。
そのまま肩に手をかけて最後の一枚を取り払う間、ルキアはこれから自身に起こることを
予測し、羞恥とわずかな恐怖に視界を閉ざした。
「怖いか…?」
恋次が尋ねると、彼女はぎゅっと目を瞑ったまま、ふるふると首を振った。
しかし彼女の緊張が相当なものであることは、長い睫毛の僅かな震えから窺い知れた。
とはいえ恋次自身にも余裕があるわけではなく、彼は彼で震える指先を 悟られまいと必死だった。
ずっと想い焦がれ、追い求めてかなわなかった女の身体が、今、目の前にある。
いつからか自分の前で着替えなくなったルキア。初めての「女の証」に戸惑い、
相談できる年頃の級友もなく、恥をしのんで自分に縋ってきたこともあった。
恋次は、そんなルキアを心底愛していた。ルキア以外の女は彼にとって女ではなかった。
背徳感に苛まれながらする甘美な自慰も、妄想の中の自分は決まってルキアを組み敷いていた。
そして現実には触れることのできないもどかしさが、決まって行為の後に 虚無感として襲ってくるのだった。

「…恋次…?」
彼女の問いかけに、彼は熱に浮かされた視線を返す。そして、ほんの一瞬喘ぐような表情を見せたかと思うと、
彼女の両手首を掴み、自分よりひとまわりもふたまわりも小さいその身体に、ゆっくりと覆い被さった。
ルキアはまだ震えていた。恋次はできる限り優しく、彼女の顔のいたるところに唇を落とした。頬に始まり、
額、まぶた、鼻先、そして唇に。
すると今度は、ルキアが恋次の顔を引き寄せ、同じように口付けていく。
唇に辿りついた時、どちらからともなく舌を差し入れ、またどちらからともなくそれを絡めて吸い合った。
ぴちゃ、ちゅ…という音が二人の耳を刺激し、口付けはますます深くなる。
唇が離れる頃には、水音にお互いの吐息が混じり、恋次はもうこれだけで達してしまいそうなくらい溺れていた。
ルキアの眼にはうっすらと涙が浮かび、気持ちの昂ぶり故か、頬を桃色に染めてうっとりしている。
乱れ悶えながら恋次を求めた虚像のルキアよりも、現実のルキアの方が遥かに敏感で淫らで、美しかった。
恋次はごくりと喉を鳴らし、白いふくらみへそろそろと手を伸ばした。二、三度、掌全体でやんわり上下させると、
引っ掛かる突起が次第に硬くなってきたのが判った。
彼女は唇を噛み締めて声が漏れるのを抑えていたが、彼の舌がもう片方の頂点を捕らえて包み込むと、
「あッ!」と短く嬌声を上げた。
「お前…」

しまった、というように口許を両手で抑え付ける。顔から火がでそうなくらい恥ずかしい。
(こんな、へ、変な声出すなんて、淫乱だと思われるではないか…!)
しかし恋次の口から出た言葉は、ルキアの予想を超えたものだった。
「すげ…お前、…やべぇ、すげーかわいい…」
へ…? と思わず目を開けると、恋次はルキアに負けず、真っ赤になっていたのだった。
奥手で口の悪い彼が、ルキアに対してそのような睦言を言ったことは過去になかった。
「い、今、何と…」
「う…うるせー! もう言わねー、ぜってー言わねー!」
「きゃぁっ! や…ッ」
照れ隠しには少し行き過ぎの愛撫をすると、ルキアの身体は過剰なくらい反応し、 草の上で跳ねた。
一方の乳房を鷲掴みにしつつ、切なげに立ち上がったもう一方の突起を舌と唇で攻める。
「あっ、ん…やぁ…っ! れん…じっ、…!」
延髄を刺激する甘い鳴き声を聞きながら、飽き足らないとばかりに次から次へと
込み上げてくる欲望を、恋次は必死で押しとどめる。
(まだだ…まだ…落ち着け…)
言い聞かせても、頭にガンガン響き渡る心音は、全く収まる気配がない。
「…ぁあんっ…、れ…恋次っ…、」
「ん…? どした…」
不安にさせないよう、返答にも精一杯の余裕を込める。
ルキアは柳眉を寄せ、両目をぎゅっと瞑ったまま、せがむように言葉の断片を紡ぐ。
「へ、へんなの、だ…、…からだ…が、んっ、あつ、あつく…てっ…」
「変じゃねーよ…」
潤む目を薄く開けると、すぐに恋次と目が合った。

