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朽木ルキア大ブレイクの予感パート12 :  327氏 投稿日:2006/01/15(日) 01:33:18


shooting star


「…あっ…んんっ……」
暗闇の中、甲高い声が木霊する。行灯の灯りに照らされて、女の白い背中が魚の腹のように青白くぼうっと浮かび上がり、恋次はそれを無表情に見つめていた。
ただ無心に腰を打ち付ける。
限界がきたのか、女は一際大きい嬌声をあげて、体を弓なりに反らした。
そして、そのままぐったりと布団の上に体を投げ出す。
しばらくの間、荒い息だけが小さな部屋に響いていた。

「あんた、最近随分頻繁に来るわねえ。何、今キビシイの?」
玄関先で背後から声をかけられ、扉を開けたまま恋次は顔だけで振り返った。
「…まあ、そんなとこだ」
ぶっきらぼうにそう答えを返すと、女はふふと笑って草履をはき、恋次の方へと近づいてきた。
そして恋次の腕に自身の腕を絡め、くいと袖を少し引っ張る。
自然、恋次の顔の位置が下がり、女はんっと唇を突き出してきた。
吸い付くように近づいてくる唇、しかしそれは恋次が顔と顔との間に差し出した手のひらに阻まれた。
もう、またそれと女が口を尖らせる。
「誰に操だててるのか知らないけどさ、…ってほんとの操はもうないけど」
「うるせえよ。俺の主義なんだよ、これが」
つくづく変な男ねと、女はおかしそうに笑った。
この女の名前を恋次は知らない。
初めて出会ったとき―――あれは、半年ほど前のことだったか―――、名乗った名ならあるが恐らく本名ではないだろう。
流魂街78地区戌吊に程近い色町で恋次がどの着物を盗もうかと物色しているところを見つかり、声をかけられたのが最初だった。
『盗むくらいだったらあたしの相手でもしないかい?今退屈してんだ、賃金ははずむよ』
最初は冗談じゃないと断った恋次であったが、提示された額の多さに思わず首を縦に振ってしまったのだ。
それから何回かこの女の所に訪れては体を重ね、金をもらう、という付き合いを続けている。
女が何者なのか、どんな素性があってこのような大金を払えるのか、恋次の一体何に気を惹かれて声をかけたのか、本当のところは全く知れない。
だがそんなことはどうでもいいことだった。
女の美貌も年を重ねた故の色香も、恋次の眼中には無い。
ただ小遣いを稼ぐのに丁度よかったから、それだけが理由だった。
「ねえ、このままここに住んじゃえばいいじゃない。いちいち町外れの方まで帰んなくてもさ」
女は絡みついている腕をぶらぶらと揺らして甘えた声を出す。
「何度も言ってるだろ、家で待ってるヤツがいんだよ」
「例の仔猫ちゃん?まったく、それも怪しいもんよね。ほんとに動物飼ってるの?」
「うるせえって。おら、腕放せ」
「はいはい、もう…。ほらこれ、今日のお駄賃」
「…おう」
「またすぐやりに来んでしょ?」
「…気が向いたらな」
そう言葉を残して恋次は女の家を後にし、待ってるわよ―という女の声を背に色町の人ごみの中に溶け込んでいった。

