頬を撫でる風は心地いいのに、頭の中は茹だるように熱い。
いつものように窓から一護の部屋に入り込んだあと、何かに急かされるようにルキアは押入れに飛びこんだ。
それからすぐに襖を閉めた。一護はまだ帰っていなかった。
(ああそうだ確か水色の買い物に付き合うと言っていた)
ほっとした。一護には知られたくはなかった。
この火照った顔を見られればすぐにでも察知されてしまいそうな、下半身のどうしようもなく甘い疼きを。
きっかけは放課後。いつも通りの屋上だった。
たまに帰り際になっても一護が見当たらない日などは、ここで少しの間ぼうっとするのが習慣になっていた。
いつも通りのはず、だった。
気が付けばブラスバンド部の練習の音が止み、校門から生徒が帰っていく姿もまばらになっていた。
辺りは夕日の名残がわずかに残るだけで、闇がそこまで迫っていた。
(長居しすぎたかな)
ルキアは重い腰をあげ、帰ろうと階段口の方へと進みだした。
いつも通りだった。・・・ここまでは。
「だめだよお・・・ねえ、誰か来ちゃうよ・・・」
(・・・!?)
突然、闇の中から甘い女の声が聞こえたのだ。
階段口の向こう側からだった。
(なんだ、こんな時間にまだ残っている生徒がいるのか?)
「誰も来ねえって」
男の声もする。心なしか声が高揚しているようだ。
ルキアの思考は、すぐさま一つの予想にたどり着いた。
(・・・まさか)
薄暗い放課後、若い男と女、人気のない屋上、人目をはばかるように小声で交わされる会話。
「・・・ん・・・っ」
ルキアはその場に硬直した。
予感は的中した。
その二人は、ここに明確な目的を持ってやって来たのだ。
ルキアが居ることも知らずに。
(あやつら、は、始めおった・・・!)
「あっ・・・だめぇ・・・」
女の昂ぶった声が暗い屋上にこだまする。この状況に興奮しているのだろう、遠慮なく嬌声を上げる。
(・・・・・・っ!)
ルキアは恥ずかしさで顔が真っ赤になるのがわかった。帰ろうと思っていたのに、これでは迂闊に身動きも取れない。
思い切って彼らの眼前に出て行けばいいのだろうが、生憎そんな神経は持ち合わせていない。
強制的に彼らのパフォーマンスにつき合わなければならないようだ。
一体どれくらいの時間が必要なのだろうか予想が付かないが、ルキアは心を無にして待機しようと決心し、
音を立てないように階段口の逆側の壁にもたれて座り込んだ。
すると、暫く黙っていた男が口を開いた。
「なあ、どうされたいか言ってみろよ。どこがイイんだよ?」
意地悪く女に向かって質問する。
「そこっ・・・、そこなの、そこがイイのお・・・っ」
「そこって?それじゃ分かんねえなぁ」
「え・・・そ、そこだよぉ・・・!」
半泣きといった声で、女がか細い声で答える。
ルキアは思わず息を飲んだ。
「体ん中に『そこ』なんてトコ、あったっけな〜?」
「い、いじわる・・・っ」
「正直に言わないと何もしてやんねーぜ」
「・・・・・・!」
「ほら、言えよ」
「・・・っ」
長い沈黙。
屋上の風は涼しいを通り越し、既に肌寒いと言ってもいいものだった。ルキアは思わず手に息を吹きかけた。
そして、驚いた。
手にかかった自分の吐息は、熱かったのだ。
まるで興奮しているかのように。
ルキアは、ずっと黙って俯いていた。
下半身だけでなく全身が疼くように熱くなっているのは、もうはっきり自覚していた。否定する気もなかった。
その後、彼らのコトが終わったのはもうしばらく後のことだったが、ルキアはいつ彼らが帰ったのか、自分がどういう風に学校を抜け出したのか、よく覚えていなかった。
ただ夢中で帰路を急いだことだけは覚えている。
* * * * * * * * * * *
真っ暗い押入れに入ってからも、体の火照りは収まる気配はなかった。それどころか、厭らしく女を攻め立てる男の声が耳にまとわりついて離れない。
『なあ』
『どうされたいか言ってみろよ』
『どこがイイんだよ?』
(・・・どこ、って)
ルキアは、本能の命じるままにスカートの裾を捲った。
(ここ・・・、だろう)
ずっと独りだった。自分の慰め方くらい、知っている。
はしたない事だということも知っている。
ここが人の家の押入れだということだって分かっている。
一護という、男の部屋だということも承知している。
下着の上からゆっくり割れ目をなぞった。そこは既に布が透けるほど湿り、熱を持っていた。
指をやわやわと移動させ、薄い布の上からでもはっきりわかるほど膨らんだ花芯を探り当てる。
「んっ・・・」
思わず、ルキアの口から小さいうめき声が漏れた。
『それで、ここをどうされたいんだよ?』
頭の中の男の声がぼやける。
気のせいか聞きなれた声に聞こえて、こめかみのあたりが痺れた。
頭の中までぼやけてきたのか、頭が痺れているような錯覚に陥る。
「・・ここが・・・」
ぼやけた頭のまま、虚ろに返事をした。
「ここ、が・・・疼くんだ、一護・・・!」
屋上の男の声や喋り方は、確かに一護とよく似ていた。
あの屋上で最初に聞いた時から、実はシンクロさせていた。一護を冒涜するからと、意識して考えないようにしていたのだ。
・・・駄目だということは分かっているのに、今更頭の中の一護を退かすことは不可能だった。
『なあ、そんな薄布取っちまえよ』
“一護”が意地悪く攻めてくる。
あの男が屋上であの女にしていたのと同じように。
ルキアは“一護”に指示されるまま下着を取った。
吐く息が荒い。
どうしようもないほど体が疼く。
でも本当の一護はこんなことは言わない。私だってこんなことはしない。
それでも一護に攻められていると想像した瞬間、頭がおかしくなりそうになった。
私は一護にこうされることを望んでいるとでもいうのか?
