朽木ルキア大ブレイクの予感パート12 :  721氏 投稿日:2006/03/12(日) 22:57:04


人形遊び


「朽木サン、あのボーヤと寝たでしょ」
節張った掌が、露になったルキアの背中に触れた。
「くだらないことを言うな。そんなこと分かるはずがないだろう」
「わかりますよ。だってこの身体は私が作ったんですから」
布団に寝転がっている浦原は、自分に背を向け、枕元にぺたりと座ったルキアに腕を伸ばす。
華奢な曲線をなぞるようにその裸身を撫で回した。
練り絹のような肌はさらさらとして、浦原を拒絶するかのように滑らかだ。
義骸のメンテナンスと称して体を重ねる。
それはいつものこと。
ルキアが義骸に入ってから、幾度も繰り返された習慣のようなもの。
だが、今日はすべていつも通りだったわけではなかった。
「肌の感触がね、変わりましたよ」
「・・・戯言を」
「羨ましいですねぇ。初めてだったでしょ、あのボーヤ。筆おろしがあなただなんて、いやー羨ましい限りだ」
浦原の無駄口と情事の後の独特の倦怠感。
それから逃れるようにルキアは首を振り、乱れた髪を直すと布団の周囲に散らばった制服に手を伸ばす。
「何してるんです?」
「決まっている。帰るのだ」
「えー、そんなせっかちなこと言わないで。もっとゆっくりしていけばいいじゃないですか」
「そうもいかん。明日も学校があるのだからな」
「・・・学校ねぇ」
浦原はブラウスに袖を通していた細い腕を掴み、後ろから抱きしめた。

「そんなものどーでもいいじゃないすか。・・・・って黙々とボタン留めていくのやめません?」
「そういう貴様こそ留めたそばから外すな。いつまでたっても着られないではないか!」
「えー、帰したくないからに決まってるじゃないすか。朽木サンこそ留めなおさないで下さいよ。これじゃあいつまでたっても脱がせられないでしょ」
ブラウスのボタンと格闘しつつ、浦原は意地悪く、耳元でそっと囁いた。
「それとも、あのボーヤが待ってるから早く帰りたいんですか?」
ルキアの肩がぴくりと震えた。
「あの年頃ってやりたい盛りでしょ。毎晩がっついてくるんじゃありません?」
「下世話なことを!」
苛立たしげに吐き捨てるルキアの耳朶を軽く噛んだ。
「でも朽木サン。さっきから黒崎サンとのコト、否定しようとすらしてないじゃないですか」
「・・・・・」
ルキアの動きが、止まる。
ボタンを留めなおそうとやっきになっていた指先から力が抜け、ぱたりと布団の上に落ちた。
「不実だと、思うか?」
乾いた声だった。
それは誰に対する不実だというのだろう。
浦原は興味のない口ぶりでルキアの黒髪に指を絡ませる。
「さあ。あなたがうちに来るのは義骸のメンテのためだけなんじゃないんですか?」
「・・・そうだな」
ブラウスを肩から落としても、布団に押し倒してもルキアもうは抵抗しなかった。
だらりと弛緩した身体はまるで人形のようだ。
虚空を見つめる紫水晶の瞳は、ただそこにあるだけで決して浦原を映しはしない。
「・・・・・」
なにやら気に入らない。

華奢な身体を開かせ、覆いかぶさる。首筋に顔を埋めると、髪から匂いたつ甘い体臭が鼻腔をくすぐる。
思わず喉を鳴らし、薄い胸に頬擦りしながら張りのある腿を優しく撫でた。
豊かな乳房などなくとも、柳のような細腰と吸い付くような肌理細やかな肌は十二分に男をそそる。
それどころか幼い少女のような愛らしい姿をしながら、真珠色の肌はどうしようもなく男を惑わせる。
浦原は軽く唇を舐め、細い足首を高く抱え上げると秘所を露にした。
敏感な場所を晒され、ルキアの背が微かに撥ねた。
ルキアの感度を確かめるように踝に口づけ、ねっとりと舌を這わせた。
「んぁ・・」
焦らすように、ふっくりと紅く火照ったクリトリスに息を吹きかけると、ルキアの喉が鈴のように震えた。
秘所の奥で、先ほどの浦原の残滓がルキアの蜜と混ざり合っていた。
それがほんの少し触れるだけで新たな蜜と混じり、溢れる。
糸を引き、布団に濡れた染みを作った。
「ココをこんなにしたまま黒崎サンのとこ・・行くつもりだったんですか?」
ルキアは耳をふさぐ代わりに顔を背けた。
わずかな反応も楽しむように浦原は笑う。
内腿に軽く歯を立て、冷えた指先をルキアのなかに潜り込ませる。
「・・っ・・ん」
鼻にかかった高い声。
慣れた指先だ。浦原の指は知っていた。
どこをどうされるのが気持ちいいのか。どうすれば堪えられず喘がせることができるのか。
ルキアの感じるところを知り尽くしていた。
「・・ふ・・んぁ」
浦原の愛撫に応じて自然に背筋が震え、甘い吐息が漏れた。