1月7日。
正月が明け、町が浮かれた気分を払拭しすっかり普段の調子を取り戻したころ、ルキアは手一杯に荷物を掲げながら一人町の中を歩いていた。
珍しい紫水晶に似た瞳の色をした、小柄な少女である。
着ている物は粗末であるが、その振る舞いからはこの町には相応しくない、凛とした雰囲気を醸し出していた。
ルキアが通ると町行く人々がお、と振り返る。
人ごみに紛れてもはっと目を引く少女なのだ。
しかし本人はそんな周囲の様子を気にも留めず、ただただ黙々と歩いていた。
もうすっかり夜が更けてしまっている。
ここらで最も栄えているこの区域でもちらほらと店が閉まり、
店から追い出された酔っ払いがそこらでやかましく言い争っているのだが、その声もルキアの耳にはほとんど届いてこなかった。
ただひたすらぶつぶつと考えに耽って、前すら見ていない風情である。
気にかかっていることはひとつ、随分長いこと自分と一緒に暮らしている少年についてだった。
近頃、恋次の様子がどうもおかしい。
少し前からふらりと姿を消しては、食べ物やら服やらを妙にたくさん持って帰ってくるようになったのだが、ここ最近はその様子が顕著だ。
二日に一度は出かけて行き、帰りが明け方近くになることもしばしばである。
どうしたのかと尋ねても、いい穴場を見つけたからだとか、その場所がかなり遠いからなどと言う。
お前にばかり頼るわけにはいかない、その場所を教えろと言っても曖昧な答えしか返ってこなくて、
ルキアはここ数日をもやもやとした気分のまま過ごしていた。
はあっと大きくため息をつくと、吐いた傍から色が白く変わってゆく。
かじかむ手を擦りたかったが、手を離すとせっかくとってきた食べ物が全部下に落っこちてしまうので必死に我慢した。
いくら戌吊がソウルソサエティの南に位置していると言っても冬の生活は厳しいもので、
芯まで刺すような寒さと乏しい食料は、特にルキアや恋次のような子供たちには致命傷となり得た。
冬を越せないまま逝ってしまった仲間も多くいる。
特に食べ物の問題は霊力を持つルキアと恋次には死活問題であるのだが、今日は随分とたくさんの食料が手に入った。
これならば2週間くらいは持つだろうから、恋次もしばらく出かけなくていいだろう、そう考えた時、町のにおいが変わった。

それまでの酒とタバコに塗れたにおいに混じり、どこか鼻につく人工的な香り。
香のにおいだと気づくと、ルキアは慌てて周囲を見回す。
考えごとに夢中になっているうちに、いつの間にやら色町に紛れ込んでしまったようであった。
これは不味い。いくらやせ細った小さな体とは言えルキアも女だ、目をつけられたら一巻の終わりである。
急いで来た道を引き返そうとしたその時、ルキアがよく知る赤い頭が目の中に飛び込んできた。
(…恋次…?)
見紛うはずもない、周りより頭一個分はみ出したその赤い色。
ルキアは思わず近くの物陰に身を隠す。
な、何をやっているのだ、私は。
この莫迦、こんなところでなにをやっているのだ、そう言って堂々と恋次に近づけばいい。
そうは思ってもいざ物陰から出て行こうとすると足が前に動かない。
仕方なく、姿を隠したままそろりそろりと恋次の立つ家の前まで足を運んでゆく。
近づくにつれ、普段とはがらりと雰囲気が異なる恋次の様子に気づき、
そして次いで艶やかな女が恋次の腕にぶら下がっているのが見えた。
(……え…?)
一気に思考が止まり、それに合わせて足も止まる。
そして恋次と女の会話が勝手に耳に飛び込んできた。
――ねえ、このままここに住んじゃえばいいじゃない。いちいち町外れの方まで帰んなくても―――
―――何度も言ってるだろ、家で待ってるヤツが―――
―――例の仔猫ちゃん?まったく、それも―――
―――ほらこれ、今日のお駄賃―――
―――またすぐやりに来んでしょ―――
―――気が向いたら―――
どさり
音を立てて荷物が手から崩れ落ちる。
二人の会話の内容を、頭では理解できても感情が追いつかず、体が凍りついた。
そのまま固まっていると、恋次がこちらに向かってくるのが見え、
ルキアは落とした大事な食料のことも忘れ一目散にその場から逃げて行った。