まさか一護に犯されたいとでも言うのか・・・?
『ほら。自分のイイトコ、触ってみろよ』
頭の中の一護が、無意識に自分が言わせているのだろうけど、勝手に喋ってルキアを煽る。
それに従って、ぷっくりと硬く膨れた小さな芽を人差し指の先でつん、と触れる。
「あ・・・、っ・・・!」
いきなりの刺激に、ふるふるっとルキアの体が震えた。
『ちょっと触っただけだろ?やらしいな、オメーは』
(や、だ・・・っ)
現実と想像の境目なんて、もうどうでもよくなっていた。
ただ一護が喋るだけで、ルキアの蜜壺は期待にひくひくと蠢いて泣いた。
『で、そこをどうして欲しいいんだ?ルキア』
一護が、ルキアの望みどおりの質問をした。
ルキアも欲望のまま、正直に答えた。
「お願いだ・・・滅茶苦茶に、して欲しい・・・!」
指を動かすと、屋上で聞いていたようなくちゅくちゅという水音がした。空いた左手で、かたくなった胸の突起を同時に弄ぶ。
本当に一護に後ろから羽交い絞めにされ、指で蹂躙されているような錯覚に陥る。空想の一護の胸板を背中に感じているような気がして、背筋がぞくぞくする。
『お前ってこーゆー風にされると感じるわけ?』
「あっ・・・、ふ・・・っ、や・・・!」
『ちっちぇえくせにすげーヤラシイ体だなあ、オイ』
「ん、んんっ・・・いやぁ・・・」
『何がイヤなんだよ、こんなに溢れさせて。気持ちイイんだろ?』
「やっ・・・はぁ、やあんっ・・・!」
(一護っ・・・!)
赤く充血した花芯は益々膨れ上がり、下腹部が耐えられないほどじんじんと熱い。
ルキアは本能の赴くまま、指を自分の内部へ侵入させた。そのまま肉壁をちゅくちゅくと擦り上げる。
「あ、ああ・・・!あうっ・・・んんっ」
(一護に犯されているみたいだ・・・)
そう考えるだけでまた内部の熱が簡単に上昇し、それにつられて指の動きが早くなる。
ルキアの頭の中は既に真っ白に近くなっていた。そろそろ限界が近い。
ただ快楽を貪るためだけに、ルキアの指は意思と関係なくもう殆ど無意識に抜き差しを繰り返していた。
「はァん、や・・・、ああ!あぁン、んん・・・ッ」
(私はなんて厭らしいことをしているんだ・・・!)
「ああ・・・いや・・・っ、あぁ・・・、はぁ、はぁ、・・・い、いち・・・っ」
(一護のことを考えて・・・それで達してしまいそうだなんて・・・!)
『・・・ルキア』
意識の淵で幻聴を聞いたような気がした。
一瞬、目の前に、一護の快感で歪み汗ばんだ顔が見えるような、そんな感覚に陥った。
それだけでルキアには十分だった。
「あ、あ、あっ・・・ぁっ、いやぁっ・・・いち、ごぉッ・・・・・・!」
全身をびくびくと痙攣させ、ルキアは快楽の渦に飲み込まれた。
(ぜってー怒ってるだろなァ・・・ ま、あいつの喜びそうなモン買って来たんだし。大丈夫だろ)
水色の買い物に付き合わされていた一護が戻ってきたのは、もう夕食の時間をゆうに回っていた。
間に合わないと判断して途中で水色と夕飯を食べて来てしまったので、今日はルキアに夕飯の残りをやることが出来ない。
それで、一護は機嫌取りも兼ねてちょっと豪華なほか弁と白玉あんみつのパックを買ってきたのだった。
そのまま、勢いよく扉を開けた。
「ただいまー、遅くなって・・・」
ガターン!!
その瞬間、押入れからもの凄い物音がした。
「・・・ルキア!?どうした、開けるぞー!」
「え、わ、わわわ!ちょッ・・・、」
押入れの中からルキアの慌てた声が聞こえる。
一護は何の躊躇いもなく押入れに手を掛けた。
「どうしたルキア?今日はお前の好きな白玉・・・」
・・・その後は神のみぞ知る。
(完)
続編有り。こちら