ルキアは微かに笑んだ。自らを蔑む笑みだった。
確かに奴には無理な話だな。
熱に侵食され高揚に身を沈める一方で意識の一部は妙に冴えている。
冷えた目でなすがままにされる己の身体を他人事のように眺めていた。
「今、誰のこと考えてました?」
相変わらず、鋭い男だ。
ルキアは視線を合わせることができなかった。
「なにも・・」
浦原はなにかを探るように紫暗の瞳を覗き込む。
だがそのなかに浦原が求めるものは決してない。
彼女は人形ではないのだ。例えその器が自分の作品であっても。
二つとない、かけがえのない存在であったとしても。
決して己のものではない。己のものにはならない。
「・・・・すみません朽木サン。やっぱ怒ってるみたいです、ワタシ」
「え?・・・・つっああっ!」
しなる腰を抱え上げ、前触れなく己をルキアの最奥に突き立てた。
唐突だったが、十分に潤っていた蜜壷は男の横柄な仕業を飲み込んだ。
と、一息つくまもなく。浦原の右手がルキアの喉を掴んだ。
細い、細い首だった。
ともすれば浦原の掌で包み込めてしまえそうな首だった。
「うらは・・ら?――――っかはっ!」
冷たい手だった。血が通っているのかと疑いたくなるような掌にルキアが触れた途端であった。
何が起こったかわからないうちに、その手がルキアから呼吸を奪った。
ゆっくり指先に力をこめ、締め上げる。
同時にルキアのなかで男が動く。
それは乱暴で荒々しく、ルキアを攻め立てた。
浦原はルキアを犯しながら、片手で縊り続けた。
そのため動くたび僅かに緩み、再びきつく締め上げられる。
息を奪われ、快感を与えられ。ルキアの意識は混濁していく。
半開きになった唇から突き出された薄い舌が天を向く。必死で微かな呼吸を求めた。

だが浦原はそれさえ許さない。残酷な掌は徐々に、確実にルキアを追い詰めた。
目の前をちかちかと瞬く白い光が意識を焼く。針をゆっくり刺し込まれたかのように脳の髄が重く、体全体が沈んでいく錯覚がルキアを蝕んだ。
「あっ・・・がぁ・・はっ・・・」
自分を貫く熱と、首を絞める冷たい掌が同じ男のものとは思えなかった。
朦朧とした意識のなか、己を繋ぎとめるかのように必死で浦原の腕に爪を立てた。
こんな抵抗が意味を成さないことなどわかっていても、抗わないことは生き物の本能が許さなかった。
目を見開き、射殺さんばかりに浦原を睨む。
怒りに紫の瞳が燃えていた。
ルキアが自分を見ている。
それを確かめると浦原は満足げに、楽しげになお手に力をこめた。
白い喉に食い込む己の指先。腕を引き剥がそうともがくルキアの指先。
それを見つめながら、余裕なくルキアを犯した。
指が息を奪うほど、ルキアが浦原を拒否するほど、なかはきつく締まった。
「私を・・喰い千切る気ですか、朽木サン」
「あ・・・・」
細い声をもらし、荒く乱れていたルキアの息が途切れる。
背筋が反り、しなやかな肢体がわななき、止まる。
喉が大きく仰け反り、一層指が深く食い込む。
唐突に。
痙攣していた指先から力が抜け落ちる。反り返っていた身体が、がくりと布団に落ちる。
そのあっけなさは、ぷつりと糸を切られた操り人形が崩れ落ちるのに似ていた。
自分の腕に深く刻まれた三日月形の爪痕。
それを一瞥し、浦原は少年のように吐精した。
「・・朽木サン」
閉ざされた瞼は充血し赤くむくみ、長い睫毛が頬に陰を落としていた。
蝋のように冷えきった頬にそっと唇をよせる。
ゆがんだ達成感が浦原を満たしていた。