ここ一週間ルキアが妙に不機嫌で、ろくに口も利いてくれない。
何か話しかけても短い返事しか返ってこない上に、顔を合わすとすぐに逸らされる。
そのくせ俺が出かけようとすると必ず後をついてくるのだ。
正直訳がわからない。
今日も寒いし危ないから止せと言ったのだが全く聞かず、
いい加減にしろよと声をあげる前にぎっと鋭い目で睨まれて、恋次は言いかけた言葉を飲み込んでしまった。
そうして結局二人で人様の畑に侵入し、冬の野菜を頂戴することになった。
昔と比べて図体が大きくなったため見つかる危険性は高くなったがその分要領は得たもので、
この日も無事に数日分の野菜を手に入れることができた。
畑の近くの林の中に身を隠して、採ってきた食料をあらかじめ用意していた袋に詰めてゆく。
大根、白菜、ほうれん草にイモ類と、なかなかの収穫だ。
むすっと黙って整理を続けるルキアに、今夜はご馳走が食えるなと話しかけるが案の定返事は無い。
(くそ、なんだっていうんだよ)
心中でそっと呟くと、これで何度目かわからない問いをかける。
「なあ、お前何怒ってんだよ」
「別に怒ってなどおらぬ」
「誰がどう見たって怒ってるだろうが。…俺がなんかしたか?」
「……荷を詰めたのならばとっとと帰るぞ」
そう言うと恋次の方をまるで見ずに、袋を背負って一人でさっさと林を出てしまう。
「あ、おいちょっと待てよ、こら!」
恋次は慌てて散らばった食料を詰め、急いで立ち上がり、しかしそこで溜息をひとつ吐いた。
胸に手を当てて探ると固い感触。懐に隠し持ったその存在をしっかりと確認する。
1月14日、ルキアは怒り心頭ですっかり忘れているかもしれないが、今日はあいつの誕生日だった。
いつもの何十倍も奮発したその贈り物を朝から何度も何度も渡そう試みているのだが、
ルキアの取り付く島もない態度についつい先延ばしになってしまっている。
まだ大丈夫だ、昼飯を食ってるときに、いやいや家に帰ってから…と、葛藤しているうちにも無慈悲に時間は過ぎてゆく。
このままではこれを渡すどころか、おめでとうの一言も言えないまま今日が終わってしまうだろう。
そんなわけにいくか!
傾きかけた日を憤然と睨みつけ覚悟を決めると、恋次は急いでルキアの小さな背中を追った。

小川に沿ってすすきの野原が広がり、そこを縫うように小さな小道がずっと続いていた。
日はすっかり山の端にかかり、辺りの景色を赤く染め上げている。
雲ひとつ無い夕焼けの中を、二人はやはり無言で歩いていた。川の小さなせせらぎがやけに大きく聞こえる。
ここだ、ここしかねえ。これを逃したら俺はきっとこれを渡せねえ。
そう言い聞かせて腹をくくり、ルキアに声をかける。
「ルキア」
「……」
「ルキア!」
「……」
だんまりを決め込むルキアに、すうっと深く息を吸い込み、
「ルキアッ!!!」
恋次は自身の持つ最大級の声を張り上げた。
ルキアはひっと悲鳴をあげて体を小さく震わせると、耳を押さえながらぐるんとこちらを向いてきた。
やった。
「この莫迦者!こんな至近距離でそのような大声を出すやつがあるか!?」
「オメーがいくら呼んでも聞こえないふりするからだろが」
「だからといって叫ぶことはないだろう!耳が痛いではないか!鼓膜が破れたらどうするのだ!?」
きゃんきゃんと喚き散らすルキアの顔の前に、恋次は懐から出した小さな包みを差し出した。
「…なんだ?」
ん、ともう一度、押し付けるように差し出したそれを、ルキアはよくわからない風で受け取った。
「開けてみろよ」
その言葉に促され、がさがさと包みを開いていく。
「お前、今日誕生日だろ。それ、盗んできたやつじゃないんだぜ?」
言いながら、ルキアの反応をそっと窺う。
恋次は柄にも無く自身の心臓の音が高まるのを感じた。
それは随分と厳重に包まれていたようで、何枚かの紙を剥がされてようやく姿を現した。
紅色の、大輪の花をあしらった一本のつまみ簪。



喜んでくれると思ったのだ。
はにかむような、あの愛らしい笑顔を見せてくれると。
しかし、ルキアの表情は冷たく凍りついたままであった。


ルキアは食い入るように自分の手の中のものを見つめていた。
漆で塗り込められたように光る足の先に、牡丹だろうか、布で形作られた花が見事に咲いている。
飾りも足も上品な紅色に包まれたそれは、装飾品のことなどさっぱりなルキアにも上等なものだと知れた。
嬉しいよりも先に、どうしてこんな高価なものを手にいれられたのかと思った。
幾重にも折り重なった包みは、盗んだものではないという恋次の言葉を裏付けている。
ちゃんと店で買ってきたものなのだろう。
では、そんな金は一体どこから。
ルキアには手に取るようにわかった。
あの女と契って得た金で買ったのだ。
そう悟った途端かっと体が熱くなり、ここ数日間胸のうちで燻っていた感情が堰を切ったかのように溢れ出た。
こんなもの!
ルキアは勢いよく振りかぶり、紅色の簪を思いっきり地面に叩き付けた。
パリンと、か細い音を立てて簪は二つに折れた。
「な…!!お前、何を…!?」
唖然とする恋次を後目に、ルキアはあっという間にすすき野の中へと駆け込んで、その姿をくらましてしまう。
恋次はしばし呆然と、折れた簪とルキアが消えていったすすき野を交互に見やっていたが、
くそっと舌打ちをし、ルキアの後を追いかけた。
「なんだって言うんだよ、一体!」