恋次は素早く腰紐を抜き、バッと勢いよく着物を脱ぎ捨てると、ルキアを抱え上げて
膝に乗せ、身体を強く密着させた。
「…俺の方が、熱い」
低く、掠れた声が、吐息とともにルキアの耳をかすめる。
ルキアの背に、ゾクリと何かが駆け抜けた。
(此奴…いつのまにこんな…)
否が応でも感じる、男と女の身体の差。昔はそう大して変わらなかった筈なのに、
当時の影はどこにもない。
どこもかしこも「あの頃」とは違う、立派な「男」の身体だった。筋肉も、肩幅も、そして、匂いも。
それらを意識すればするほど、自分の中の「女」が、だんだんと首をもたげてくるのを
ルキアは感じていた。
「…はんっ!」
耳朶を甘噛みされ、のけぞる背中を指先が滑る。熱く湿った舌は顎骨に沿って降りていき、
先端に辿り着くと軽く歯を立てる。
そのまま喉を通過し、鎖骨を舐め、再び胸へと向かう頃、ルキアは身体に生じた
言うにいえない新たな異変に気が付いた。
愛撫の気持ち良さに負けそうになりながらも、悟られまいと少しずつ腰位置をずらし、
恋次の脚から離れようとする。
が、いくら初めてとは言え、それに気付かない程恋次は鈍感ではない。
口内で転がしていた乳首にわざと歯を立て、ルキアの腰が浮いた一瞬に
するりと右手を滑り込ませた。
「あっ…!」
そこはもう、粘性の液で溢れていた。
「すげぇ…濡れてる…」
恋次のストレートな物言いが、ますますルキアを追い詰める。

「やだっ…言うなっ…!」
「言うなったって…本当のことだぜ? ほら…」
三本の指の腹で、液を広げるように割れ目をなぞると、ルキアは一際 高い声を上げた。
「やぁっ! あっ…あ…ぅ…」
「イイ顔だぜルキア、…たまんねえ」
言いながら恋次はひたすら自分を抑えていた。己が象徴も既に痛いくらい
勃ち上がっていて、すぐにでも入れたい衝動に何度もかられた。
ごまかすように無心で指を動かすが、比例して大きくなるルキアの反応は 却って逆効果だった。
「れん…、じ…っ」
「今度は何だ」
「………」
ルキアが涙目で見つめてくる。察しろということか。
そういえばほんの少し前からルキアの腰の動きが変わってきていた。
もしやと思い、入口の浅いところに中指を差し入れてやると、肉壁は
あっさりそれを飲み込んだ。
「………!」
ルキアが声にならない叫びを上げる。
そのまま慎重に指を押し進めると、ルキアは左右に激しく頭を振った。
「…どうした、気持ちいいのか…?」
今度は縦に何度も首を振る。
「じゃあ、ちゃんと声に出さなきゃな」
最奥まで指を収め、様子を窺う。

ルキアはぷは、と息を吐き、体内の酸素を使い切るかのように喘いだ。
「…な、なかっ…、んんッ、も、…もっと…!」
「わかってるよ、そう…焦るな、って」
半ば自分に言い聞かせるように呟き、ぬめる内壁に包まれた指を
そろそろと出し入れし始める。
「あんっ、あ、…は…、や…ぁっ! あぁ…んっ!」
(きつ…、ここに、入るのか…?)
ねっとりと絡む蜜の量と、内部の狭さを考慮しつつ、恋次は 指を一本増やしてみた。
「い…っ、…ぅ…」
背中に回したルキアの指が鋭く食い込み、思わず恋次も顔をしかめる。
「…キツいか? 抜くか?」
唇を噛み締めながらも間髪入れずに拒否するあたりが、非常にルキアらしい。
せめて痛みを鈍らせるだけの快感を与えてやりたいと、恋次は埋めた指先で 愉悦の源泉を探り当てようとする。
(ここか…? いや違うな…もっと、こう…)
試行錯誤で内壁を弄るうち、ルキアの声は次第に艶を含んできた。
身体全体がしっとりと汗ばみ、上気した顔が肩口に擦り付けられる。
「ちが…っ、ぁん、も…と、おくぅ…っ!」

言われる通りに奥まで突っ込み、ぐるりと内側を一周させると、ある一点で ルキアの息がひゅ、と飲み込まれた。
そこか、ともう一度指先を押し付ける。
「あっ…ぁああああ!!」
途端にものすごい勢いで指を締め付けられ、次の瞬間には大量の液体が 湧き出して、恋次の手を濡らした。
ルキアの身体からは完全に力が抜け、後方に倒れかかったのを 慌てて恋次が受けとめた。
「はぁっ、…は…、恋、次…」
呼吸を整えながら虚ろな視線を恋次に向ける。
「大丈夫か? …その、い…イッたんだよ、な…?」
「たわけ、がっ…、無粋な、ことを…聞く、なっ…」
恋次はほっと小さく溜息をつくと、ルキアの細い身体を抱き締めた。
傷つけないよう、大事に大事に抱こうと思っていたのに、もうこの有様だ。
最後まで理性がもつかどうかなんて、最早愚問だった。
「ルキア…、俺、手加減してやれそうにねえ…。止められなくても、
 我慢、してくれるか…?」
呻くような恋次の言葉に、ルキアは無言で微笑み、恋次の首に か細い両腕を巻きつけた。