息はある。
ルキアの唇が震えるように微かに動いた。
それを浦原が確認した瞬間。霊圧が膨れ上がる。
「―――!!」
その直撃を免れたのは経験による条件反射に他ならない。
思わず浦原は低く呻いた。
じり・・と皮膚が焦げる。異臭が鼻をついた。
避けきれず、ルキアの放った破道が浦原の脇腹を焼いた。
一瞬遅れ、どんと音を立てて天井が崩れた。
思わず仰け反った、その隙を逃さずルキアは浦原の下から逃れようと身を翻す。
「逃がしませんよ」
細い足首を掴む。そのまま自分の下に引きずり、うつ伏せに組み敷いた。
爪が畳を掻くが、そんなもの無意味だ。
「気絶した振り、ですか。私じゃなかったら直撃してましたよ」
ただでさえ気の緩む瞬間だったのだ。
勘が萎えていたら、穴が開くのは天井ではなく浦原の腹であっただろう。
「貴様に・・この程度が、避けられ、ぬ・・わけが、あるまい」
激しく咳き込みながら途切れ途切れに吐き出した声は、普段からは考えられないほど、醜くしゃがれていた。
喉が潰されたのだから当然だ。
「・・それは褒められたと思っていいんでしょうかね」
残忍な笑みが深くなる。手の内の獲物をどう料理するか舌なめずりせんばかりだった。
現に、今のルキアは浦原の虜に等しい。
だが痛む喉も、不利な体勢もルキアの枷になどならない。
なるまいと抗った。

全身のばねを使い、腰をひねる。強烈な手刀が背後の浦原を狙う。
首に向かって放たれた手刀を完全にはかわせず、爪が頬を浅く裂いた。
「やってくれるじゃないですか」
舌打ちをひとつ。油断したつもりはないが、甘く見ていたのは事実だ。
振り上げられた手をそのまま捕らえ、捻り上げる。
無表情で、さながら事務的な作業をするようであった。
無造作に。的確に。ゆっくりとルキアの腕が本来有り得ない方向に曲がる。
容赦する道理もない。
「う・・ぐぅ・・あ・・ああああっ!」
ルキアの白い背が魚のように跳ねた。
かすれた声を絞り出し、堪えられぬ悲鳴がルキアの喉を突いて出た。
完全に抑えられ自由を奪われ、それでも足掻くように身をよじる。髪を振り乱し、腕をほどこうとする。
だがどんな悲鳴をあげようが、関節が軋もうが筋が切れようが、浦原は頓着しなかった。
「無駄ですよ」
呟きがひとつ。
不快な音をたて、ルキアの右肩が外れた。
「は・・・あ・・はっ」
悲鳴はもはや声にならない。
肩が上下し、大きく喘ぐだけで精一杯だった。
あぶら汗が額ににじみ、黒髪が張り付いていた。
浦原は喉の奥で低く笑う。
「あんまりオイタしちゃダメですよ」
そこには底の見えぬ深淵に似た瞳があった。
「あ・・」
ルキアは思わず息を飲んだ。
戦慄が走る。首を絞められていたときには感じなかった恐怖に鳥肌が立った。
ルキアの動揺を黙殺し、先ほどまでルキアの首を絞めていた右手は、ゆっくりと背を這う。
きれいな曲線を描く腰を確認するように辿り、徐々に下に下りてゆく。

薄い尻を撫で回し、精液に汚れた腿を左右に割った。
「もう・・放せ」
「いやですよ」
いっそ楽しげに、浦原はルキアのなかに指を突き立てた。
「んああっ」
外れた右肩が熱を持ち、耳の奥が痺れるように熱い。
頬を布団に押し付け、そのまま意識を手放してしまいそうだ。
視界が暗くなり、浦原の声が遠くなる。
そのくせ濡れた音だけは、耳のすぐ隣のかと思うほど間近に、生々しく鼓膜に響いた。
「痛いの、嫌いじゃないでしょ」
囁きながら指先はルキアの感じるところを丁寧に擦る。
「こんなにぐしょぐしょにして。指を伝って溢れてくる」
ぞくぞくとした痺れが脳天まで這い上がり、ルキアの熱は確かに高まっていく。
先程とは違う理由で息が乱れた。
「ねえ、さっきもイってたでしょ」
ルキアはせめて声を漏らさぬよう、きりと唇を噛み締めた。
「首を絞められても肩を外されても。痛くないわけないのに、ほらあなたはこんなに感じてる」
濡れそぼったルキアのなかを浦原の指が動く。ゆっくりと襞をなぞるように。
「あんなに酷いことをされてても、あなたは感じるし、私を飲み込むんだ」
尻を高く抱えられ、蠢いていた指が秘裂を大きく開かせる。
男がゆっくり押し入ってくる。
「や・・」
浦原は薄く笑い、耳元に囁く。
「淫乱」
残酷な言葉は甘い毒に変わる。
それを拒否するようにルキアは歯軋りし、擦れた声で苦々しく吐き捨てた。
「・・・・そう作ったのは貴様だろうが!」
浦原は目を見張る。
「この期に及んで、まだそんな憎まれ口を利きますか」
呆れながらも、決して屈しないその魂を美しいと思った。