背の低いルキアの体はすすきにすっぽりと姿を隠されてしまったが、
幸い恋次はわずかではあるが霊圧を感知することができる。
ルキアの霊圧を感じ取ると、追いつくのに苦労はしなかった。
懸命に走るルキアの腕を半ば強引にとると、無理矢理こちらに体を向けさせ、
恋次は憤りながらルキアを問い詰めた。
「なに考えてんだよお前!せっかく人が…」
「女とやって得た金で買った贈り物を、か?」
唾を飛ばしながら詰寄る恋次の言葉は、ルキアが発した冷めた一言で遮られる。
その表情の変化は見ものであった。
怒りで赤く染まっていた頬が、一気に熱が引いて白くなり、顔からはすとんと表情が抜け落ちたようだった。
どうして、それを…と、小さく呟く。
「…一週間前、色町でお前の姿を見て、…話を立ち聞きして」
「お、俺は!…俺は、盗んだものじゃなくて、ちゃんと金で買ったものをお前にやりたかったんだ。
別に、あの女に興味があるわけでもねえし、ただあいつ、金だけは持ってやがるし…」
「わかっている、そんなこと!!」
言い訳をするように言葉を並べる恋次にルキアは激しく言い返した。
そうだ、わかっているのだ、恋次のことなど。
この莫迦はいつだって自分のために、身を粉にして働いてくれてる。
恋次が今回こういうことに走ったのも、全部私のためにしてくれたのだと。
わかっているのだ、最初から。だが、それを認めたくはなかったのだ。
そうさせている自分が許せなくて、やるせない気持ちが胸に積もってゆく。
そして、何より――…


「ルキ…」
何か言いかけた恋次の言葉を、今度は自身の唇で塞いだ。
短い一瞬の口付けは思った場所と少しずれたが、それでも恋次の言葉を奪うのには十分であった。
ルキアにとって、そして実は恋次にとっても初めての、口付け。
恋次の着物の裾を固く握り締め、頭上にある男の顔を睨みつける。
夕日に照らされたルキアの顔は赤く上気して見え、瞳は濡れて煌いていた。
ともすれば溢れ出ようとする涙を、必死に飲み込む。
絶対に、泣くものか。
しかし、感情の爆発は止まらなかった。
「他の女のところなんか行くな!!やりたいなら、私がいくらでも相手をする!
こんな貧相な体、嫌かもしれないけど、でも…」
そこで一端言葉を切ると、恋次の胸元にきつくおでこを押し付けて、

おねがいだからどこにもいかないで

祈るように吐かれた言葉は小川のせせらぎに掻き消えるほどか細いものであったが、恋次の耳にはしっかりと届いた。
胸を杭で打ち込まれたような衝撃に襲われた。

――何よりルキアは独りになるのが恐かった。
恋次だって年頃だから、性欲のひとつやふたつ、湧くことだってあるのだろう。
それは仕方が無いことだという諦めとともに、
ルキアには恋次が急速に自分の手の届かないところに行ってしまう様に感じた。
数年前は自分とそう変わらない身長で、一緒に下らないことで大笑いしていたのに。
一体いつの間に女と睦び合うようになったのだろう。
こうやってだんだんと置いていかれて、いつの日か恋次の中で自分が色褪せていまうのだろうか?
もうすでに他の仲間は命を落とし、家族は恋次とルキアのふたりだけになってしまっている。
恋次が遠くに行ってしまえば、ルキアはまた一人になる。
恋次たちと出会う前のように。
たった一人で望む夕焼けは明日など永遠に来ないかのように見えた。
どんなに旨いものを口にしても、味など感じられなかった。
夜の暗闇はルキアを包み込むと決して放そうとしなかった。
独りになるのが恐かった。恋次から遠く離れるのがたまらなく恐かった。
こわくてこわくてしかたがなかった。

