朽木ルキア大ブレイクの予感パート6 :  335氏 投稿日:04/01/15 01:05


『ルキア誕生日イチルキSS』


家に帰ると、一護は未だ帰宅していなかった。コンの姿も見えない。
「・・・一護?いないのか?」
オレンジ色がなければ殺風景なこの部屋に声をかけてみても、返事など返ってくるはずもない。こんな時間に家にいないということは、
今 夜は帰っては来ないのかもしれない。しんとした静寂がルキアを包む。

(―――今晩は一人かな)

独りには慣れていた。死神になってからは単独行動を強いられることも増えたし、一人きりで過ごす夜の方が圧倒的に多かった。
何より、心を許せない者と共に居るよりも、独りの方が楽だった。
だけど。

(私も腑抜けになったものだ)

寂しいと思うなんて、どうかしている。

のろのろとパジャマに着替え、押入れによじ登る。暖房も効いていない押入れは一際寒く、暗く、どこか陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
布 団にくるまっていても、何だか眠れそうな気がしない。

(どこをほっつき歩いているのだ、あやつは)
今までこんなことはなかった。急な虚の出現でもない限り、私に連絡も無しにこんな時間まで留守にすることなんて、一度もなかった。

―――現世に帰ってきて以来、一護が私を一人にするなんて一度もなかった。

私らしくない。
ちょっとこの生活に慣れたからといって、無様ではないか。
寂しくて眠れないなんて、本当にどうにかしている―――

その時、扉のほうからバタンともドスンともつかないような音が聞こえた。
「コラ一護てめェ!俺様を踏みつけにしやがったな!」
「あァ!?もとから絶壁だろーがテメーは!」
聞きなれた声がする。
(帰って来たのか)
押入れを開けようとして、はたと止まる。こんな時間まで私を放っておいたのだ。こっちから出迎えるのは癪ではないか。

「ルキア?もう寝てんのか?」
ノックもなしに一護が押入れを開けた。
「・・・ルキア?マジで寝てるわけ?」
ルキアの被っていた布団を、一護が少し躊躇いがちに払った。
目が合った。・・・目を瞑っておくのを忘れていた。
「あ、起こしちまったか?」
「・・・お帰り。随分遅かったな、寝るところだったぞ」
自然に言ったつもりだったが、やはりトゲが隠しきれていなかったらしく、一護がちょっと戸惑った顔をした。

「何だよ。スネてんのか?」
「たわけ!拗ねてなどおらぬわ」
「スネてんじゃねーか。まぁ確かに、こんな時間まで・・・」
「姐さん、お一人にしてしまってスンマセンでした!」
一護の言葉をさえぎるように、コンが喚いた。
「遅くなったのには訳があるんスよ!一護の野郎がどうしてもウ・・・、ブふゥッ!」
「・・・あー!くそ!テメーは黙っとけ!」
コンを瞬殺し、一護は後ろ手に持っていた(らしい)ものをルキアの目の前に突き出した。
「訳っつうのはな、コレのことだ!」

白い・・・、何だろう。近すぎて全く見えない。
「??いち・・・?」
次の瞬間、一護が思いも寄らない言葉を言った。

「えー、誕生日オメデトウ。・・・何歳になったかは知らねーけどな」

・・・一瞬、何のことか理解できなかった。
唐突すぎるその言葉に、目の前がチカチカした。

「どうして・・・」

そう、誕生日。
一護が、私の誕生日を・・・?

「前に井上に教えたことあるだろ?ほら見ろよ、もう12時回ってるぞ」
そう言われて時計を見た。12時を1分過ぎたくらいのところに長針があった。
「で、これ。やるよ」
差し出されたのは、小さなウサギのぬいぐるみだった。先程の白い物体の正体はこれだったようだ。
「プレゼント。たいしたもんじゃねーけど」
「これは・・・!」

見覚えがあった。
少し前、一護と駅前のゲームセンターに行った時、UFOキャッチャーという遊具のガラスケースの中に、うさぎのチャッピーによく似たぬい ぐるみを見つけた。
それが欲しいと一護に言ったら、奥の方にあるとか形が難しいとかで簡単には取ることが出来ないのだと知り、泣く泣 く諦めたのだった。
あんな些細なことなのに、覚えていたのか。

「あの時の・・・?」
絶対に無理だと言っていたのに。
「姐さん、コイツ閉店間際までずーっと居座って、店員にキレられてたんスよ!恥ずかし・・・ぐふゥッ!!」
「だから黙ってろってテメーは!いや実際はぜんぜん余裕だったんだぞ、あんなもん!」

一護の顔が少し赤みを帯びている。
―――嘘くらいすぐ判るというのに、此奴は。
「・・・莫迦者、無理をしおって」
「ちがっ・・・、バカ野郎!だから余裕だったっつってんだろーが!昨日聞いたからそれくらいしか思いつかなかったんだよ!・・・気に入らな かったらスマンな!」

更に赤みを増した一護の顔。
ぶっきらぼうな祝辞。
諦めていた、うさぎのチャッピー。

顔が自然と緩むのがわかる。

「・・・嬉しい」

こんなに充足感を味わったのはいつぶりだろう。
誕生日なんて、久しく祝ってもらっていなかったような気がする。

「本当にありがとう。一護」

「・・・・・・」

一護は一瞬ルキアの顔を無言で見た。
かと思うとコンの首を掴んで持ち上げ、廊下に向かって叫んだ。
「おーい遊子、ボスタフが見つかったぞー!」
「何ィー!?一護まさかてめェ、俺を売・・・ちょ、ちょっ・・・!」
「すまん、コン」
「一護てめェえええええ!!」
コンの叫び声は廊下に去り、遊子の歓声によって途絶えた。
バタンと、一護は容赦なくドアを閉める。
あまりにも唐突な一護の行動を、ルキアは呆然と眺めていた。

「い・・・一護、どうしたのだ?今のは少し可哀相ではないか・・・?」
恐る恐る声をかけたルキアに、一護は小さく答えた。
「仕方ねーだろ。さっきのお前、むちゃくちゃ可愛かったんだから」
「へ?何と・・・?」
「あんな顔されちゃ、堪んねェんだよ」
そう言って、一護がおもむろに押入れに乗り上げた。
「な、何をしているのだ?」
「・・・プレゼント、あげるだけじゃ物足りなくなった」
そしてそのまま、ルキアのパジャマのボタンを外す。
「え、ええっ!・・・一護!?」
「俺、まだ誕生日ケーキ食ってないもん。だからお前がケーキでいいだろ?」
「どういう理屈・・・ちょ、・・・・・・あん・・・!」



ケーキの味は秘密。



(完)