すでに何度も達している体は快楽の頂点の間近にある。その心とは裏腹に。
漏らす声はすでに言葉にならない。
紫暗の瞳は恍惚に蕩け、まともに焦点を結ばない。
後ろから浦原に揺すられ、幾度も小さな波がルキアを襲い、飲み込もうとする。
ルキアはシーツをきつく握り締めた。なにかを堪えるように。縋るかのように。
力を込め過ぎたせいで指は引き攣り、石のように固まってしまった。だが、そんなことに構う余裕などありはしない。
「い・・ぁあ・・も、やぁ・・・ぁ・・なせぇ」
嗄れ果てても尚艶めきを失わぬ声でルキアは鳴いた。
それは男を煽ることはあっても鎮めることは決してない。
だが宥めるように、震える指先を浦原の手が包んだ。
指を絡ませ、そっと口付けてくる。
緩い律動をあたえながら、背後から腕が回され肌が密着する。
乳房をやわやわと撫で、その先端を掠めるように弾いた。
「んんっ・・あぁ・・」
絡みつく指がいっそ忌まわしい。
振り払えたら、どんなに楽だろうか。
そっと包まれ、護られている錯覚に眩暈がした。
喉の痛みさえも忘れてしまいそうだった。

この男がわからない。
仕事上の付き合いというには熱のこもった愛撫をする。
かと思えばガラス玉ような目で見つめてくる。
実験動物か何かだと思っているのだろうか。
現に右肩から先の感覚がない。
それなのに唇をなぞる指先も、与えられている熱もあまりに優しい。優しすぎる。
涙が出るくらいに。
例え偽りだとわかっていても、溺れてしまいたくなるくらいに。
この男がわからない。
不明は容易に不信に至る。

浦原に犯されながら、ふと泥沼に足を踏み入れた気分になる。
もがけばもがくほど抜けられぬ。沈んでいく。
底なし沼だ。
「やだ・・もう・・・いやっあぁ――――」
大きな波がルキアを襲う。
闇の中、堕ちているのか救われているのか。もうわからない。
全て絶頂が攫っていった。
「いつか・・」
背後に視線を投げる。
「いつか私は・・お前に殺される気がするぞ・・」
気を失う間際。逆光になって男の表情はわからなかった。
だがなんとなく、泣いているような気がした。

浦原は気を失ったルキアの首筋にそっと触れる。
自分が締めた痕は思いのほかくっきりと残っていた。
鬱血した痣は赤い首輪のようだ。
首輪の輪郭をゆっくりなぞる。
「・・・ふむ」
これを見たときあのボーヤがどんな顔をするか、悪趣味な興味はある。
しかし同時にこの痣を衆目に晒すことになる。それは嫌だった。
いびつな執着心と無意味な独占欲。
自覚があったところでどうなるものでもない。
きつく黒髪を掴み引っ張ってみても、それは指をすり抜けさらさらと零れ落ちる。
絹糸のような手触りだけが残った。
空っぽの掌を緩く握る。
「しかたないっすね。氷で冷やせばましになるでしょ」
外れた肩も修理しなくてはいけない。
結局仕事を増やしただけだ。
浦原はルキアを起こさぬよう、そっと布団から這い出した。
脱ぎ散らかした作務衣を羽織り、ふすまに手をかける。
ふと振り返り肩越しにルキアの小さな背を見つめた。
自然に微笑が浮かんだ。
「愛してますよ、朽木サン」
それが己の作品に対するものなのか、彼女の内に秘められた至宝へなのか。それとも彼女自身に向けられたものなのか。
浦原にはもうどうでもいいことだった。
ぱたん、とふすまが乾いた音をたてた。


(完)