恋次はきつく、ルキアの体を抱きしめた。
華奢な体は恋次の体にすっぽりとうずまってしまう。
少しでも力を入れれば折れてしまいそうな体を、きつくきつく、
しかし壊れないように大切に抱きしめた。
「ばかやろう」と、ルキアの耳の側でぽつりと囁く。
その言葉は恋次に言ったのか、ルキアに言ったのか。
否、その両方であった。
ルキアの気持ちなど考えず、金を得るためになんでもやって、
たった一人の家族を不安にさせた自分に対して。
そして、
「やりたいなら相手をするなんて、そんな言葉二度と吐くな。オメーはそんな安い女じゃねえだろ」
優しい声にルキアの体は雷に打たれたかのように動いた。
ゆるゆると顔を上にあげ、恋次の瞳を見つめる。
驚くほど優しい眼差しがそこにはあって、ルキアは急激に愛しさが込み上げてきた。
「俺が悪かった。もう、あんなことしねえから、オメーはもっと自分を大切にしろ」
ぽんぽんと背中を叩いて、あんま遅くならないうちに帰るぞと促すが、ルキアは首を横に振る。
袖をぎゅっと握り締め、真直ぐな目線で恋次の顔を見た。
「抱いて、恋次」
「あ!?」
「今日は、私の誕生日だろ?
ご馳走も、贈り物も、なんにもいらないから、私は恋次がいればいいから。
だから、抱いて」
「…今俺が言ったこと、ちゃんと聞いてたか?」
こく、とルキアは頷く。
「…何言ってんだか、わかってんのか、テメー」
またまたこくりと頷いた。
「恋次だから、いいよ」
自分の口から出た言葉とは到底思えない言葉の数々。
だんだんと辺りを支配していく薄闇の魔力にかかってしまったのかもしれない。
それでも、この気持ちに間違いはないだろうという確信はあった。
この少年の側にいたい。いつまでも。
「それとも、やっぱりこんな体じゃ嫌か?」
嫌なわけがない。
もうずっと昔からこの少女が愛しくて愛しくて、触れたい衝動に幾度もかられながらも触れれば壊れてしまいそうで、
自分の理性が焼ききれぬよう大事に大切にしてきたのだ。
そしてこれからもずっと、そうしていくつもりだった。
けれど、長年焦がれていた相手からここまで言われて、もう引き下がれるわけが無かった。
「…後でやめろって言っても、きかねえぞ」
そう言うと、恋次はルキアの唇に噛み付くように食いついた。

唇を重ねたまま、恋次はルキアの体をすすき野の中に押し倒した。
そしてそのまま何度も角度を変えて、深く深く口付けていく。
息苦しさに空気を求めてルキアが口を開くと、その隙に舌を滑り込ませた。
「…んっ」
ルキアの口内をぐるりと一回りさせ、歯列をなぞると小さくルキアが震える。
その可愛らしい様子に内心笑いながら、奥に引っ込んだルキアの舌を捕らえる。
舌と舌が触れた途端びくりと一端奥に引っ込めたが、意を決したのか、おずおずと絡めてきた。
寒空の下、熱を求めて夢中で舌を絡めあう。
混ざり合う吐息が愛しくて仕方ない。
長い口付けの後唇を離すと、透明な糸が伝った。
口の端についた唾液を指の腹で拭い取ると、
初めての激しい口付けに目をとろんとさせるルキアの顔に唇を落としていく。
頬を伝って瞼の上を軽く啄ばみ、黒く濡れた長いまつげを舐め、手で黒髪を掬い上げてこめかみに吸い付く。
そのまま形のよい耳を甘噛みし、耳の後ろに舌を這わせるとルキアはビクッと体を強張らせた。
ここが弱いのかとねっとりと舐めあげると、ルキアの口からあっと声が漏れた。
耳朶や耳の穴の中をくすぐって、ルキアの髪のにおいを十分噛み締めると、恋次は舌を首筋へと移動させる。
その間にルキアの腰紐を解き、一枚一枚と服を剥いでいく。
恋次の唇が鎖骨にまで達した時には、ルキアは肌着代わりの薄い着物一枚を着ているだけの状態になっていた。
ちゅっと音を立てて鎖骨のくぼみに口づけると、顔をあげてその着古した着物に手をかける。
ゆっくりと開いていくと、冗談のように白い肌が姿を現した。
天に昇った満月の白い光に照らされて、ルキアの体が白百合の花のごとく暗闇に浮かびあがる。
ルキアは貧相だと言ったが、とんでもない。
確かに肉付きは薄いが、女らしい色香をちゃんと醸し出している。
小ぶりな胸の頂点には可愛らしい桃色の突起、そしてこの肌の肌理細やかさはなんだ。
その美しさに圧倒されて、恋次はごくりと唾を飲み込んだ。
ルキアは初めて他人に素肌を見られる恥ずかしさに、目を瞑って顔を横に背けている。
未知の世界への不安に小刻みに震える胸の間を、恋次は人差し指で一本線をかくようにつうっと触れた。
「…ッ!つめたッ」
「当たり前だろ、冬なんだから」
しかしそれっきり触れてこようとしないので、ルキアがおそるおそる目を開くと、
えらく真剣な瞳をした恋次の顔がすぐそこにあった。
「…いいなだな、本当に」
ぎらりと野獣のように瞳を光らせる。
ルキアの全く知らない、男の瞳だった。
胸のうちに恐怖が湧き上がり、やっぱり待ってと声が喉の奥まで出かかったが、すんでのところでぐっと飲み込む。
挑むような目つきで、
「くどいぞ、貴様」
そう言うと恋次はふっと笑って、指と唇で愛撫を始めた。