ルキアの身体を地面に横たえ、もう一度秘所に指をあてて確認する。
それだけで一度達した身体は敏感に反応し、新たな蜜でそこを潤す。
恋次はふう、と息をつき、まぶたを震わせているルキアの頬に軽く口付けると、
猛る自身を入口にあて、一・二度擦りつけた後一気に内部へ押し入った。
「やぁぁっ! ふ…っ、い…たい、れんじっ…!」
あれほどぐしょぐしょに濡らしたにもかかわらず、狭すぎるそこはなかなか 侵入を許してくれない。
怒張したモノの質量が、指の比ではないことくらい恋次にもわかる。
いくら承知の上とはいえ、好きな女を自分が傷つけることはやはり苦しかった。
「ルキア…っ、力…抜け…っ!」
ルキアは呼吸をひきつらせながらなんとか力を抜こうとするが、激痛のため
思うようにいかない。

このままでは埒があかない、もしかしたら無理矢理にでも収め切った方がいいのかもしれない。
そう判断した恋次は、いきなりルキアの陰核を強く押し潰した。
ひゃ…、と意識が逸れたところで、ぐぐ、と強引にねじ込む。と、突然ぬるっとした感触が 恋次のものを包み、そのままずるりと吸い込まれていった。
「っはぁ、はぁ、は…っ、入った、ぞ…、ルキア…。おい…」
無言のまま動かない彼女の、目元を覆う両腕をそっと外す。
伏目がちに開けられた彼女の瞳からは、涙の筋がいくつも伝っていた。
「…すまねぇ、その…痛かったよな…、ゴメンな」
恋次が謝ると、ルキアは小さくかぶりを振った。赤くなった目に再び涙が溜まる。
「そうではない、ただ…、なんだか胸が…いっぱいで…っ…」
恋次はたまらなくなって、ルキアの身体を力いっぱい抱き締めた。溢れては流れる涙に 唇を寄せ、優しく吸い上げる。
(きもちいい…)
恋次の、自分をいつくしむ感情が、唇からじかに伝わってくる。
破瓜の痛みが、薄れ消えていくような気さえした。
「恋次…」
「ん」
「もう…大丈夫だ、…だから…」
本当の処は、痛みがなくなったわけでもなく、鈍痛は変わらず下肢を覆っていた。
けれどもそんなことより、早く一つに溶け合いたいという気持ちの方がずっとずっと勝っていた。
「だから、………」
ルキアは恋次の顔を両手で引き寄せると、強く唇を押し付けた。それが、合図だった。

恋次は唇を重ねたまま、ゆっくりと腰を動かし始めた。身体を揺さぶられるたびに
ルキアの唇の隙間からは嬌声と甘い吐息が漏れ、恋次をますます興奮させた。
痛みと快感の混じる波に押し流されまいと耐える彼女の表情はこれ以上ないほどに
艶めき、恋次の心も身体もぐいぐいと引き込んでいく。
(クソッ、どうにかなっちまいそうだ…!)
打ち付ける腰の動きは情痴に突き動かされるように激しくなり、またルキアも いつの間にか自ら腰を擦り付けて悶えた。
「あっ、あっ、あ…っ、も、やっ…、やぁ…っ、恋次っ、恋次…っ!」
「…っく、ルキア…!」
昇り詰め、堕ちていく意識の中で、ルキアは体内に何かあたたかいものが 染み渡っていくのを感じていた。

「…あ…」
ルキアは視界に飛び込んできた義兄の背中に驚き、飛び起きた。
「起きたか…ルキア」
「す、すみません兄様、兄様のお部屋で居眠りなどと…」
裸のまま急いで着物をかき集め、手早く身に着けていく。
白哉はルキアの様子を一瞥し、再び書写台へと向かった。
「何か…夢を見ていたようだな」
ルキアの背中に冷や汗が伝う。
「いえ…そのような覚えはありません」
「…そうか」
「はい。…では、失礼します」

ルキアが退室した後、白哉は改めて手許の資料を広げた。
「次期副隊長候補」と書かれたその文書には、「阿散井恋次」の名もあった。
その事実を、ルキアはまだ知らない。


(完)