右手でルキアの手を頭上で固定し、左手でやわらかな感触の胸を揉みしだく。
胸の間を強く吸い上げると痛っとルキアが眉を寄せた。
「な、なに…」
「印、つけた。俺のもんだって」
見るとそこには赤い痕がついている。
「連中に怒られちまうな。大切にしろって、言われたのに」
今よりもっと暮らしがよくなって、ちゃんと食べていけるようになるまで
ルキアに手を出すなというのが逝ってしまった仲間との約束だった。
みんな、ルキアが大好きだった。
抜け駆けは禁止と釘を刺し合ったこともある。
絶対に幸せにすっから、許してくれよ。
恋次は心の中で家族たちに詫びた。
空いている乳房に顔を寄せて、先端の突起にふっと息を吹きかける。
「あっ…!」
思わずルキアが声をあげた。
その可愛らしい声をもっと聞きたくて、桃色の突起を口に含み軽く吸い上げ舌で転がす。
そして片方の胸を指で軽く摘むと、言い知れようの無い感覚にルキアは身を捩じらせた。
口内で転がす度に、だんだんと突起が硬く張っていくのがわかり、
唇を離すと濡れたそこは赤く色づいてぴんと尖っていた。
その様に満足すると、恋次はルキアの体中を弄った。
指をしゃぶり、腕の付け根に唇をよせ、赤い花を散らすと腹を薄く撫でる。
「ん…は、あっ…恋次ぃ…」
強く優しく、強弱をつけた愛撫の気持ち良さに溶けてしまいそうになる。
白い肌がだんだんと薄く色づいていった。
ルキアの体が無意識に動き、太ももを擦り合わせ始める。
その様子に気づいた恋次は指を下腹部の方へと這わせた。
固く閉じられた太ももの間に手を差し込んで、ルキアの中心をなぞった。
「はっ」
ルキアが体を大きく揺らす。
その隙をついて足の間に体を割り込ませた。
触れやすくなった中心にはわざと触れないで、焦らすようにその周囲に円を描く。
たまらずルキアは嬌声をあげた。
「んあっ…はあん…や、いやだ、恋次っ…」
「何が嫌なんだよ、言ってみろ」
嫌がっているわけではないことを知っていて、わざとそんな風に語りかける。
「だって…そんな、とこぉ…」
強烈な感覚の波に攫われまいと、ルキアは必死に恋次の髪や肌蹴た服を掴んだ。
その拍子に恋次の髪紐が解け、赤い髪がばさりと降ってくる。
冷えた空気をたっぷりと吸った髪の毛がルキアの肌の上に散った。
「そんなとこって言われてもなあ」
恋次はそこで初めて割れ目をなぞった。
ぬちゃっと水音がして、恋次の指にねっとりとした液が絡みつく。
「こんなに濡れてるぜ、ここ」
目元を赤くするルキアの前で指を開くと、指の間で透明な液が伝った。
それを見てルキアの顔が一気に赤くなる。
興奮と気恥ずかしさで体中が火照り、湯気が出てきてしまいそうなほどだった。
恋次は指をぺろりと舐めると、指と共に唇も中心へと寄せていった。
入り口の上の芯を優しく撫で、震えるそれを口に含んだ。
「うああっ」
体の奥底から言い知れようの無い感覚が這い上がってきて、唇からとめどない喘ぎ声が漏れる。

恋次は舌でじっくりと芯を舐めあげると、十分に潤った入り口に指を一本差し入れた。
「はっ!」
一際高い声があがり、ルキアは体を弓なりに反らせる。
恋次は逃げられないようにしっかりと腰を抑えこむ。
つぷつぷと音を立てて、初めての侵入者をルキアの内部はあっさりと呑み込んだ。
道を作るようにゆっくりと、最奥まで指を潜ませると肉壁が指にまとわりついてきた。
そして内部を擦るように出し入れを始める。
やまない舌と指での愛撫。
高くなる喘ぎ声、くねる肢体。
初めての感覚に酔いしれて、ルキアは行為に夢中になった。
恋次は中の指を一本増やし、さらにもう一本増やし、内部を弄り回す。
押し寄せる波から逃れる術は無く、うねる感覚に呑み込まれ、ルキアは生まれて初めて絶頂に達した。
「ああああああ…!!」
収縮を繰り返す体内から指を引き抜くと、恋次は自分の着物をゆっくりと脱いだ。
しんっと冷えた空気は興奮で熱くなった体には丁度よい。
もうすでに痛いほど膨張し、そそり立ったそこが露になる。
快感に震えるルキアはぼんやりとどこか他人事のようにその様子を見ていた。
「きついけど、我慢しろよ」
そう断りを入れて、恋次はルキアの入り口に自身を宛がうと、ためらいなく一気に貫いた。
「あ、あ、あ、あ―――!!!」
あまりの痛みにルキアが激しく抵抗を見せた。
「いや、痛い…!れんじ、やああっ…!!」
十分に溶けていたはずのルキアの内部も、恋次自身ともなると話は別なのだろう。
激しい痛みから逃げようと、大きく体を動かすルキアを、恋次は必死で押さえ込む。
「動くなルキア、逆にきつくなる…!」
仕方なく、少しでも痛みを和らげるようにルキアの体に触れて刺激を促す。
その甲斐が合ってかぬるりとした液体が溢れ出てきて、なんとか奥までたどり着いた。
繋がった部分がひどく熱く、どくどくと血が流れているのがはっきりとわかった。
無理矢理進入したそこは、恋次を外へ押し出すようにぎゅうっと、痛いほど締め付けてくる。
恋次はそこで一息ついて動きを止め、ルキアに覆い重なってぴったりと肌を合わせるようにすると、
ルキアは泣きながらがむしゃらに、恋次の体にしがみついてきた。
「れんじ、れんじ、れんじ…!!」
何度も自分の名を呼ぶ愛しい存在に、初めてルキアと繋がった喜びに、
恋次も感情が高まって不覚にも涙が零れ落ちそうになった。
こんな感情、いくら他の女を抱いても湧いてこなかった。
そうして改めて自分の愚かさを思い知る。
俺はルキアを食わせるためだとか、暮らしていくためだとか言って、
ルキアを口実にして、実際は他の女に快楽を求めていたのかもしれない。
そう愕然と考えた。
でも、そんなものに意味はなかったのだ。
俺はずっと、ルキアだけが欲しかったんだ。
他のものなんてなんにもいらなかったんだ。
今こうやって、ルキアが俺を求めてきたのと同じように。
わかりきっていたはずのその事実を改めて突きつけられ、恋次は慙愧の念にかられた。
「ごめん、ごめんな、ルキア…」
繋がったままの細い体をぎゅっと抱きしめて、恋次はありったけの愛を込め、ルキアの濡れた唇に触れた。

引き攣るような痛みと苦しみに耐えながら、ルキアはその優しい口付けを受け取った。
涙が溢れた瞳をうっすらと開けると、赤い髪の向こうに満天の星空がぼやけて見えた。
冬の寒さは空気を透明にして、無数の星々が煌き瞬いている。
弱い風にすすきの花穂が揺れた。
流れ星が幾筋も降っていて、まるでルキアの心に流れ落ちてくるように感じた。
土のにおいに混じり、嗅ぎ慣れた恋次のにおいが胸いっぱい広がる。
ルキアはここ数日ずっと苛まれてきた孤独感が急速に満たされていくのを感じた。
大丈夫だ。恋次がここにいる。私の側に、こうして、いる。

薄れてゆく意識、そのまどろみの中で、恋次の声が聞こえてきた。
「まだ、言ってなかったよな、ルキア。誕生日、おめでとう」
ルキアは笑った。ふわりと、花がこぼれるような柔らかい笑み。
それは恋次がずっと見たいと望んでいた笑顔だった。


(完)